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asteryukariさんの魔女の処刑日 ~最愛なる夜明けへ~ 後編の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
魔女の処刑日 ~最愛なる夜明けへ~ 後編
ブランド
禁飼育
得点
83
参照数
460

一言コメント

それぞれの行動に意志が宿っていて、故に誰を見つめていても嬉しくなるし、苦しくもなる。そして、そんな意志の連なりで紡がれた物語は素晴らしいものだった。ただひたすらに感謝と慰労の言葉を送りたい。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

「魔女の処刑日 ~上弦の月は私を見下し~ 前編」から10年越しに発売された続編であり、禁飼育さんの同人ゲーム最終作でもある本作。昔からずっとこのサークルさんを追ってきたユーザーならば、込み上げてくるものがあるのではないだろうか。その感情を味わえないのが後追い組の残念なところである。とにもかくにも本作は期待を裏切ることのない、同人ゲーム界でも、私の胸にもしっかりと足跡を残してくれた素敵な一作だった。


先ずは過去編、つまり体験版部分について感想を語っていくが…最初から地獄と言うべきか、黒甲としめじのお話があまりにも辛かった。鬼ノ仮面、愛寂を読んでいる時もこの二人のやりとりは凄く好きだったが、本作ではそれらの作品以上にハートフルな関係になっていて、醜い世界に残された唯一の癒しでもあった。

「修道院から逃げ出す途中、大けがを負った私を…あなたは助けてくださいました」
「…私にとって、黒甲さんは命の恩人です。あなたが、どのような事をするような立場になっても私が黒甲さんに対する恩義は、今もずっと変わりません」

明るく元気にのほほんと生きているように見えて、実は深い感謝の念を抱きながら日々を過ごしている。そんな健気で優しいしめじちゃんが本当に眩しいし、対する黒甲は…「家に帰れなくなること」を理由に幹部になる事を渋っている。本当にこんな穏やかでお似合いのカップルが存在していいのかと、そう言いたくなるほどに幸せな空間だった。

けれど、そんな幸せな空間を切り裂いてくるのが禁飼育さんなわけで…もう血が出る勢いで涙を零しながらその末路を眺めることとなった。唯一嬉しかったのは黒甲がとった選択である。「見た事がない」と口にした時は彼らしいと思いつつもぶん殴ってやろうかと思ったが、ちゃんと引き摺ってくれて、彼女の後を追ってくれる。普通に考えれば仇討ちをしてくれた方が展開的には盛り上がるが、彼というキャラクターのことを考えるとあの結末しかない。だからこそ嬉しい…嬉しいと思ってこの話を終わりにしたい...。



そしてここからはやねこを救う物語について…なぜおっさんが主人公なのか、前編にてやねこを逃がした時から薄々予感はしていたが案の定、彼だったわけだ。そしてかなたの処刑を実行したのも彼。おまけにカナタの手紙なんてドでかい着火剤なんかも用意してくる。こうなるとやねことの関係は…一瞬喜びが生まれたと思ったらすぐさま絶望がやってきて、本当に救う気がるのかと乾いた笑いすら零れた。

加えて恩人として絶対的な信頼を置いていたヴィタメルルの思惑も判明して、もうどうしたらいいのかと。読み進めるのが怖くなったほどである。けれど、全てが彼女を突き落とそうとするものばかりではなく、その中で手を一杯に伸ばしてくれる者がいた。それが雪乙女である。

「友達を助けたい。そう思うのは自然な事ではないでしょうか?」
「あなたも記憶喪失の見ず知らずのわたくしを助けて下さった...だから、わたくしは恩返しをしたい」

雪乙女は前編の時からかなり好感度の高いキャラクターだったが、同時にかなり嫌な予感がするキャラクターでもあった。けれども、あのワンシーンを見て「信じてみたい」と心から思った。そして、その判断は間違っていなかった。その辺についてEDごとの感想で触れていく。



