本作を終えて感じたのは本当に「みんなの物語」だったなぁと。作中で彼らが抱いていた思想に忠実な一作であった。オチもこの作品らしくて大好きだ。
前作にて黒幕として現れたイリアスと天使の軍勢たち。今作ではそれらと戦っていくのが主な流れとなっていたわけだが、まあ序盤から気分が高揚してしまうようなやりとりばかりだった。今まで敵として立ちはだかってきた四天王が仲間になる、そんな嬉しい展開を用意してくれたのだ、楽しいに決まっている。
序盤こそ一方的にやられるだけの、無様と言わざるを得ない結末を迎えた四天王組だったがしっかりと活躍してくれた。本作のメインはラストバトルにあると思うが、好きだった戦闘はというとそれは四天王戦になると思う。四天王たちの細胞を使った機械兵器たちへのリベンジマッチ。燃えないわけがない。
まずはアルマエルマvsハイヌウェレ。自身の最大の武器ともいえる素早さで上をいかれている相手に対してどう戦うか。彼女の出した、いや隠していた答えは最高の一言。はじめからこちらのスタイルで戦いに参加していたら主人公なんて木っ端微塵だろう。しかしそうしなかったのは彼女の優しさであり、サキュバスの女王としての風格なのかなと。この試合を通じてアルマエルマの事を大好きになった。
次に組まれたのがエルベティエvsアンフェスバエナ。この戦闘は洞窟での出来事があったからこそ映えたなと。あの撤退には裏があったのだと、それを見抜いたエルベティエは流石だし、それとなく描いてくれたこの作品もすごい。持久戦に持ち込み動けなくなったところを包み込み確殺。なんともスライムらしいねっとりとした戦い方だった。自爆と言いつつ何個も命を持っているというのは敵からしたら絶望でしかない...。
続いてはたまも様vsツクヨミ。ちなみにたまも様はシリーズで一番好きなキャラだったりする。もふもふなのじゃ。この試合は…まあ、相手が悪かったとしか言いようがない。コピーしたはずの相手が実は弱体化している状態で、しかもその正体は六祖だったなんて...ツクヨミに同情せざるを得ない。「なぜ…」とプロメスティンへ訴える姿が悲しすぎる。まあ、たまも様のファンからしたら最高のサプライズだったわけだが。やっぱりたまも様がナンバーワンじゃないか。
そして、グランべリアvsアルカンシエル。本作の中で一番純粋な剣士同士の決闘であった。アルカンシエル自身は「ハイヌウェレやラプンツェルのように、精神が破綻した方が楽だった」と言っていたが、そうであったらこれほど良いなと感じる試合にはならなかっただろう。剣士として自らを上回る相手と初めて出会い、そのまま死を迎える。ある意味、五体の中では一番幸福な死に方をしたのではないだろうか。
といった感じで四天王がかっこいいだけでなく、敵側の感情がよく描かれていたのも本作の大きな見所の一つかなと。単なる敵として処理されるのではない、彼らもまた戦いに生を懸けている者たちなのだと、それが強く伝わってきた。また、プロメスティンやイリアスについてはしっかり過去が描かれていた点も良い。
プロメスティンとイリアス、二人に共通するのは孤独だったという点。プロメスティンはすさまじい頭脳を持っていたが、彼女の頭脳と探求心についてこれる人間が周りにいなかった。また、イリアスは神という立場であるため、対等に話せる者がいなかった。たとえ自分の命を分け与え、分身を造ってもそれは自分でしかなかったわけだ。
そういった背景を考えるとこの二人が手を組んで戦っていた事実にハッとさせられるし、なんだか憎めないなぁと。そして、そんな彼女達を下したのが別種との共存の可能性を信じたルカ達だった点も上手いなと思う。ストーリーの軸が素晴らしい。本当に屑でどうしようもなかった相手は黒のアリスだけだ。
そして、アリスと言えばメインヒロインの方のアリスも最高だった。イリアス戦のラストでルカと共に見せてくれた最後の一撃は言わずもがな、途中に挟まれた母親との会話も、それから周りの女の子に振り回されるルカを見て呆れる彼女だって素晴らしい。でもやっぱり最後のやりとりだろう。
「ただ長くだらだら生きるよりは、愛する男と密度の濃い一生を送りたい。今の余なら、それが良く分かる」
おやおやまあまあ、魔王様がこんな女の子らしい発言をするようになるだなんて。可愛いとかそういった感情を通り越してある種の感動すら生まれた。はじめはルカを都合のいい養分くらいにしか思っていなかったろうに…私も二人と共に歩んできた仲間なのでくるものがあった。にしても長い冒険の中で最も熾烈な難関がアリスとの交わりだったなんて、なんともまあこの作品らしくていい。交わりを解いた時の主人公の状態を想像して吹いてしまった。
妖女モンスターと戯れたいが為に始めたのにいつの間にか話に夢中になって、妖女モンスターの心情について考えるまでになっていた。こんな素敵な作品に出会えた事を嬉しく思う。