シリーズ第一作だけあって気になる部分も多いが、主人公である蘇芳に着目して読み進めると良い部分もたくさん見えてくる。
全寮制のミッション系女学院を舞台とした百合色強めの作品であり、男性キャラクターは一切登場しない。加えてブランドの色であった猟奇的な描写もほとんどなくなって、えっちなシーンも取り除かれているというまさに安心安全な女の子同士の物語が描かれていた。
本作を語る上でまず触れておきたいのは絵の美しさ。スチルは言わずもがな立ち絵だって相当綺麗だ。まさに百合というテーマに合った絵柄だったなと。いつもの美しいグロもいいけれど、私としては本作のようなが自然でふわりとしたタッチの方が好みかもしれない。特に主人公たる白羽 蘇芳なんかは素晴らしい造形だったなと思う。相変わらず黒髪ロングの女性を描くのがお上手だ。
この白羽 蘇芳というキャラクターは外見だけでなく、中身もわりと好きなタイプの娘で、人付き合いが苦手だった彼女が少しづつ少しづつ歩み寄っていく光景は読んでいて実に微笑ましかった。また、ただのほほんとしているわけでもなく、自身の考えを提言せねばならない状況ではしっかりと言葉に出すし、推理パートでは友人も軽く引いてしまうほどに頭が切れるのも大きな魅力の一つかなと。見た目的に立花あたりが事態の解決に大きく貢献するのかと思いきや、最初から最後まで蘇芳の独壇場だった。
惜しむらくはその推理パートがイマイチ面白くなかった点で、ちゃんと選択によって答えが導き出されていた点は良かったが、主人公たちが解決しようとしている事態があまりにも狭く薄っぺらいもので、解決した後の感情の揺れ動きは無に等しかった。本当に「ふーん、そうか」くらいの印象で終わってしまった。同ブランド作品である殻ノ少女シリーズくらいとまでは言わないが、もう少し頑張ってほしかったなというのが正直な気持ちだ。
ただまあ、本作のメインは百合物語だと思って読んでいたので、上記についてはそんなに気にしていない。良質且つ面白い百合を見せてくれればそれでいいと、そう考えていたのだ。
まずマユリについて、彼女は序盤からかなり好印象なヒロインで、他の登場人物とは少し違った独特な雰囲気を心惹かれた。強気に見えるけれど、内には弱さを抱えてそうな点も実にいいなと。
そうやってかなり好感度高めで彼女を追っていたのだが、最終的にはあまり好きな部類のキャラクターではなくなってしまった。というのも女の子が好きで、それを激白するシーンは良かったのだが、思った以上に軽い女の子だったのが残念だったなと。
主人公と結ばれるためにはああいった展開しかなかったのもかもしれないが、それでも誰かと重ねていたとしても、心のどこかで立花の事を想い続けてほしかったと思う。私自身が特別立花の事を好いていたわけではないのだが、キャラクターがブレてしまうくらいならば、それくらいやってほしかった。
次に立花について、彼女の場合はわかりやすく真っ直ぐな百合物語だったと思う。立花の過去や立場からややシリアスなムードになりつつあったが、優しく寄り添うような主人公の性格がそれをしっかりと受け止めていた。付き合い始めは不安を詰め込んだようなものだったが、最終的には読んでいて自然と笑みを浮かべてしまうような、良い関係を築きあげてくれたように感じる。
とまあ個別部分に関してはこんなところで、期待に応えてくれたとは言い難いが、それでも好きな点は確かにあった。慌てふためくだけの女の子だっただけ蘇芳が、相手を包み込むような優しく逞しい女性へと成長していく。これこそが本作における最大の見所であり、魅力だったなと私は思う。
色々と語ってきたがまだまだ四分の一の内容にすぎないので、ここから化けていく可能性は充分にあり得る。そんな瞬間に立ち会えてることを願って次なる物語も読んでいきたいと思う。