◆ED1
やねこが再びザイジョーインに囚われてしまう結末であり、前編のED1に近いものとなっている。今回は今まで語られることがなかったザイジョーインの過去及びその全てをやねこにぶつけたといった感じの内容で、快楽堕ちエンドというよりはザイジョーインエンドと呼ぶ方がしっくりくる。えげつない指輪を打ち込んだり、相変わらず歪んだ愛情をぶつけていた彼だが、最後の一枚を見るかぎり心の底から幸せだったのだろうと思う。あんな表情を見せられたら、これも一つのハッピーエンドかなと思ってしまう。



◆ED2
やねこが息絶え、りゅうぞうが修羅の道を歩む結末。これは辛いけれど、ED3と同じかそれ以上に好きな結末だった。まず辛い点について触れると、リリがあっさり退場する点である。あの憎らしくも愛らしいリリが無残な最期を遂げる事実も悲しいが、そのショックを受ける雪乙女が本当にもう見てられない...。で、後を追うようにやねこも命を落とす。雪乙女がどうなってしまうのか、私も気が気じゃなかった。だからこそ、雪乙女が行ったささやかな仕返しは見ていて気分がよかった。

また、りゅうぞうのためにサクバを残してくれたのも、個人的にかなり救われた。最愛の人を失い、殺したくない相手(余談だがコネコミエールの最期の判断は嬉しかった)も含めてすべての敵を殺して、それで終わりだったらどれだけ悲しかったか。サクバがなかったらきっと雪乙女の後を追い、やがて殺されていただろう。そんな結末もアリではあるが、私としてはこの結末で良かったと思う。正直…ホッとした。



◆ED3
りゅうぞうがやねこを救う結末。本当に印象深いシーンしかないが、まずはザイジョーインの最期について、ロマノアに八つ当たりで半殺しにされた彼に止めを刺すのはやっぱり彼女であった。ザイジョーインを見つけた時のオッドセイアの反応と刺した時に流れる回想がとても胸に沁みる。そう、彼だけでなく彼女も好きだったのだと、まさに虚しい結末である。

次に雪乙女との対峙。ED2を見てやっぱり最後はぶつかるのか…と絶望しかしていなかったが切なく、そして綺麗な最期を迎えてくれた。ああ、やっぱりあの時の想いは真意であったのだなと、雪乙女の事を信じて良かったと喜びの涙が溢れて止まらなくなった。登場当時はまさかこんなにも好きなキャラクターになるとは思わなかったので、最後まで好きでいさせ続けてくれたことに感謝すら覚えた。

そして、りゅうぞうとのやりとり。事実だけ見れば辛くて仕方がないし、どうしてとも言いたくもなる。しかしながら彼の目的を、想いを汲むとこの結末に納得するしかないだろう。彼の目的は徹頭徹尾「やねこを救うこと」であり、この物語は「やねこを救う為の物語」だったのだから…。



◆Examine
最後にどうしても触れておきたい部分がある。それはExamineの「狂犬ノ末路」である。勿論、「来た道振り返る」も大好きだが、それ以上に胸に刺さるのがクルイヌの迎えた結末であった。恐らく「異端審問官の愛寂」が好きなユーザーは私と同じ気持ちだったのではないかと思う。

なにが素晴らしかったって、天使と最期に会わせてくれたことではなく、天使から背いて走り出してくれたことだ。大好きだから、大切に想ってるからこそ手を触れようとしない。…けれど最後にはきちんとお礼を言う。実に不器用でまさに彼らしい愛の表現方法だった。夢の出来事ではあるけれど、彼女が見せてくれた夢は彼にとっても、私にとってもこの上ない素敵なものだったと思う。




久しぶりに作り手の熱と愛が込められた作品に出逢えて、嬉しいかぎりである。本当に辛かったけれど、幸せな時間だった。
改めて、素晴らしい作品をありがとうございました。