人間なんて、いくらでも生まれては死んでいく。…もう慣れっこさ。なんて...なぁ…
主人公が吸血鬼化してしまうという設定に惹かれたことに加え、元々好きであった某仮面ライダーに関連した作品ということで非常に楽しみにしていた。そしてその内容は私が想定していた以上のものであった。
吸血鬼を主人公にしたというのが珍しい以上に中々奥深いもので、たとえ主人公がヒーローのような行いをしていたとしても、結局は彼らと同じ化け物なのだ。そのため、何も知らない民間人からしてみれば主人公も当然、畏怖の対象である。これは某仮面ライダーの序盤でも同様である。
そして吸血鬼であるがために、急な吸血衝動に襲われ知り合いを手にかけてしまう場面が度々描かれているの良い。悪を滅する正義の味方などではないのだ。加えて主人公の、逞しいとは言い難いどちらかというとなよなよした性格も作品に合っている。そしてこの弱さがまた最後の方で効いてくるのだ…。
香織及び弥沙子はどちらも真人間のヒロインということで、まずは主人公が吸血鬼化してしまったという衝撃の事実を目の当たりにするところから始まっていく。この二つの√を読みながら思ったのだが、主人公は本当に周りに恵まれている、というか愛されすぎだ。
香織は最初こそ驚いたものの、以前に自分を助けてくれたこと、そして変わったのは姿だけだということで、納得はしないものの、理解はしてくれる。そしてこれからの戦いに向けて「がんばってこい」なんて言葉をかける。
これは全√通して言える事だが、香織が良い女すぎる。自身の√以外では最後まで主人公の正体に気付かず、主人公が消えた後、一人部屋で泣く場面なんかも見られる。特にモーラ√のラストなんかではそれが色濃く描かれており、後味は良くないのだが私としてはかなり好きな締め方だった。
また、弥沙子は元々、主人公のことが好きだったこともありすぐに状況を理解し、その上で「カッコいい」や「素敵」といった感情を抱く。ベタ惚れだ。
でもそんな彼女の扱いは中々悲惨で、自身の√でこそ救われはするものの、弥沙子√では悲しい役回りをさせられる。でも主人公を庇ったシーンはとても良かった。様々な心境の変化があったろうに主人公のことが好き、その想いだけは変わらなかったみたいだ。
モーラちゃんは物騒な武器や言葉を用いていたので、どうヒロインらしくなっていくのか心配であったが、杞憂に終わった。香織を絡ませたのが本当に良かった。香織との会話の中で普通の女の子について考え、切望するようになる。実に素敵なことじゃないか…。
そしてその願いを叶わぬものだと諦めようとしたところで主人公が男を見せるわけだ。
肉親も、友人も何もかも失くした彼らが迎えるエピローグは決してハッピーエンドとは言えないが、それが彼らの選んだ道であり、幸せなのだ。この結末がかなり好きだっただけに、もうこれ以上のものはないだろうと思っていた。しかし…。
トリにまわしたリァノーン√。他の√をやっている時はいまいちリァノーンに惹かれなかったため、どうなのかなぁと思いながら読み始めたわけだが、この√は凄まじかった。まず純粋にストーリーが面白い。この√は今まで何となく立ちはだかってきたギーラッハが異様に輝く話であり、その一途で勇ましい生き様に惹かれた。あとあの流れで不意打ちは笑った。
そして私が最も感銘を受けたのがエピローグだ。
弥沙子に救いを与えつつ、主人公が吸血鬼としてリァノーンと生きることの意味が描く。あれから80年経ち、香織も鏡子も、そして弥沙子もいなくなった。主人公の知る人はもう誰一人としていないのだと。ああ、そうだよな、そういう生き方を彼は選んだんだ。その残酷にして素敵な現実について考えた時、気付いたら私も涙を流していた。
また、ああして涙を流せる主人公はまだ人間なのだなと。モーラ√の最後には決して涙など見せないような厳しい顔つきになっていたがこの√は違う。まだあの頃の弱さを持ったままなのだ。それが余計に涙腺を刺激してきて、そんな状態の時に「MOON TEARS」を流してくるものだから、読後はしばらく動けなくなった。ただただ震えていた。
ただでさえ読みごたえのある話、設定に加え、バイクや銃といった私好みの要素まで盛り込んでくる。読んでいて本当に楽しかったし、読み終わった後は色々と考えさせられた。名作に出逢うといつも思うが、もっと早く出逢いたかった…。