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asteryukariさんのゆのはなSpRING!の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
ゆのはなSpRING!
ブランド
オトメイト
得点
76
参照数
43

一言コメント

臨時とは思えないほどにしっかり者の若女将と一癖あるイケメン従業員たちとの恋愛物語。旅館経営ものらしく、協力することを軸に話が展開していく点が非常に良かった。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想


舞台は金沢の温泉旅館『福寿楼』。都会に憧れ、親の反対を押し切って実家を出た主人公「ゆのは」が、母が倒れたとの知らせを受け、臨時で若女将を務め、旅館をまとめ上げていく。そして、従業員たちと協力していくうちに恋心を抱くようになり、やがては恋愛関係を結んでいくお話。

旅館経営モノの作品であり、舞台的にも導入的にもどこかで見たことのあるようなものだったが、それはさておきはまずは主人公について。この手の作品の主人公は多くの場合、ドジっ子。もしくは仕事を覚えるのが遅かったりするが、本作の主人公はそんなその辺の小娘とは訳が違う。

若女将として入ったその日から何ら問題なく仕事をこなせて、数日で従業員たちに指示できるようになる。おまけに女将としての矜持を示すような場面もちらほらあったりと、本当に女将の才能に恵まれたような子だった。流石は女将の娘といったところか、出ていくのには惜しい逸材である。

加えて容姿、性格も抜群に愛らしい。まあ乙女ゲームなので女の子の魅力についてだらだらと語るだなんて野暮なことはしないが、本当に無邪気に浮かべる笑顔が魅力的で、男たちが顔を赤らめてしまうのもよくわかる。将来的には彼女目当てで客が来るなんてこともあるのではないだろうか。あの笑顔で「また来てくださいね」なんぞ言われた日には速攻でリピーターになってしまいそうである。

で、対する従業員たちはというとまあイケメン揃い、変わり者揃いであった。幼馴染の金太郎は見た目通りというか、子供な一面がとてもキュートで、かと思ったら時たま熱い男らしい姿を見せてくれる。また、宏太なんかは序盤こそ近寄りづらさがあったが、ハマったらもう彼の事しか見えなくなっていた。高平なんかも特別好きというわけではないが、あの押しの強さにコロッといってしまうユーザーも多いのではないだろうか。



続いてシナリオについて触れていくが、内容としては旅館経営モノらしい出来事が詰まったもので、お客様のトラブルを解決するためにゆのはが奮闘していく事になる。中でもお客様の要望により50年前の味を再現するパートなんかは実に旅館ものらしく、帳簿やお客の話を頼りに味を調整していく過程はなかなか見応えがあった。ライバルである『清峰閣』のような大きな旅館ではないからこそ、一人一人のお客に親身になれる。読み進めていくうちに自然と福寿楼を好きになっていくような、そんな話作りがされていた。

個別ルートに入ると恋愛色が強めになっていき、ちょっとした出来事で異性を意識する場面が多数用意されることとなる。嬉しかったのが、あくまで旅館経営が優先となっている点で、全てが片付いた後に恋仲になるというのがとても良かった。ユーザーによってはもっと序盤からイチャイチャしてほしいと思う方もいるのかもしれないが、私としてはこれくらいで丁度良いと思う。旅館モノの良さが最後まで失われていなかった。


全部合わせて六つ(隠し、ノーマル含む)の個別ルートが用意されているわけだが、中でも私が好きだったのは宏太ルート。料理研究に熱心変わり者こと宏太くんが好きだったのも大きいが、個別ルートの中ではもっとも"協力している感"があったので、読んでいてとても心地よかった。女将と板前ということで、役割はだいぶ違うのだが、それぞれが別のアプローチでお客に寄り添っていくというのが非常に良い。

また、恋愛パートに入ると実は男の子な反応を度々見せるようになっていく宏太くんがとてもかわいい。意外と独占力高めというか、彼女のためにムキになってくれる所なんかは数多のユーザーの心を打ちぬいたことだろう。



てな具合で意外性などはなかったものの、旅館モノらしく随所に温かさを感じられる場面が用意されており、とても気分よく最後まで読み切ることができた。好きなキャラクター、お話もきちんと存在したので、中々良い作品だったのではないかと思う。ファンディスクでは各個別ルートの後日談に加え、皆で旅行にいくIFストーリー、それから誰ともくっつかなかったゆのはが迎えるもう一つのお話が待っているとのことなのでとても楽しみだ。

改めて、心温まるお話をありがとうございました。