初めはそんなに惹かれなかったキャラクターも、最後にはみんな大好きになっている。ああ、ずっと見てきてよかったなぁと読後は何とも言えない幸福感に浸ることに...。本当にお疲れさまだよ。
終わった後に自然と笑みが零れた。はじめは「騙し合い」というワードを使うものだからもっと物騒な話ばかりが展開されていくのかなと、そんな安直な考えの下プレイに臨んでいた。…どうしてこんなに心地いい気分になっているのか、ああもう本当に良いゲームだった。
しかし、この気持ちに至るまでの道のりは極めて厳しかった。まずぶち当たった壁が「UR」やら「行使者」やらといった専門的な名称の数々。読んだ時はふむふむと思っても、いざ会話にその用語たちを混ぜられると「?」となってしまうのが初めの一時間。よく理解して読もうねと自分が情けなくなったのをよく覚えている。
しかし、理解してしまえばもう後はワクワクしか待っていない。誰がどの色でどういった役割なのか、またそれぞれのURの種類は?とか、興味関心が枝分かれしていくような感覚だった。特にURに関してはその無敵とも言える能力の数々と、凝った制約条件にすぐ呑まれてしまった。なにこれめちゃめちゃ面白いじゃんと。制約は物語終盤にも深く関わってきて、ああそういえばそうだったなぁと納得する場面があったのも+ポイント。
また、「行使者」に関しても、「模倣」と「現行」によって優位性がだいぶ異なっていたり、またそれらはどの人物に当てはまるのかなどを考えながら読み進めるのが序盤であり、楽しかった部分だ。知識の差、経験の差で劣る模倣側がどうやったら目的を達成できるのか、はじめはそればかり気にしていた。そして、その手助けをしてやれるのが観測者システム。
この作品の最大の魅力と言っていいのではないだろうか、もうこのシステムが素晴らしいのなんの。読み手の選択肢によってその後の物語に大きく影響する、これ自体はノベルゲームの基本だが、この作品は少し違う。
あくまで観測者は助言を与えるだけで、それは登場人物達に対しての命令ではない。そのため登場人物達はその意見に従わないことだってあるし、何なら真逆の事をし始めたりする。「なんで思い通りにいかないんだよこのキャバ嬢はさぁ!」と思う瞬間もあったり。加えてすぐには効果が反映されないという要素も持っているから…凄く面白いのだ。
そして、そんな風に彼らの動向を観測し続けていたらまあ、彼らに愛着が湧いていく。序盤は「なんだこいついけ好かないなぁ…絶対に望みを叶えてやらない」と思っていたキャラも中盤になるにつれて意外と悪くないなと感じ始めて、最後には大好きなキャラになっていた。こうメインのキャラが多いと、誰かしらは気に入らないキャラというのが出てきてもおかしくないのだが、本作において存在しなかった。みんな大好きだ。
以下キャラクターごとの感想。
●礼堂 夕端
終始、お姉ちゃん探しを目的にしていた六人の中でも一際主人公らしさを放つ人物。この作品における主人公とは六人全員のことを指すのだと思うのだが、これだけは言わせてもらいたい。このガキはちょっと運が良すぎる。これは篝や六角さん、そして夕端自身も言っていたことだ。最終的に六人全員が協力することになったのも凄いが、ずっと見つからなかった姉をたった十日間で見つけてしまったというのが凄すぎる。
作品のボリュームに圧倒されて忘れていたが、そういえば十日間しか経っていないんだった。その間に姉を見つけ、且つ年齢も趣向もバラバラの人を巻き込んで自分に強力させてしまうとは…なんて恐ろしい奴なんだ。加えてヘタレに見えて実はやる男だったのも良い。金瀬と対面して逃げ切ったり、あの難攻不落とも言える六角さんを説得してしまったり、まさに主人公らしい活躍っぷりだったなと。
●鳥足 時雨
作品随一のイケメン秀才男。はじめはちゃらちゃらしている友達がいるのねくらいの認識だったが、読み始めて早々にただ者ではないなと気付く。他のプレイヤーに核心となる部分を突かれても冷静沈着。夕端が慌てふためているから尚更そう見えてたのかもしれない。それでいて自分の欲しい情報はきっちりと得る。また、情報集めに関して独学で調べ上げ、真実に迫っていく姿なんかもカッコいい。その秀才っぷりは六角さんも認めていて、ちゃっかり自分の研究室に入れていた。
夕端のために協力していた頃も十分カッコいいが、やはり浦門が話に関わってきてからが本番だろう。なんなのこのイケメン、キザな台詞がキザとは感じない、ああ、これがイケメンなんだなと強く思った。キスでお目覚めの話とか浦門さんは内心ドッキドキだったのではないだろうか。また、親父との対話の場面なんかも完全解決とはいかないあの感じがたまらなく良いし、彼のその後が楽しみになる。ただの友人キャラだった彼がこんなにも味のあるキャラクターになったことに対して、喜びが隠せない。
