生きる希望も未来も失った少女が様々な人の想いに触れ、自分を見つめ直す。彼女の行動、心理はどれも心揺さぶるものばかりで、私まで彼女に魔法をかけられた気分だ。
ねこねこソフトより「すみれ」に登場するキャラクターである"あかり"が本作では大いに物語に関わってきた。あかりと言えば本編では他のヒロインが立ち直れるようサポートしていた印象が強かったが本作でもそれは同じだった。違うのはパソコンが越しや見えない状態ではなく、生身で相手と関わってること。それがいずれ何に繋がるか、サポート役から証人、そして友達にという流れが非常に自然且つまあズルかった。
自分が生きた証を残すために、見てもらうことが目的だったのに、いつの間にそういった枠組みを超えていた。これはスミレ以上にあかりが感じていたんだろう、だからこそ彼女の残した言葉に涙した。そしてこのスミレがかけた魔法が、すみれにて効力を発揮する。
本作をやってからすみれ本編をやると恐らく、いや確実にあかりシナリオの印象が変わることだろう。あかりが何を感じ、どういった考えで動いていたのか、このナルキッソス スミレをやることで理解がより一層深まる。
さて、この作品はこういった「あかり」と「スミレ」の話というのが主としたものとなっているが、それ以外にも「家族」と「スミレ」の話というのも中々に目を引く。いつの間にかスミレに対しどう接していいかわからなくなっていた家族と、それを寂しいと思うスミレ、でも言い出せない。難しい家族関係だった。
そんな関係はスミレが入院してからも続いていたため、このまま家族との仲は断ち切られ、あかりとの話が続いていくのかと思っていたが違った。しっかりと最後には仲を修復していた。
スミレは笑顔を作り、明るく振る舞う。家族を安心させるために、家族の寂しさを取っ払うために。寂しかったのは彼女だけじゃなかったということが病院内での兄との会話にて明らかになった、家族全員が寂しいと感じていたんだと。
はじめは彼女を見ていて辛いとも思ったが、改めて考えると、あれが彼女の本心からの行為ではないにしろ、あれは彼女も熱望していた空間だったのかもしれない。少なくとも他人行儀な接し方はされない、家族らしい光景が広がっていたのだから。
個人的に病院内での兄との会話が非常に好みで、正直、兄がPSPを買ってきた時点で少しうるっときてしまった。あの時兄は自分自身のためだと言っていたが、彼の気持ちが、家族の気持ちがスミレに伝わるきっかけになったのは間違いないのだからあの行動はやはり大きかったと思う。
すみれとの接点が非常多く、故にこの作品単体での評価というのは難しいが、スミレの行動に逐一心を動かされたのは間違いない。