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asteryukariさんの白衣性恋愛症候群 RE:Therapyの長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
白衣性恋愛症候群 RE:Therapy
ブランド
工画堂スタジオ
得点
80
参照数
90

一言コメント

百合恋愛を堪能できるのは勿論の事、主人公の成長なんかもしっかりと描かれており、それが作品を読み進めていく上での面白さに繋がることも多々あった。中でも主人公と読み手を最後まで振り回し続けてくれた彼女の物語は、本作に触れてよかったと思えるほど。まったくツンデレさんなんだから...

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

物語の舞台となるのは小さな私立病院「百合ヶ浜総合病院」。そこで働くことになった新人看護師というのが本作の主人公。そんな彼女が仕事を通じてたくさんの看護師、患者と触れ合い、看護師としても人としても成長していくというのが主なあらすじである。

主人公は新人看護師ということで序盤は戸惑いばかりの日常を送っていく事になる。慣れない起床時間、慣れない環境、慣れない仕事...と慣れないこと尽くしの毎日がとてもリアルに書かれていて、共感のあまり思わず胸がを痛めてしまう瞬間も。初めてアルバイトをした時のあの緊張感を思い出してしまった。

まだ、医療現場が舞台という事で馴染みのないワードがちょこちょこ出てくるのだが、それぞれにしっかりと補足説明がされており、読み手への優しさを感じた。新人の主人公と共に読み手も知識を深めていけるような、そんな作りが私としては少し嬉しかった。地味なところではあるけれど、こういった部分を丁寧にやってくれる作品は意外と少ない。

常に眉間に皺を寄せているような主任と、自分の言う事を全く聞かない患者さん、そして血だらけで緊急搬送されてくる患者さん等々...傍観している身であっても中々にしんどい現場で、少しづつ覚えていこうとするかおり。そんな彼女の成長を目で追っていくのがとても楽しくて、個別ルートに派生する前の段階で既にこの作品を好きになっている自分がいた。

第一にかおりのキャラクターがとっても良いのだ。ドジっ子で、空回りしたり、時に泣き言を零すこともあるけれど、それでも夢だった看護という職務と全うするため、ひたむきに頑張り続ける。それを見て応援したくならないはずもない。そして、それは周りのキャラクター達も同じだったのだろう。なぎさなんかは彼女を支える良き先輩として、事あるごとに彼女の事を慰めてくれた。

序盤の見所はずばり主人公周りとの関係構築にあると私は思っている。嫌なことがあっても、逃げ出したくなっても仲間がいるからこそ頑張れる。仕事終わりになぎさと宅飲みするシーンなんかにはその辺の良さが詰まっていて、ああ、温かいなぁと。キツキツ主任ことはつみも、決して彼女を目に仇にしているようなタイプではなく、むしろ彼女の頑張りを評価しているというのすごく良い。やすこさんも実に私好みのキャラクターだし、周りを見渡して見れば本当に良い人しかいなかった。労働内容は過酷でも、労働環境はむしろ良好であったと言っていいだろう。

そして、ある程度の人間関係が出来上がると、特定のキャラと距離を縮めていくことになり、やがては恋愛関係へと発展していく。ルート分岐の方法としては特に捻りもないのだが、一部キャラクターは少しフラグ管理が必要だったり、またロックがかかっていたりもする。ただ、全ての物語を読み切ってみると、それにもしっかりと意味があったことがわかるはずだ。一番はじめにはつみを選べるようにしなかった点については大いに評価している。

で、その個別ルートの出来についてだが、無印のヒロインのシナリオはよくできていたと思う反面、後に追加されたルートに関しては正直、良いと思えるものが少なかった。やすこさんについてはキャラクターがあまりにも好みだったので、その影響でまあ悪くないかなくらいには落ち着いたが。
ここでは無印ヒロインの中でも特に良かったツンデレ少女こと「堺さゆり」ルートについて語っていこうと思う。


「再生不良性貧血」という病気で入院してきた患者であり、かおりの初めての担当患者。まあ見た目通りのクールな性格で、慣れ合う事を好まない...くらいなら良かったが、いざ話してみるとだいぶ違う。警戒心バリバリの厄介少女だった。新人である主人公を平気で罵倒するし、憎しみをぶつけてくる。しかもその一つがまあまあ尖っているので、時には主人公が俺かけてしまうことも...。恋愛ゲーム故に最終的にデレることがわかっていても、彼女のツンツン攻撃を受けている間は読み手である私も結構辛くて、主人公には心底同情した。冷たいというか、冷たくて痛い、ツンドラ少女だったわけだ。手紙の件なんか本当に辛い...。

しかし、だからこそ彼女が心を開き始めた時の幸せは尋常ではなかった。ああこの時のためにこれまで耐えてきたのだと、そんな気持ちにすらなった。最近もツンデレというジャンルには度々触れていたけれど、これほどまでにツン度の高いヒロインは久々なので、ついテンションが上がってしまった。主人公の見えない所でこっそりとデレてくれるのが凄く良い。

さゆりのためにかおりがオムレットを作るシーンなんかはこのルート、いや本作の中でもかなり印象深いシーンであり、「美味しくない」と言いつつも泣きながら口にかきこむ姿で涙腺を刺激され、退出際の一言で見事に涙のダムが決壊してしまった。あんなの嬉しすぎるだろうし、主人公が泣いてしまうのもよくわかる。

そんな風にしばらくは雪解けのように砕けた関係になっていく様に見惚れていた。初々しく、とても楽しそうにメールを送り合う二人を見てにやけないはずもない。誰にも心を許さなかった少女が、初めて心を許し始めた。そんな瞬間を目撃できている事実こそがもはや「幸せ」に感じた。

そして、この物語が迎える結末、これがまあ素晴らしかった。True Endは二人が好きな身からすると素直に良いと思えたし、これからも二人の愛が続くように願いもした。けれど、最も私の心を打ったのはBad Endにあたる結末だった。

さゆりが最初の最後で笑顔を浮かべるというのも良いし、その後のかおりの行動も...。一見すると心中のように感じるかもしれないが、悲しいからだとか、寂しいだからとか、そういった感情よりも「約束」を優先したのだと私は感じる。「側にいること」、それこそが彼女の願いだったのだから...。



久々に胸にガツンと来るような、そして同時に幸せを感じるお話を読めた気がする。
素晴らしい恋物語をありがとう。