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asteryukariさんの私のリアルは充実しすぎているの長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
私のリアルは充実しすぎている
ブランド
TetraScope
得点
83
参照数
94

一言コメント

プレイ中は常に頬が緩んでしまうような、幸福を感じる一作だった。残念美人な主人公もちょっぴり癖のある男たちも大好きだ。そして彼らの事をもっと眺めていたかった。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

学園では常に明るく、礼儀正しく。生徒会役員も学級委員長も学外ボランティアも積極的に務め、生徒だけでなく先生からの人望も厚い。おまけに美少女ときた。そんな完璧にも見える女の子が主人公。これだけなら凄くイージーなゲームになりそうだが、そうはいかない。なぜなら彼女の正体はちょっぴり残念なオタク系美少女だから。

私はオタク系女子、サブカル系女子という生き物がどうも苦手なので少し不安だったが、もう全然問題なかった。というかむしろオタクの一筋縄ではいかないような女の子だったからここまで楽しめたのかなと。可愛いのはOPを見た時点でわかっていたが(OPの彼女は本当にただの完璧な美少女だった)、そこに面白さまで追加されたらもう敵なしだ。そういう意味だと裏表のある彼女こそが完璧だと言っていいかもしれない。

ただオタク気質なだけでなく、生活態度、言葉遣いまでも荒くなる。平気でクソとか言いだすし、自分のルックスがいけていることも自覚している。彼女が調子に乗っているところを見るだけで笑みが零れた。それでいて女の子らしい反応はしっかりしてくれるから嬉しい。そのルックスでその顔の赤らめ方は反則だろう、そう思う瞬間が多々あった。

とまあ主人公の魅力ばかり語っていると、では乙女ゲームとしての良さは伝わらないのでこの辺にしておく。乙女ゲームとして楽しめたか、その答えは勿論イエスである。攻略対象である男の子たちに魅力があることは言わずもがな、個々に存在するストーリーも主人公の性格、事情に絡めたものであり、とても読み応えがあった。中でも隼√では姉弟愛溢れる良質なエピソードが用意されていて、凄く幸せな気分にさせられた。

以下√ごとに感想を述べていく。


♡穂積
女の子の憧れに近いまさに王子様のような瑞穂…ではなく、ひねくれていて口も悪い弟、穂積が攻略キャラクター。え、こいつがと一瞬思ったが読み進めていくと段々と彼の良さがわかってくる。というか最終的には瑞穂を選ぶ理由はなんだという気持ちにすらなる。

主人公との相性的な意味だと一番お似合いだったのではないだろうか。不器用で中々気持ちを表に出せない彼を主人公がグッと引っ張り上げてくれて、何かと危なっかしい主人公を穂積がすっと助けてくれる。。

主人公との会話が本当に自然で、良いキャラクターを用意してきたなあと。ゲスだと言われればクソだと返す、そんな甘々とは程遠い会話の数々は見るものを和ませる。本当に二人のやりとりを眺めるのが幸せで仕方なかった。

閑音を巡る瑞穂とのやりとりに関してもドロドロしすぎない良い所で止めたなと思う。正直なところ、あっちのカップルについては何も思う所がなかったのでスパッと切り上げてくれて安堵した。

エクストラシナリオでも二人の距離感は変わらなくて、恋人と同じ大学に進みたいなんて可愛い事を言い出した穂積くんに対して容赦ない物言いをする主人公を見て笑ってしまった。二次元と三次元は別、本当にその通り、その通りなんだけど...。彼女のそういう所が好きだし、彼もまたそう思っているに違いない。


♡歩
他の二人とは正反対の純正のオタク男子。で、過去に主人公とオタク友達だったことがきっかけで次第に仲を深めていく。よくできているなと感じたのが序盤の主人公の反応で、過去の出来事を自らの汚点として彼ごと切り捨てようとしていた。彼女が何のために変わったのか、何を守りたいのかがはっきりと示されていた。

そんな状態から恋仲にまで発展できたのは彼が頑張ったから。お世辞にもかっこいいと言える場面ではなかったが、彼の健闘と優しさは彼女の心に届いた。あの行動が全てを変えたのだと私は思う。

また、他√とは異なり主人公がクラスメイトにオタばれしてしまうのも特徴的。てっきりシリアスな展開になっていくのかと思いきやそうではなく、温かな空気が出来上がっていた。本当に希美が良いキャラしている。彼女はエクストラシナリオでも素敵なやりとりを見せてくれる。まあ彼女の正体に衝撃を受けたが、恐らく初めてともいえるオタク友達ができて主人公も相当嬉しいはずだ。殻を破ったことで本当の意味でリア充になれたのかなと。

♡隼
義理の弟。共通パートから主人公の事を異性として意識している節があり、すぐ照れたり、素直になれなかったり、ヤキモチ焼いたり…すごく可愛いやつ。そんな弟は姉が変わるきっかけを作った張本人であり、話も過去に大きく比重を置いて進行していく。

昔は外見がもさくてオタク丸出しだった主人公。そのせいで弟に恥をかかせてしまうこともあったという。主人公側は当然、隼の事を避けていたし、隼も姉を腫れもの扱いしていた。そんな二人の距離を縮めたエピソードがとっても私好みのもので、その影響で急に仲良しになるのではなく、少し距離が縮まる程度に抑えてくれたのも素晴らしい。

そうやって少し距離が近づいた上であのイメチェンの話に繋がる。その丁寧な作りに感謝すら覚えた。あれは主人公が変わるきっかけであると同時に、二人の関係を大きく変える出来事でもあったわけだ。姉の看病と、弟のイメチェン。お互いの何気ない行動が今の二人の関係を作った。そう考えると少し涙が出そうになった。本当に素敵な関係だ。

といった感じで読んでいたので、乙女ゲームとして楽しんでいたかは微妙なところだがとにかく好きなお話だった。



まさかこんなに幸せになれる作品だとは思ってもいなかったので読後はこの作品に対する喜びと、乙女ゲームの持つ可能性をひしひしと感じていた。全体的に短めで、恋愛に関してもやや薄め。しかし本作は間違いなく面白かった。幸せな時間をありがとう。