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asteryukariさんのDear world -Re.-の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
Dear world -Re.-
ブランド
non color
得点
98
参照数
266

一言コメント

過去が笑い、未来も笑う。今在る私も、世界も笑う。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

ああ、何から話せばいいやら…。この作品について簡潔に述べるのなら、それはもう「ありがとう」、この言葉に尽きる。この作品を作り上げてくれたスタッフさん、この作品に出てきた登場人物達にこの言葉を贈りたい。そしてこの作品をプレイした自分にも。

とにかく立ち止まってふと考えに耽ってしまう場面が多かった。この作品、ゆっくり読んでも七時間ほどで読み終えることが出来るのだが、その数時間の中にありとあらゆる感動が詰まっているのだ。短い作品で最後に畳みかけてくるような作品は多く存在するが、こんなのは久々だ。隅から隅まで大好きで固められていた。

前半は子供たちの生活風景を見て心を揺さぶられた。何かが悲しくてとか、嬉しくてとかではなく、懐かしさのあまりに読み進める手が止まってしまった。なぜこんなにも突き刺さる、ついついあの頃を思い出してしまうような、そんな現実味のある生活風景を描けるのか。ああ、この人は本当にすごいな、羨ましい。

幼少期特有のちょっとしたことでの喧嘩。自分にも身に覚えがあったり、あの頃は友達と喧嘩してもすぐ仲直りできたなとふと感傷的になったり。

何気ない子供の遊びとして登場したドッジボールなんかも懐かしい。「モトガイ」なんて言葉久しぶりに聞いた。

落とし穴なんかも昔よく作った。親との衝突も、仲の良い友達の転校だってみんな体験したんだ。

そう、私が懐かしく感じたのは挙げられるエピソードがどれも具体的で、且つ体験したものばかりだったからだ。そりゃあ、幼きあの頃を思い出してしまう。

だからこそ感情移入の具合も尋常ではなくて、ヒサコの話なんかはもはや苦しかった。自分だけは違う、みんな馬鹿みたいだ。そんなことを思いつつも、自分の中の弱さを捨てきれずに一人もがき苦しむ。そんな状況にあったからこそ、差し伸べられた手は何よりも嬉しいものなのだ…。

コウタとユウキの話は何といってもタイミングがずるい。それは別れの時にも言える事なのだが、そこはもう触れるまでもない。馴れ初めの話を夜に寝転がりながらする、これがとても自然で上手い。場面が容易に想像できるし、まさにそこしかない。

コウタが親を嫌う場面では、やはり千紗の母親としての姿が印象深い。愛おしく思う種がまかれ、どうしようもなく煩わしい、それでいて愛おしい花が咲く。前作の咲も同じことを言っていた。

千紗関連の話はやっぱり涙を流してしまう。これは前作をプレイしたからこそのものかなと。あの大人しくて病弱な彼女が立派なお母さんになって、しかも病気に悲観せず生きている。強くなった、失うものも増えたはずなのに。母は強しなのだろうか。

手紙の一つ一つも簡潔なようで力強い。果てには読み終えたら燃やせなんて、子を思うからこそ出る言葉だ。子供に良いと思ったものを伝えていくこと、それが生き甲斐なのだと彼女は言う。立派だ。

また、後半で結希視点とは別に和哉視点での千紗の最後が描かれていた。そこでは母親としてではなく、一人の人間としての彼女が強く頭に残った。

「しあわせとは、ひとりだと感じなくていい人生です。幸福とは、自分をひとりだと感じないように生きれることです」

この台詞も委員長時代の彼女を知っていると、彼女の人生に基づいた台詞なんだと気付く。この台詞を見た瞬間、彼女に関する記憶が頭の中でぐるぐる回り始め、いつの間にかぼろぼろ泣いていた。

また、和哉の母親のお話。これは予想だにしないものだったので、驚いた。実は母親だったという事実よりもここまで詰め込んでくるかと、しかも綺麗にまとまっているし…。

母親だとわかると、色々振り返ってみて思う所がある。息子と母の関係であったことも勿論良いのだが、実は嫁と姑で仲良くやっていたんだよというのがまた。これで花嫁修業をしたというエプロンの受け渡しなんかはうるっとくる。

そして最後、前作との関連性が強い締めだった。この世界の終わり。ここで結希のエピソードにてリリィが言っていた「せかい」の話を思い出した。ああ、人格が異なる設定を上手く生かしていたなと。

まあなんて言ったって和哉だ。最後までぶれなかったのが素晴らしい。昔にした決断と同じ、どこまでもかっこいいやつだ。

あとは個人的にあさひの話の中で郁海を指す言葉がちらほら出てきたのが非常に嬉しかった。完全に忘れることなんてできないし、そんなのは寂しすぎる。切ることのできない糸で、強く何重にも結ばれて世界は出来上がっているのだと。結希という名前もそうだが、この作品はやはり全体を通して結びつきを大切にしているのが伝わってくる。

こんなにも素敵な作品に出会えて感無量だ。人と人との繋がりという題材だけでも相当好みなのに、それに親子愛なんかも合わさったら、それはもう神!!!と叫びたくもなる。神!!!