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asteryukariさんのこの世の果てで恋を唄う少女YU-NOの長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
この世の果てで恋を唄う少女YU-NO
ブランド
MAGES.(5pb.)
得点
87
参照数
174

一言コメント

ハードルが上げ足りなかった。素晴らしい一作をありがとう。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

エロゲという世界に足を踏み入れた時から認知していた作品。溢れんばかりの期待を胸にいざ冒険の旅に出たわけだが...それがもう最高に充実した旅路であった。こんなにハードルを上げておいたのにもかかわらず、悠々とそれを超えていったから嬉しい。

宝玉セーブシステムは戸惑いよりも衝撃が先に来た。よく出来ているなぁと、日頃ADVを嗜んでいる身からするとかなり驚かされた。はじめは分岐でも何でもないところで宝玉を消費してしまうなんてポカをやらかしまくったけれど、慣れてくるとその使い勝手の良さと与えられた宝玉の数のバランスに感心する。

戸惑いというか詰まったのはまああのロジックパズルだろう。一回目こそ一時間も経過しないうちに解くことができて、まあ余裕の笑みを浮かべていたのだけれど…二回目は数時間ほどもってかれた。意味を理解するのもそうだが、1~6までの数字が左から順番に並んでいるのに対して、10だけ真ん中にしてくるのは性質が悪い。それに気付かず、ずっとうーんうーんと唸っていた。

そして、シナリオに関しては圧巻の一言。現代編と異世界編に分けて感想を述べていく。

<現代編>
ユニークな性格をした主人公は肌に合ったし、次々と登場する見目麗しい女性陣を見て気分も高揚した。中でも澪ちゃんは容姿、性格、声ぜんぶ満点に近くて、序盤は彼女の事を追いかけるように物語を読み進めていた。まあそんなわけで初っ端から攻略順を間違えてしまったのだが。先に進めず絶望した。その後は亜由美ルート、美月ルート、再び澪ルートという順路で進めていくことになる。

亜由美ルートはきっと多くの人が始めに分岐する話なのかなと思うが、にしては内容が辛すぎる。自己の責任を追及され、卵を投げつけられる姿を見ているだけでも辛かったのに…豊富、お前だけは絶対に許さない。そういえば豊富は同ライターの作品であるEVEの二階堂に性格、やり口がよく似ていた。二度もこんなに憎らしい人物を用意してくれるだなんて良い性格している。亜由美さんは他ルートでも良いなと感じる場面が多く、だからこそ辛くなる。

読みたかった澪ルートは他のルート以上にヒロインに沿ったシナリオで、澪ちゃんのことが大好きな私は彼女が赤面するたび、歓喜に震えていた。くぎゅううう!それでいて建造物の謎に迫ったり、ただのイチャイチャルートで終わることはないから素晴らしい。ルートごとに開示されていく情報を少しづつ少しづつ集めていく、この工程がとても楽しいのだ。

神奈ルートは世界というよりは、神奈の吐露に驚かされた。無論、売春の事である。母親が亡くなり、お金がなくなったからならよくある話だと思う。ただ、彼女の場合は、身体を重ねる行為そのもの、繋がりを感じることに依存していたというのだから衝撃。私は所謂、処女厨ではないのだけれど、それでも心の中にちょっとしたモヤを感じた。

仕方のないことだけれど、それだけでは割り切れない何かがあった。こういったキャラクターもあの時代だからこそ出すことができたのかなと思う。異世界編の近親相姦及びカニバリズムも十分凄いがこれも中々。そして、異世界編で更に神奈に関する新事実が発覚するわけだが。主人公、色々すごいよ。

<異世界編>
いきなりわけの分からない世界に飛ばされて主人公同様にポカーンとしてしまった。でもここからが本番だった。現代編も十分見るべき点があったけれど、異世界編は桁違い。その世界観、登場人物、シナリオの全てに圧倒された。現代編であれだけ好いていたヒロイン達がどんどん霞んでいくほど、異世界編にのめり込んでいった。

家族三人の日常が始まった時は天にも昇るような幸せを味わった。ここにきてこんな温かい話が見られるのかと、うっとりしながら画面を眺めていた。そうやって気を緩めているから叩き落されるわけで。

セ―レスの一件はかなり応えたが、そこから目を離せなくなったのも事実。ユーノが連れされらた時は主人公のあまりの不用意さに怒りすら覚えたが。異世界編は主人公がやらかしがちなのが玉に瑕だが、それによって話の展開に深みが出てくるのも事実なのでなんとか耐えるしかない。

終盤は短い中で様々な答えが提示されるので、余計に目が離せない。龍蔵寺に関しては絵里子さんが有能すぎたあまり呆気なく感じてしまうが、他の会話はどれも目を引くものばかり。この世界の仕組みも、ユーノが初めに現れた理由も、飛ばされたアマンダがどうなったかも。繋がっていく事実に興奮を抑えきれなかった。アマンダなんかは「マジ!?」と声を挙げてしまったほど。

そして、異世界でも辛い役目を背負っていた亜由美さんに思わず涙。

彼女は五年もの間、見知らぬ世界で誰に相談することもなくたった一人で双方の世界を救うために尽力していたのだ。いつの日か主人公がやってくることを夢見ながら…。その苦悩と寂しさを考えた時、もうアホみたいに涙が出た。もしかしたら作中で一番頑張っていた人物は亜由美さんなのかもしれない。あんなクソ親父に出会わなければ良かったのにと思いつつも、彼に出会ったからこそ今の彼女があるとも。報われないなぁ...。ユーノルート走破後に亜由美ENDは見られるのだが、だからといって異世界の亜由美さんが救われるわけでもないだろとあのクソ親父に言いたい.。



全ての話を読み終えた後はぼうっと呆けること小一時間。何も考えられなくなるくらい熱量のこもった物語だった。

噂に違わぬ名作をありがとう。