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asteryukariさんの雨のマージナルの長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
雨のマージナル
ブランド
ステージ☆なな
得点
80
参照数
116

一言コメント

「永遠に変わることのない、今があるだけ」、商業の方とは異なり、変わらないことを嘆いているような作風が新鮮で面白かった。短いながらも何かは確実に残していく、そんな感覚を味わった。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

商業の方では、「変わらないことの大切さ」を説くような作品が多いが、この作品は「変わらないことの辛さ」について説いてるような印象を受けた。この辺の違いはやはり同人だからだろうか。とはいえこれは、あくまで"変わらない"ということに関してであり、商業の方やナルキッソスなどでも見られた、「生きたいと思うことの大切さ」というのは本作でも十分伝わってきたし、それが大きなテーマでもあったと思う。

そう、この作品をプレイしていてナルキッソスを思い出した。特に雰囲気なんかはそっくりで、あの生きることに疲れた、ダウナーな感じが相変わらず私好みのものだった。その雰囲気作りに一役買っているのはやはり雨の存在だろう。寂寥感や悲壮感を増幅させるための装置として、テキストに雨が染みこんでいくような、そんな感覚だった。

永遠に死ぬことがない世界であると同時に、永遠に死ぬことが出来ない世界。そんな場所で一人ただ雨の中佇み続ける。やっとのことで出口を見つけても現世には帰ることが出来ない。破片ですら流れ出ていくのがまたなんとも言えない。そんな繰り返しの日々。いくら現世に飽きた人間であっても、こんなことが続けば嫌にもなってくる、寂しくもなってくる。ましてやそんな日々の中であんな賑やかな現世の光景を見せられたら帰りたくもなる。

「もう、この世界は嫌なのよ...雨の世界の主の座は、返上したいのよ...」

しかしこんなことを嘆きながらも帰ることのできる機会が訪れた時、彼女は帰ろうとしなかった。反省したとみなされることに自身が納得していなかった。なぜそんなことを思うのか。これはまあ、意地だろう。ここまで来てしまったんだから今さら帰れない、不安なども起因しているとは思うが、彼女を支えているのはもはや意地だ。

結果的に連れ戻されるような形で現世に帰るわけだが、彼女は幸せそうだった。記憶を失ったからか、それとも素の感情からなのか、恐らく両方だろう。だからこそ彼女の笑顔が強く印象に残った。彼女はあの場所を反省室と言っていたが、果たして本当にそうなのだろうか。私は神様の与えてくれた人生におけるチャンスだったのではないかと思う。

ちなみにあとがきにもあった通り、郎女の次に雨の世界の主の座に座るのは、水のマージナルのキャラクターであり、世界観などについても水のマージナルと関係があったりする。