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asteryukariさんのクロガネ回姫譚 -閃夜一夜-の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
クロガネ回姫譚 -閃夜一夜-
ブランド
みなとすてーしょん
得点
80
参照数
1052

一言コメント

彼女の見せてくれた一瞬が本当に最後まで輝き続けていた。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

日本刀に加えて異能まで出てきたら、そりゃあもうテンションが上がらないわけがない。走り出しからウンウンと頷いてしまう場面の連続で、時が光の如く過ぎていった。この作品の何が良いって、それはあくまで戦闘メインであること。勿論、攻略ヒロインは四人存在するが、そのどれもが甘い恋愛話では終わらない。付き合い始めて心が通じて、その上で共に戦っていく。それが何よりも嬉しかった点だ。

これはやはり非18禁であることが大きいのかなと。ただ、現状vita版のみというのはあまりにも規模が小さすぎるため、是非PC版を出してほしいところだが…どうなることやら。

また、戦闘だけでなく仲間と過ごす日常及び掛け合いも非常に大切にしていて、共に戦っている奴らは単なる仕事仲間ではないことを感じさせてくれた。中でも平のラーメン屋に集まり駄弁りながらシーンは印象的だ。ラーメン屋でありながらそばやうどん、定食、デザートまで出てくるから面白い。ぶつくさ言いながらちゃんと用意してくれる平がまた温かいのだ…。

共通ルートにもきちんと尺を与えることにより、読み手に仲間との関係の深さを教えてくれる。こういうのは本当に嬉しくて、共通部分でもう既に誰に派生しても違和感がない状態に仕上がっていた。

個別ルートに派生するとヒロインとの距離がみるみる縮まっていきストンッと落ちる。そこに大きな感動はないものの、その流れがとても自然だからついついにやけてしまう。特にこの作品は本当に魅力的な女性キャラばかり出てくるので余計に。はじめから可愛さ全開の娘もいれば普段とのギャップで読み手の心を揺さぶってくる娘まで、誰が一番可愛かったかなんて問われたら結構悩んでしまう。

ここからはルートごとに感想を述べていく。


◆天国
10年前からずっと主人公のことを想っている天国ちゃん。好きの気持ち全開でがんがん正宗にアタックしていく光景はまさに癒しの一言。そして、そんな天国ちゃんの恋が報われるようにと強く願ってしまうように。

一番目に選んだルートだったが、一番好みだった。というかこんなの一番以外にありえないのではないかと。ずっとずっと正宗のことが好きだった天国ちゃん、その恋が実った事実だけでも十分良いのに更に上をいってしまった。彼女は可愛いだけでなく強く、妻である前に剣士なのだと、その逞しく美しい生き様に心を撃ち抜かれた。

この√で私が号泣してしまった理由はつまるところここにある。その儚げな事実に悲しみを覚えたのではない、剣士として天国としての意思を最後まで貫いていったその彼女に対し、深く感激し喜びの涙を流したのだ。

余命はあと2,3年だとか、明日には死んでしまうかもとか、そんなことを言われ続けた彼女が生きた年数。そして、残したモノ。ああ、これだよこれ…とあまりにも幸せすぎて脱力してしまった。こんなにも素敵な物語をありがとう。


◆伏姫
真面目な委員長タイプ故に何かといじられることが多い彼女。「なんで髪につまようじ刺してんの」とか「テルン」とか言われ放題な彼女は気の毒だがかなり笑える。でもちゃんと女の子っぽい反応を見せてくれたりと一緒に居て飽きが来なそうな女の子であった。

このルートにおける正宗様大好きな天国ちゃんはというと愛人、妾としての道を志しているようでホッとした。というか他のルートでもそうだがこの娘は本当にめげない。身を引きますの10秒後には撤回しているから笑ってしまう。

話は四天王最強のダモクレスが出てくるということでかなり盛り上がる。圧倒的な力の差を見せつけ、その上で倒さねばならなくなる。王道で燃える流れだった。ただ、世界最強というネームバリューのわりにはやや弱く感じる部分もあって、死闘を見たかった私からすると物足りなさを感じた。主人公が上回ったというのは流石に無理があるかと。まあ終盤はインフレ合戦なのでそこまで気にはしていないが。


◆玉鋼
共通ではすぐ下ネタに反応し、伏姫ルートでは「二人の間に何かあったら困るから」という理由で夜な夜な監視を続けていた彼女。作中一のピンク脳と言っていいだろう。でもね、そこがたまらなく可愛いのだ。

このルートは比較的イチャイチャ成分が多めで、それはやはりタマちゃん先輩のキャラによるものだろう。キスのふりをするはずがついチューしてしまったり、酔って一時間チューしてしまったり、お前らどれだけキスするんだよと言いたくなるくらいチューで満ちていた。

内通者+軍人+先輩ということでなかなか扱いづらいのではと思っていたが、彼女の乙女心がそれらを全て消し飛ばしてくれた。私としてもかなりのお気に入りキャラなので素直に嬉しい。ヒロインの中で一番堅物そうだったのに押し倒されて、妊娠して、凄く嬉しそうな笑顔を浮かべて…ほんと可愛いなぁこの人は。


◆虎鉄
「可愛い子枠」としてメンバーから愛されている彼女。ただ、決して足手まといではなく優秀なサポートをしてくれる。仲間っていいなと感じる場面が多々見られる話が描かれていた。

足手まといではないのだが、置きモノになっていたのが残念だったなと。話の核となるお姉ちゃん関連の話も結局、全部正宗頼りなのがなんというか…。彼女は守られるヒロインに当たるのだろうが、せめて姉の後始末は彼女にやらせてほしかったなと。姉を斬り裂き、感謝の言葉をもらうのは彼女であってほしかった。

ただまあ、感情を表に出しにくい彼女が好きよ好きよとすり寄ってくるのはそれなりにくるものがあって、やっぱりこの作品に出てくる女の子は可愛いなと。最後に笑顔が見られて良かった。


◆回姫譚
四人のヒロインを攻略した後に現れる最終ルート。真打と言っていいだろう。ただその内容は…あまりにも杜撰だった。初っ端から鬱展開まっしぐらでその後もどんどん命を落としていく。それはまあ仕方ないかなと割り切れたが、一般生徒を戦わせるところで一気に冷めてしまった。しかも犠牲者が出るという。

加えて好感度なんて湧くはずもないツナ缶くんが調子に乗り始めるという…。「天国には手錠をかけたくない」とか言いつつ高速で脈を締めて落とすのは何なのか。俺たちのテンになにするんだ!正宗が駆けつけてからはもう…。それっぽいBGMが流れて二人の真剣勝負が始まったが微塵も乗れなかった。

度々出てきた「可能性」というワードが最後、物語の仕組みに結びつく締めは見事だなと素直に感心したが、それまでの物語達を愛していた私としては複雑な心境だった。

文句ばかり言っているがこのルートにも好きな点はきちんとあって、それはミカサがようやく生きる目的に達したという事実。

どんな状況下でもそのチート級な能力を駆使し、必ず相手に一矢報いる強さと時たま見られる人間らしさ。作中でも一二を争うくらい好きなキャラクターだった。

命を落とすことになる出来事こそ胸糞だったが、満足して逝く光景はとても美しい。


終盤は不満が募るばかりだったが、個別の話には好きな要素が詰まっていて感情が昂ることもしばしば。中でも天国ルートは至福の時を与えてくれた。このお話が見られただけでも十分すぎる収穫だろう。埋もれることのない輝きをありがとう。