各シナリオに物足りなさ、不満はあれど、読めば読むほど好きなキャラクターが増えていく作りはお見事。彼女達と過ごす何気ない時間すら楽しかった。
桑島由一氏、藤崎竜太氏、フミオ氏、渡辺明夫氏…と見たことのあるスタッフさん達が終結して作られた作品ということで、前々からかなり気になっていた。無論、声優さんも馴染みのある方ばかりなので、本当に楽しみという気持ちしかなかった。
導入からかなり自分好みで、今となっては珍しくもない異世界モノなのだが、主人公に特徴があるのがまず良かったなと。ゼロ戦でこの世界にやってきて、日本刀を拵えている。おいおいこんなに最初から飛ばしていいのかと思う程に、ライターさんの趣味が全開なキャラクターで笑ってしまった。
異世界に住んでいる者達からすれば、いきなりやってきた余所者ということで序盤は邪険にされることもあったが、そこから周りの信頼を勝ち取っていくまでの話の組み方も上手く、主人公の受け入れられ方もとても自然に感じた。アイラなんかはキャラクターデザイン及び性格が非常に私好みなのもあって、序盤の数時間ですぐ好きになった。心を開くと優しいお姉さんになってくれるのが嬉しい。
物語のボリュームはかなりあって、過去作で言うと果実と同じくらいはあったのではないかと。共通√が四章分あり、個別√も四つ存在する。しかもその一つ一つがその辺のロープライス作品と同等のボリュームだから驚きである。一章を読んだ時点で相当力が入った作品であることは容易に理解できた。
共通√に関しては一、二章に関しては凡の出来に感じたが、三章からライターさんの本領と言わんばかりにキャラクターとの距離が近づくエピソードが多分に用意され始める。四章を読み終える頃にはメインヒロインは勿論、サブヒロイン達のことも好きになっていた。サブヒロインだからと言って手を抜かず、訓練を通して一人一人と丁寧に向き合って、掘り下げてくれたのが嬉しかった。
四章については恐らく本作を読んでいて最も心が躍った。無論、個別√を含めてである。そう感じたのは、やはりオゾスとリアのストーリーが非常に印象深く、感動的だったからである。最初は使いようのないゾンビどもを従えて、主人公といい感じの関係のリアを引き離そうとするオゾスに嫌気すら感じていたが、彼女の口から真実が語られるとその評価は一変した。
「オゾスは言った。ここにいるみんなは自分の家族であると。家族には家が必要だ。もしあの鉱山で働かせてくれたら、助かる、と」
「大丈夫…何があっても、私が守る…」
「みんなのことも守る。私達はヒューレーの家族だから…」
彼女がなぜあのゾンビ…いや、アンデッドたちを守ろうとしていたのか。それが理解できると同時に切なさよりも喜びが沸き上がってきた。まさに真相と共に魅力的なキャラクターが掘り起こされたのような、そんな感覚だった。村のみんなを意思疎通のできないアンデッドに変えられて、親友の身体と記憶を奪われて、それでも一人で守り抜こうと決めて生きてきた。そんな強く逞しい少女を前に感銘を受けないという方が失礼な話である。
ただでさえ最初から好感度の高かったリアは、彼女が託した存在であるという事実を考えると一層好きになった。故に個別√も一番期待したのが、少し期待から外れてしまったというのが正直な感想である。死ねない身体となり生きる意味を探していた彼女が、最愛の人の役に立ち生を全うするという話運びは、実に桑島氏らしいシナリオだと思うし、ぶっちゃけ嫌いではない。これも一つの正解の形だとすら思う。
しかしながら私としては、死ねない身体のまま、語り部としていつまでも皆に囲まれた生活を送ってほしかったというのが本音だ。勿論、主人公の寿命は尽きてしまうし、決してハッピーエンドではないのだが、死なないからこその役割を与えてほしかった。楽しそうに昔話を次の世代、また次の世代の子供たちに話す彼女という像を見てみたかったのである。
他√に対してもプチ不満等はあるものの、本作の看板ヒロインであるユキカゼ√は実に気持ちの良い内容になっていたかなと。敵があまりにも小者過ぎたり、終盤少し駆け足なのが気になるが、それ以上にキャラクター達全員を使って物語を詰めていく作りが非常に気に入った。
一度は敗北し、解散したチームが再び集まる。それも誰が指示したでもなく、それぞれが己の意思を持って行動した結果であるところがもう本当に熱い。「信じていた」とか「待っていた」等の言葉を交わすのではなく、軽口を叩き合いながらいつものような雰囲気のまま戦いに臨むのが素晴らしい。熱いけれど、すごく自然。流石は私の好きなライターさんだなと、つくづく思った。最後まで空気感を大事にし続けてくれる。本当にありがたい。
振り返ってみての感想としては、やはり”楽しかったな”と。最初から最後までキャラクターたちを好きでいさせ続けてくれる良い作品だった。