雰囲気は少し変わったかなと思いつつも、最終的にはD.C.シリーズらしいなと感じるように。各ヒロインの個別ルートに関しては首を傾げてしまう瞬間も多かったものの、本作が迎える結末自体は中々良い。
前作、前々作と同様、枯れない桜が咲く島「初音島」を舞台にした作品...なのだが初音島での出来事が語られるのは冒頭及びグランドルートのみ。本作のメインとなる舞台はロンドンの魔法学校となっていた。ロンドンと言えば前作のラストシーンにてさくらが飛ばされた場所だ。そういった意味でも、舞台は変わっても物語の軸は変わらないであろうことを予感させる導入だったなぁと。
例によってルートにロックがかかっており、4人人のヒロインをクリアすることで物語の鍵を握る葵シナリオが解放され、それを読み終えるとエピローグであり、最後の物語でもある「Da Capo」が解放される。この辺に作りはシリーズと同じ。
違うのはその攻略可能人数だ。本作の攻略可能ヒロインは何と「5人」。初めてその事実を知ったときは何かの冗談かと思ったが、いざプレイしてみると本当にそうだった。これまで10人超えが当たり前だったので、シリーズを追ってきた身としては驚きを隠せなかった。もしや未完成品なのではと思ったほどだ。
ただまあ、エロゲとしては非常にスタンダードな人数であることも事実なので、時代に合わせたのかなぁと。感覚としては違和感が残るが、判断としては良かったのかなと思う。また、5人とは言っても並以上のボリュームはあるので、尺不足を感じる瞬間なんかは決してなかったし、シーンに関しても手抜きという感じではなかった。
で、肝心の中身ついて語っていくのだがまずは共通ルートについて。魔法学校での生活を軸に話が進められていくのだが、舞台は変わってもやっている事はいつものD.C.シリーズと良い意味で変わらない。姫乃とのやりとりは歴代の妹ヒロイン達を思い出すし(着替えに偶然出くわして怒られるシーンなんかは非常に印象的)、ユニークな友人キャラも揃っている。ぐいぐい来るヒロインもいたり、かと思えば消極的なヒロインもいたり。安心して読み進めることができた。
少し違うなと感じたのは主人公に対するヒロインたちの好感度で前作、前々作もそこそこの高感度でスタートを切っていたのだが、本作はもっとだ。好きになる手前か、最初から好きくらいの好感度だった。なので好きになるまでの過程を楽しみたいと思うユーザーにとっては少々物足りない作品になってしまうのかなと。まあこのシリーズをやってきてそんなことを感じるユーザーは少ないだろうが。
共通の大きなイベントとなる事件については正直、面白味がなかったなと思うが、それ以外のヒロインとの掛け合い及び友人たちとのやりとりについてはまずまずといったところ。欲を言えば魔法学校らしく魔法を学ぶ過程、授業風景なども見てみたかったなと思うが、最低限の部分は書いてくれていたように感じる。
ここからは個別ルートについて語っていく。
◆リッカ
世界に五人しかいない魔法使いであり、「孤高のカトレア」と呼ばれる彼女。二つ名だけでなくネーミングセンスもお察しで、事あるごとに厨二っぷりを披露していた。Prologueでも主人公に興味津々といった感じだったが、風見鶏編ではもっとぐいぐい来る。個人的に見た目も性格も好みだったので、ヒロインの中では一番好感度が高かった。
驚いたのが年齢で、10や20サバを読んでいるくらいだろうなと思っていただけにその10倍以上の間生きていると知った際は口を大きく開けてしまった。あの年齢で主人公に猛烈なアプローチをかけていたと思うと何というか、非常に興奮する。
本√の要となるのはかつての友人ジルの存在。それまでの比較的穏やかな雰囲気とは打って変わってシリアスな内容となっている。話自体に心を動かされることはなかったものの、今までのリッカの行動を振り返ると、彼女がジルの事をどれだけ意識しているかがわかるので(風見鶏のミッションに協力していたの理由等)、リッカというキャラクターを語る上では欠かせないお話であったなと。
◆シャルル
