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asteryukariさんの夏空あすてりずむの長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
夏空あすてりずむ
ブランド
なつこん
得点
77
参照数
703

一言コメント

田舎らしさと明るく賑やかな雰囲気が特徴であるが、ふわふわしたままでは終わらない独特な捻りも加えられており、思った以上に読み応えのある作品に仕上がっていた。最悪の女を用意してくれてありがとう。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

短編百合作品を数多く販売しているなつこんさんの長編百合ADV。制作に想定以上の工数を要したようで、後日談やファンディスク等の発売はほぼないとのこと。ただ、ボイスの欠けや省略はあれど、話が完結していないなんてことはないので、そんなに気にしなくてもいいのかなと。

さて、本作は田舎を舞台にした女の子同士の恋愛を描いた作品であり、男は一切登場しない。元気で明るい主人公「科乃」を中心に友人たちと過ごす日常を映し出しつつ、友人から恋人になるまでを描いていく。まず主人公がめちゃめちゃ可愛くて、本当は"しなの"と読むのに友人たちの間では"かの"で定着していて、本人もそれを気に入っているのが健気で愛らしい。声優として沢野ぽぷらさんを起用したのもすごく良かったと思う。

個別ルートへの分岐は日常会話の中で出てくる選択肢によって分岐していくのだが、これが結構シビア。私ははじめ星花から攻略していこうと思い、彼女の好感度が高そうな選択肢を選んでいったのだが、迎えたのは誰とも結ばれないノーマルエンド。次に椛を攻略しようとしたら今度はバッドエンドだったので、なるほどこれはしっかりと考えて選んでいかなければいけないなと。パーフェクトで五人のトゥルーエンドを迎えたら誇っていい。


基本的には優しくて甘い百合物語と言った具合で、徐々に科乃がヒロイン達のことを、友人ではなく好きな人として見るようになっていき、友人もまた科乃のことを好きになっていく。一番オーソドックなのは星花ルートだろうか。元々、科乃に対して恋愛感情を抱いていたという設定が強い。ツンデレお嬢様な彼女が想い人に気持ちを向けられていることに気付き、段々と素直に、そして笑顔になっていくのが本当に愛らしい。



だが、全てのルートが上記のような優しいお話かというと、そうではなかった。とんでもない女とお話が待ち構えていたのだ。家業の巫女を手伝い、メンバーの中でも面倒見がよくお淑やか...だと思っていた少女は、実は怪物だった。

「ふふふ、知ってます?私の努力の全ては自分のためではなく、あの方と並ぶための...」
「振り返って頂けることがなくても、私はずっとずっと昔から、気付けばあの人の事を...」

共通ルートの時点で科乃と仲良くしつつ、それとなく想い人がいることを語っていた彼女だが、まあ適当に彼女寄りの選択肢を選んで進めていけば振り向いてくれるだろうと、そう思っていたのだが、そんなことはなかった。絶対に告白が成功するような雰囲気から、もうバッサリと科乃を斬り伏せてくれて思わず声が出た。それでいて科乃の心情もしっかりと描かれているので、まあめちゃくちゃ強い。まさかあの共通パートからこんなに絶望的な一撃を加えられるとは思ってもいなかったので、かなり効いた。

そして、真に恐ろしいのはこれがバッドエンドだけでなく、トゥルーエンドでも続く点である。バッドエンドを回避して椛と付き合うことになるも、どこか距離が空いている。恋人らしいことが愚か、以前よりも彼女と接する機会が減る。そんなことを気にして日に日に弱っていく科乃を見ているだけでも相当辛いが、大悪魔椛ちゃんは容赦しない。

「彼女の好意を向けることが、私の目的だと言いたかったんですよ?」

こんなのがトゥルールートでいいのかと、その後の展開も含めて叫びたくなった。心変わりが起きたかのように見えたが、椛は星花のことを想い続けているのだろうと私は思う。幼い頃からずっと好いていて、星花の傍に並ぼうと必死で努力してきた。そんな彼女がそんな簡単に心変わりするはずもない。諦め切れるわけがないのだ。そう考えるとやはりあれは代償行為に過ぎない。隅から隅まで赤く黒く染まった化物に出逢えて、私は凄く嬉しい。



振り返ってみると、やはり支倉椛という少女の存在が私にとってものすごく大きかったなと。普通の平和で優しい百合を望むユーザーからは罵声を浴びさせられそうなキャラクターだが、私は痛くて苦しむ恋愛が見られて非常に嬉しい。彼女には生涯をかけて科乃...ではなく星花を愛し続けてほしい。