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asteryukariさんの天ノ少女《PREMIUM EDITION》の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
天ノ少女《PREMIUM EDITION》
ブランド
Innocent Grey
得点
86
参照数
1395

一言コメント

作中の人物達へ区切りと祝福を与えた、物語を締めくくるに相応しい作品であった。本当にありがとう。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

とうとう発売されたシリーズ最終作。リアルタイムで追っていたユーザーさんなんかはもう本作をプレイできること自体に喜びを感じていたのではないだろうか。私自身は後追いした身なので彼らほどの思い入れはないかもしれないが、それでも前々作、前作で心を揺らされた一人のユーザーであることには変わりない。本作のプレイを心待ちにしていた。

さて、天ノ少女本編の感想だが…すごく良かった。この先、内容に触れつつ色々と述べていくわけだが、まずは率直な感想を言っておこうと思う。最終作という事でどうやって占めるのか、またそこに至るまでにどんな物語が待ち受けているのか、期待値が高い故のちょっとした不安もあったわけだが見事の出来だったと言えよう。細かい事を言えば最後まで謎を抱えながら消えていった人物や、事件のケリの付け方などなど気になる点もいくつか残った。

しかしながら本作に余りある魅力があった。それについて語っていこうと思う。

一周目がきちんと面白かった点が良かったなぁとつくづく思う。前作「虚ノ少女」のTrue Endを見たからなら誰しもその後の続き(特に冬子の赤ん坊の行方など)が気になって仕方なかっただろう。それこそ新しく起きる殺人事件よりもずっと。私はそんな状態だったので、はじめは早くTrue Endが見たいばかりであった。

だが、物語を読み進めていくうちにその考え方は自分から離れていく。相変わらずグロテスクながらも美しい死体と謎めいた細工。羽が付いていたり、手足が欠損していたりとても目を引く。ここのブランドが持つ魅力の一つだ。そして、それに込められたメッセージ性と被害者の共通項を追っていくのが醍醐味でもある。

「ああ、そうだ。このシリーズの面白さはこういう所だよなぁ」と、捜査パートを繰り返しやるうちに思い出した。死体は見つかるのに真犯人はわからない。前に進んでいるはずなのに道が次々と枝分かれしていくようなあの感覚がとても心地いい。

今回の天罰の事件で初登場となる前園静というキャラクターがかなり不思議な雰囲気を纏っていて、故に惹かれる瞬間が多かった。感情なんて滅多に表に出さない作品作りだけに関心があるタイプかと思いきやそうではない。

自分のせいで誰かに迷惑がかかった事に気付くと即、その人物を庇うような動きをしたり、自分の娘に対する愛情は人並みかそれ以上だったりと、とても人間味のあるキャラクターだった。特に前者の行動からは千絵が彼女を慕う理由がわかる。腕がいい事は勿論、教え方や接し方も丁寧だったのだろう。でなければ千絵のようなタイプの女の子があそこまで入れ込むはずがない。

そして、一作目から追い続けてきたユーザーの多くに衝撃を与えたであろう八木沼の件。カルタグラの頃と比べるとだいぶ丸くなって、立場らしい振る舞いをするようになった彼。ようやく仲間らしくなってきたなと思った矢先の出来事だった。

あの逃亡劇の真相がわかった時は「八木沼ァ!」と言いたくもなったが、その先に待ち受けている光景を見て沈んだ。一周目の選択肢は実質どちらもBADだが、部屋に入った時点で事が済んでいる結末の方が辛かった。何が辛いって、泣いてるじゃんお前...。いつも強情で自信に満ち溢れている彼だったが、それは表の面。あの光景から八木沼了一という人物の全てが曝け出されてしまったようでもう見ていられなかった。

で、六年後に飛んで消化不良のまま終わってしまうのが一周目。消化不良と言っても六年も経っていることで情報量もかなり豊富。探偵の助手になりたいと口うるさく言っていた歩が捜査一課に配属されていたり、紫が大学生になっていたり、傷の舐め合いから玲人とステラが深い関係になっていたり...。どういった過程でそうなったのか、その間を見せてくれよと迫りたくなるほどであった。

