ボリューム満点過ぎるが√によって見所はかなり異なるため、プレイする際はぜひ完走してみてほしい。主人公が大変魅力的な一作だった。
「ハートフル近未来学園AVG」なんて文字を見た時はブランドのイメージから大きくかけ離れているなぁと感じたが、これは当時もそうだったようである。序盤はヒロイン達と平和な学園生活を送っていくわけだが、中盤以降は段々と色を見せてきて、終盤は完全にニトロらしさ全開のシナリオ展開になっていく。やっぱり最後はそうなっていくのだなと喜びの笑みを零してしまった。
本作置いてまず注目すべき点は主人公がロボットであるという事実。途中で自分がロボットだと気付くなどといったお話ではない、始めから主人公は「グローバルイルミネーション」の為に「HIKARI」に作られたという前置きがあるのだ。しかしながらそのHIKARIという存在やグローバルイルミネーションは何なのかは分かっておらず、物語の進行に合わせてそれらの謎が開示されていく。
そういった具合で終盤は上記の内容に言及した話が組まれていくが、序盤はもう本当に二以上パート。知らないキャラクターと出会う度に主人公は専用のクラスタを作り、情報を蓄積させ、その人物に対する理解を深めていく。主人公がロボットの作品は他にもあるが、これほどまでに情報収集の描写が丁寧な作品は中々無いのではと思う。
そうやって交流を深めていくうちに彼女たちの情報価値も上昇し、それらはやがて興味や好意となる。そして、それが主人公の価値観を作り上げていく。冗長に見える日常パートにもしっかりとした意味があり、日常パートがあったからこそ終盤に決断ができるようになるといった作りをしていた。
とは言いつつも、まあ大ボリュームの作品なので冗長に感じる瞬間がなかったとは流石に言えない。一周目は新鮮な気持ちでプレイできたが、二周以降はヒロインが変わるだけでストーリーの主軸は同じ。パーカー男やIZUMOの暴走にはもういいよとも言いたくなるわけだが、終盤の「誰を救うか」のところからは内容が√によってガラッと変わる。加えて尺もそれなりにあるため、個人的にはきちんと全√読んでほしい。
以下√ごとの感想
〇奈都美√
毎回のように攫われてしまうお姫様ポジション。主人公が初めて意識した女の子だけあって、本作におけるメインヒロインと言えるだろう。どこまでも純真無垢で頼りない。まさに護ってもらうために用意されたようなキャラクターだ。
どの√でも主人公が大活躍なのだがヒロインの性質も相俟って、この√の主人公はとんでもない活躍を見せてくれる。オシリスの操り人形になってしまった遥香を討ち(どの√でもそうだが個人的にこの√が一番辛い)、奈都美を追いかけるためにラプターになり、地球から脱出するためにロケットのエンジンを動かしと、その辺の男の子ではできないことをやってのける。流石はロボットといったところか。
結末に関してはこの√だけで見ると切なく感じるかもしれないが、他√を見た後に改めて考えるとこの√が一番幸せなのかもしれないなと。というのも他が壮絶すぎるので…。
〇薫√
他√では必ず彼女を振らなければらないという悲しい立ち位置にいるヒロイン。普段は強気で何かと命令してくるくせに、弱るととことん頼ってくるタイプ。実はヒロインの中では一番乙女らしさを持っている子だったのではと。
そんな彼女だが、選んでしまえばその後は持ち前の気の強さを生かした行動をしてくれる。奈都美と比べるとその違いは歴然で、その影響力は仲間にも及ぶ。
「ロボットでも、この人は私の知っているクラスメイトです!」
「世界が人を変えるんじゃない、人が世界を変えていくの!」
和樹を庇いながら野田さんが訴えるシーンはこの√屈指の名シーンだ。結末も彼女の言葉にちなんだものとなっており、和樹の子供たちが新しい世界を作っていくという希望に満ちた終わり方をしていた。一気にまとめた感はあるが、テーマはしっかりしていて嫌いではない。
〇千絵梨√
自己中心的で感情的。まさにお嬢様の名が相応しいヒロインだが、そのくらいがむしろ可愛らしいなと私は思う。付き合い始めるとどんどん化けの皮が剥がれていく感じが好きだった。
お嬢様という事で執事役のキャラクターがでてくるわけだが、本当に望んでいた通りの活躍をしてくれた。「死」を望み通りと言ってしまうのは中々滑稽な話だけれど、良い散り方をしてくれたと思う。彼の千絵梨に対する愛と、千絵梨の彼に対する想いを再確認できる良いシナリオだった。
「でも和樹君が置物になっているのはなぁ…」なんてことを考えながら読んでいたので、あの結末には度肝を抜かれた。
「そもそも、逃げるという選択肢などはない」
「道は、前に向かう一つしかないのだ」
「ならば、ぼくは走らなければならない」
共依存ENDで終わりかと思っていたが、決してそんなことはなかった。友永和樹という男の雄姿が見られる素晴らしい結末だったと自信を持って言える。結末としてはこの√が一番好きだったりする。
〇深佳√&和佳奈√
深佳はヒロインの中で一番幼いという事で感情の動き方も見ていてわかりやすかった。和佳奈については正直、驚きで予想より遥かにメンタルが弱い乙女気質な女性。だが、その弱さが描かれていたからこそ最後の行動が映えたのかなと。
この二つの√は遥香を殺すところまではほぼ同じだが、その先が違う。深佳√では主人公が深佳を庇って死ぬのだが、和佳奈√ではなんと和佳奈が主人公を庇い死に、そして深佳も死んでしまう。どちらかと言えば救いがあるのは深佳√だが、個人的に和佳奈√も嫌いではなかったりする。まあ何にせよ双方ともすっきりはしないが...。
〇遥香√
情が湧いていただけに、彼女を何度も何度も殺さなければならないこの作品の仕様に絶望した。しかも殺した後に正気に戻るなんて憎らしいプレゼントもしてくる。本当にこの子が何したっていうのだと言いたくなる。
だからこそ彼女の√が存在すると知った時は嬉しくて仕方がなかった。やっと彼女を銃殺しなくて済むのかと、それだけでもう...。えっちで正気に戻すというのは苦笑だったが、まあ幸せそうな遥香ちゃんが見られたので良しとしよう。
感動と絶望を繰り返しながら読むような作品ではあったが、読後に残ったのはプラスの感情であった。惜しむらくはヒロインに魅力がない点、主人公を魅せるためには良い判断だったと思う反面、一人くらいは好きになれるヒロインが欲しかったなと。ちなみに一番好きなキャラは純子さん。何はともあれ読む価値のある作品だった。