●四斗矢 怜
ちょっと難しそうな人だし、どんな事情を抱えているのかなと思ったら素直になれない系の可愛い可愛い女の子だった。夕端に手を貸すようになった理由が可愛いのなんの。ツンデレさんは大好物なのだ。また、自分のことは棚に上げて、他人の家庭環境に手を出し続ける姿なんかも人間味があっていい。でもそうやって夕端に関わっていったからこそ自分が変わるきっかけを見つけることができたのだと思うと、なんだか感慨深い。
彼女に変化が訪れたのはやはり両親が人質にとられた瞬間の事だろう。てっきり事件が起きる少し前の夕端との会話で仲直りするのかなと思っていたのだが、そんなことはなかった。しっかりと問題に向き合い、自分の意思で助けに向かう。丁寧な作りをしているなと感じた場面の一つだ。彼女にはこれからも良い家庭築いていってほしいものだ。ちなみにとあるENDの彼女が大好きだったりする。あれはすっきりした、もっとグチャグチャにしてやっても良かったと思うほどに。
●金瀬 スミレ
正義の味方スミレマン!正義を追い求めすぎてやばい人になっている気がしないでもないが、この人の感情の動き方は非常に見応えがあった。偽の正義に加担せず即座に対立する、某有名作品の青髪ポニーテールを思い出した。またすぐ挑発に乗ってしまうところなんかもお茶目で良い。そりゃあ六角さんにいじられまくるさ。だが、その怒りの矛先が悪に向いた時の彼女はとても強い。まあ、終盤はボロボロにされていたが、途中までは本当に強キャラだった。
彼女はというより彼女を巡った環境の変化が実に良かったなと。今まで味方だった人が敵になり、その上でねじ伏せられる。その時の屈辱は相当なものだっただろう、見ているこちらとしても歯痒かった。だからこそ、宮山さんの登場には震えた。ただ感情的に騒ぐのではなく、自らが動いて変えることを覚えた。彼女の考える正義もだいぶ前に進んだのではないだろうか、彼女の更なる活躍を期待するばかりだ。
●名倉 篝
超有能プレゼンテーター。他の有能キャラ達のせいで忘れそうにもなるが、この人の存在はあまりにも大きい。流石はベテラン社会人といったところか。TMでも終始余裕を見せていたのが印象的だ。会話のペースを作り、質問を誘発し、それに答える事で信じざるを得ない雰囲気を作っていく。まさに年の功だ。
そんな大人な彼が向き合わなければならなかった問題というのは、実に大人らしいデリケードナ問題で、彼らしいといえば彼らしいもの。なかなか衝撃的な奇怪行動をしていたり、それを会社の人間に対してもやっていたのには少し驚いた。見た人からしたらさぞ不気味だったろう。だが夏木さんは違ったと。この夏木さんという女性、登場機会はさほど多くないにもかかわらず、がっちりと私の心を掴んでいった。なんて良い女性なのだろうか、彼女と結婚してあげてほしいとは言えないが、どうか大切に接してやってほしい。
●六角 秋燕
キャバ嬢…じゃなくてれっきとした大学教授。それはまあ外見の話で、その中身はやはり教育者のそれではない。誰もが何かしらの目的を持ってイミテーションゲームに参加しているのにも関わらず、彼女だけは「楽しむこと」を主としている。だから当然、序盤は厄介な敵のような立ち回りをしていて、他のメンバーも読み手であるわたしさえも戸惑った。そして、故に味方になった時の頼もしさは異常だった。彼女のURが強すぎるのだ。終盤の案外苦戦するかなと思った相手に対しても「気絶しろ」の一言でねじ伏せていて、乾いた笑いしか出なかった。
しかし彼女もきちんと弱いところがあって、自分の弱さを知りながらも自分を通し続けようと懸命に生きる、そんな彼女の生き方が非常に好みだった。
彼女が向き合わなければならなかったのは自分の中の人生観で、それに大きく関わっていたのが梔子香さん。全ての人間が平等に認識できる世界、それは彼女にとって実に素晴らしい世界だった。そしてそれが実現可能なのがC.Iシステム。目的を見つけ研究に没頭していた彼女の前に現れたイレギュラーが梔子香さんだったわけだ。それがなければ全て上手くいくのに、例外は何事に対しても負の感情を抱いてしまうよなぁと少し彼女に共感。
でも彼女はそれを受け入れる選択をしたのだと、こんなのどうやったら嫌いになれるんだろうか。元々の彼女の生き方も相俟って断トツで好きなキャラクターになってしまった。
そんな大好きな六人達が最後にするTMは幸せに満ちていて、素敵な時間だったなぁと。騙し合い、殺し合う未来もあったはずの彼らが学校の事や仕事の事、果てはプレイべートのことまで気軽に喋り合っている。ああずっと見続けてきてよかった、観測者であって良かったよと心から思った。CGは一枚もなく、立ち絵だけで進行していく作品なのにこの熱さ、この心地よさはなんなのだろう。改めてすごい作品だったなぁと。