シリーズの完結編というよりかはもっと長い歴史に幕を下ろした胸にくる一作であった。そして、そんな作品だからこそリアルタイムで追いかけたかった...。
初めてこのシリーズを認知した時、私は大笑いした。ギャグとエロスにだけ力の入れられた、言ってしまえば心には残らない作品だろうと勝手な印象を抱いていた。だがそれは違うと一作目をプレイした時にハッキリとわかった。確かにギャグテイストなやりとりが多くみられる作品ではあるけれど、シリーズを通してきちんと麻呂の心境の変化も描いている。
闇医者、彦麻呂は今まで自分の欲望のために生きてきた。しかし、咲美や雅史と出会い、雪菜と出会い、自分のためだけに生きる無意味さを段々と理解していった。最後の友子とのお話は、一見すると唐突にまとめに入ったようにも感じるが、彼がどう変わったかを見せるために用意されたシナリオだと考えると納得できる。
あんなに巨乳好きだったのにちびっ子と恋愛するのかと、はじめは私も戸惑ったのだが、恋愛関係には至らず、あくまで彼は救うべき対象として彼女の事を見ていた。彼女と一緒に居ることに居心地の良さを感じつつも、彼女の思い残したことに触れていく。その光景は形こそ違えど、医者と患者のやりとりであった。頭に「闇」なんて付かない、お医者さんの姿がそこにはあった。
そして、決して麻呂のみが与える側ではなかったからこそ、最後の行動に繋がっていく。これまで持ち得なかった家族と過ごす事の幸せを自分に与えてくれた。それが心の底から嬉しかったからこそ、ああいった行動に出たわけだ。そこに偽善なんてない、あるのは感謝の気持ちのみ。その感謝の応酬がとても胸に染みた。
「その顔は晴れやかで」
「もはや何の憂いも迷いもない」
一枚絵はなかったけれど、この文章を見ただけで彼がどれほど幸せだったかがわかる。脳裏に浮かんだのが咲美だったのもシリーズを歩んできた者としては嬉しい。
そんな感じで麻呂の物語としても良い結末を迎えていたのだが、エンドロールにて出てくるあの一文を見て、感じ方がガラッと変わった。この作品はelfの最終作でもあったわけだ。
そう思うと「長い間お疲れ様でした」や「だけどみんな忘れない」といった言葉が別の意味を持ってくる。麻呂の独白に込められた制作陣営の想いが伝わってくる。実はとってもメッセージ性の強い作品であったということに気付くのだ。
私は新参者なため、elf作品は数個しかプレイしていないのだが、それでも中々にくるものがあった。だから昔から追い続けてきたプレイヤーがあの一文を見たらもう泣きだしてしまうんじゃないかと思う。培った経験がそのまま感動に繋がっていく。こういう作品に出会うとつい思ってしまうのだ。
「彼等が羨ましい」と。