大人になるってなんだろう、恋をするってなんだろう。当たり前じゃなくなった今だからこそ、立ち止まって考えてしまうことも。初見の印象とは大きく異なる素敵な一作だった。
この作品のタイトルを見た時にふと感じた。いつの間にか大人になってしまったんだなと。いや、まだ大人かどうかなんてわからないけれど、少なくともランドセルを背負って学校に駆けていたあの頃とは違う。自由奔放に行動して、何も演じずに自分として生きていたあの頃とは…。
もっと可愛らしい絵を全面的に押し出してくるだけの作品だと思っていただけに、話の内容の凝り具合に驚かされた。”凝っている”というのは言いすぎかもしれないが、決して順風満帆な恋愛物語などではない。夢や過去や立場や、様々なモノにぶつかりながらも手を伸ばすことだけは忘れない。ちょっぴり面倒で、でも素敵な淡い恋物語が描かれていた。
話はがんがん展開していくというよりは、目の前にある事実に対してどう向き合うか、そこに注力していた。中には常識をはるかに超えた衝撃的な事実も存在するのだが、取り立ててそれを強調したりしない点が非常に好感が持てる。思えば安っぽさを感じた瞬間なんてなかったんじゃないかな。雫セカンドエンドで手ごたえを感じ、波凪エンドでこの作品を好きになった。
雫セカンドエンドでは途中こそ、なあなあになっているなと感じたが、そう思った矢先に嬉しい茶々が入った。私が主人公に感じていた嫌悪感をしっかりと突いてきて、その上で兄妹という関係の尊さについて説く。本当にあの場面のかもめちゃんは最高だ。「一生解けないまほう」、素敵な意味の中にきちんとこれまでの苦悩も含まれているなぁと納得してしまった。あの互いの気持ちの強さを感じる終わり方も実に私好みだ。
そして波凪エンド。てんしと人間という立場でありながら、二人のスタートはこれまでのどのお話よりも上手くいっていた。波凪が恋して堪らない主人公と、気を保ちながらも頬は確かに染まっている波凪。まさにお似合いの二人だった。けれど…。
もう限界なんだと、彼女の悲痛な叫びはくるものがあった。すんなり行くはずがない、見て見ぬふりをするうちに糸が複雑に絡まっていくような、その光景は見ていて辛かった。しかし、だからこそ彼女の決断は嬉しかった。お互いが傷付くのが嫌なんじゃない、自分の愛した人が傷付くのが嫌なんだと、そう言い放つ彼女は本当に綺麗だった。
しかしまあ、「波凪」という名前はよくできてる。彼らのその後に不安なんてこれっぽちも感じなかった。
振り返ってみると物語そのものも素敵だったが、音楽面も素晴らしかったなと。読了後、即曲探しに出てしまった。