二週目のはじめには本編の前日譚であり、前作のその後が描かれたシナリオが用意されていた。冬子が玲人にとってどういった存在であった、その大きさを実感するお話である。無論、私自身も彼女の事は少なからず想っていたので中々にくるものがあった。生きた彼女は一作目でしか出でこないにも関わらず結局、最終作まで玲人やユーザーの心の中で生き続けている。これが本当に凄いなと。

また、葬式のパートで玲人が千鶴に分骨頼むシーンなんかもしっかりしている。これが後に繋がるのも素晴らしいが、それを千鶴さんに頼むのがわかっている。千鶴さんならば譲ってくれるだろう、文弥に直接頼んでいたらどうなっていたことか、考えるだけで寒気がする。

二週目は基本的に一周目の補完をしつつ、一周目で掴むことが出来なかったものを掴みにいくという事で、千絵の逮捕やら八木沼の救済やらが用意されていた。八木沼にとって今回が救いなのかというと微妙なところではあるが、私としては素直に嬉しかった。そう思うと同時に「あれ、いつの間に八木沼のこと好きになってるじゃん」と笑みが零れたわけだが。不思議なこともあるものだ。

そして、本格的に物語が終わりへと動き出すわけだが、終盤までは当たり前のように色羽にしか目がいかない状態になっていた。血液鑑定で彼女の娘であることがわかって、向こうの過程に渡るまでの経緯も把握できて、それでも自分の下には置けない。その時の玲人の心情を考えるとただただ涙が出た。

ステラとの会話も非常に印象的で、ぱっと見て容姿が近いのは春花の方だろうにしっかりと色羽を指指す。それが私はたまらなく嬉しかった。そんな彼女だからこそ、玲人は傷を舐め合う相手に選んだのだろう。いや、受け入れたというべきか。改めて二人の関係性に納得がいく場面であった。

物語は「文弥のパラノイア」、「千鶴のパラノイア」、「Grand END」、「それぞれの天国」、「True END」の五つの結末を迎えるわけだが、今回は「Grand END」と「True END」について触れたいと思う。

Grand ENDは玲人が六識命を撃つことで迎える結末。因縁を断ち切るという意味ではこちらのENDもかなり好きだ。単純に六識を玲人が殺すという行為自体も良いのだが、その後の墓参りのシーンが本当に素敵だ。冬子にばかり囚われているような玲人であったが、しっかりと彼女の事も覚えていたのだと、それが何よりぐっときた。

また、「兄を愛しているか」という紫の質問に対するステラの答えがとても好きだ。彼女自身、彼にとって自分がどういった存在であるか、その逆もしっかりと理解しているのだ。その上で付き合っている。強い子だとは言わないけれど、優しい子であることは間違いない。約束通り、一緒に冬子の墓参りに行くところも良い。このENDを迎えることでより一層ステラの事を好きになれた気がする。

あとはまあ、ようやく一緒になれた二人におめでとうの一言。おめでとう。


True ENDは胸を締め付けられた後に最高のサプライズをぶつけられたような、そんな感覚だった。

「あの子にはきちんとした家族が居る。」
冬子の娘である事実と、親としての心情。彼の葛藤を考えるだけで胸の奥に痛みが走る。「僅かに残っていた未練」と言うけれど、その僅かが彼にとってどれほど重いものだったか。玲人と共にこれまで歩み続けてきた者ならば理解できるはずだ。

そして…だからこそ、その後の展開は効いた。色羽の視点に切り替わった瞬間から画面が滲んでいたと思う。


クリア後にタイトル画面をぼーっと見続けてしまうような、特大の余韻を残してくれる一作であった。きっとリアルタイムで追っていた人はこんなものじゃないのだろう。この作品を追い続け、待ち続けることが出来なかった。それだけがとても悔しい。

素敵な作品をありがとうございました。