終末世界を舞台に人間らしさについて、傷つけ合いながら、失いながら考えていく作品。考察作品というより主人公の成長物語といったところでしょうか、変容というワードが中々意味深かったです。
「生存者はたった三名の世界。 確定した終末世界で、少女はいったい何を救済すると言うのだろうか。」
このあらすじに興味を引かれプレイすることに決めました。話が面白いというよりは、感情に強く訴えかけられたという感覚で、本作はSF的な世界観を用いた作品でありながらも、それが単に付随しているだけかのように、「自己の存在証明」、「他者の必要性」等がテーマとして語られていました。これは某作者さんの作品と似ていますね。
ただ、なぜそこまで似通ってしまったのかというくらいには説明不足な点が多く、用語や時代背景などは"Archive"にて多く語られたのですが、物語に強く影響する人物や世界の詳細な説明は少なく、ある程度の感動は得られたものの、やや疑問が残りました。例えばナタリアについてだったりですね。まあ、ナタリアに関してはアペンドディスクで色々明らかになりそう?なのでその辺はアペンドディスクに期待しておきます。純粋にこの作品を楽しめたかというと大いに楽しめましたし、しばらくは引きずりそうです。
この作品は終末世界という世界観だったり、EOについてだったり、進化についてだったり、様々な魅力があるのですが一番私の心に響いたのは"人間らしさ"というものでした。それは彬名が求めた他者への依存だったり、ナタリアが楽園を観測したがった理由だったり。そういう人としての"弱さ"について物語の影で語られていたのかなと思いました。それに主人公は最初気付かなかったんですよね、いや理解できなかったと言った方が正しいのかもしれません。本人も最後まで主張していたように自分のことを人間と認めていなかったのだから。だからこそ、最後まで自分では人間と認める旨の発言を控えていた主人公が、自分の犯した罪の意識に苛まれ、残された自分の果たすべきことを考え、人間らしく行動していく姿が映えました。
個人的に好きなのはナタリアのエピソードで、終始悪役だったナタリアの本当の意志が主人公の発言を通じて垣間見えた時はハッっとさせられました。ナタリアは「誰からも観測されない、自分以外誰もいない世界」にいたんですよね。人のいる世界を観測したかっただけ、自分以外の誰かと会いたかっただけ、寂しかったんだと。彼女が誰よりも人間らしかった、それがわかるとあとはもうナタリアにズルズル感情移入していきました。これが彼女の本心なら、主人公が楽園を観測している時の「おかえり」や「おやすみ」を言っていた彼女の笑顔、喜びも本心だったのではないか。だからこそ「おかえり」という時は決まって主人公の下にあたかも主人のことを待っていた犬のように寄ってきたり、「おやすみ」を言う時は同じベッドで、人と人との温もりを感じるために、寂しくないように寄り添って寝たのかもしれません。そう考えると主人公との日々は本当に幸せで、まさに楽園だったはずなんですよね。
人は一人ではいられない、誰かと関わっていない限り、薄まっていってしまう。時には誰かを傷つけてしまうこともあるけど、それは実際にやってはいけないことだけど、否定はできない。なぜなら人を傷つけて成立する主張もあるから。自分はここにいる、生きているという事実を誰かに知ってほしい。そうやって人間臭いかもしれないが、他者との関係を、かけがえのないものをつくっていく。それが実はどれだけ重要で、美しいかを再認識させられました。