お姉ちゃん属性を持ちながら、料理の腕は某妹寄りの女の子。前編を通して積極的な態度が印象的で、日常の距離感で言えば姫乃よりも近かったのではないかと。告白したらいつでも受け入れてくれるような、ヒロインたちの中でも特に初期好感度の高いヒロインだった。
個別ルートにて彼女がサンタクロース一族であることが判明する。サンタなんて平和の象徴みたいな題材でどう話を盛り上げるのかなと思っていたが、なるほどそういう展開かぁと。リッカと同じように過去に大切な人を失った事実が大きく関わっていた。個人的には彼女くらい平和でのほほんとしたお話でも良かったかなとも思うが、まあ不快感はなかったのでそれなりには良かったくらいに落ち着いた。
◆姫乃
主事項の幼馴染であり、妹的な存在である彼女。妹と言っても主人公にベタベタするタイプではなく、由夢のような少し尖った性格をしていた。ただ、料理の腕は一流。「大運動会」を作ってしまう彼女とは全然違うのだ...笑。
葛木家の人間ということで、強大な魔力を受け継ぎ、魔法使いを監視する役目を担う「お役目」を継ぐかどうかの話になっていくのだが...話の面白さはさておき、これが由姫や音姉に繋がっていくのかと思うと中々感慨深かった。『正義の魔法使い』のルーツも知ることができて、気持ち的には満足のいく内容だったかなと。
◆サラ
真面目でちっこくてツンツンしてる素敵な女の子。声優さんの力もあって可愛さだけで言えば彼女の横に並ぶヒロインなどいないと思ってしまうくらいには好みの女の子だった。で、気になるシナリオについては...ハンカチ必須の内容だったなと。勿論、笑い過ぎて涙が出た時のためのものだ。
『グニルックの実力者であるということは、魔法使いの社会において一目置かれる存在となる』
ふざけたゴルフみたいな競技に真剣に打ち込むヒロインを眺めているだけでも面白いのに、世界の常識まで狂っているだなんて反則だ。疑問符なんて浮かぶ暇もなく、笑いながら読み耽っていた。本当に一ミリもやってみたいと思わないから凄い。
そして、自分の認識を改め、あくまでスポーツものとして純粋にお話を楽しもうとしたところでいきなり画面が切り替わる。
第二幕の開演だ。
自慢げに映し出される低クオリティな3Dアニメーションを前に口角が上がっていくのを止められるわけもなく、主人公がぽーんと球が飛び、やがて的に当たるタイミングで吹き出してしまった。制作陣は何がしたかったのか、またOKを出した人はどういった頭の構造をしているのか、考えれば考えるほど訳がわからなくて、ひたすら笑った。意外と長めの尺が用意されているのも評価ポイントだ。
といった感じでギャグ的な面白さがあったので、まあ終始楽しんで読めたかなと。
◆葵
ヒロインの中で唯一、魔法学校に通っておらず、様々なバイトを掛け持ちするバイト戦士。魔法使いの素質はないものの、地味ながら愛嬌はあったり、出る所は出ていたりとヒロインとしての魅力は十分に持っていた。
上記の4ルートを経て解放されるお話なだけあって、世界全体に関わる壮大なお話が用意されている。霧だけでなくさくらの存在も密接にかかわってきて、読んでいて面白いし、解決方法も悪くなかったと思う。ただ、杜撰な部分もいくつあったので、話運びをもう少しに丁寧にできていればより良い物語に仕上がっていたかなと。
また、内容が内容なだけに、ヒロインがあまり魅力的に映らなかったのも痛い。共通パートまでは可愛いと感じていたのだが...。
◆Da Capo
驚きの連続だったが、中でもリッカの存在がD.C.シリーズ全体に繋がっていることに気付いた時は思わず声を上げてしまった。似ているとは思っていたが、そう繋がるのかと。本作一の収穫と言っても過言ではないだろう。
あとはやはりさくらが良い役回りをしてくれたなぁと。過去の過ちを認め、その上で同じ事をしようとしている相手を諭す。これまでの彼女の葛藤を知っているからこそ、来るものがあるし、晴れ晴れとした表情で語る彼女はとても眩しかった。
振り返ってみると全体的に面白かったとは言えないが、シリーズを追っていく上では重要な作品だったのかなと。こうして作品を追うごとに繋がっていく感覚がたまらなく気持ちいい。