ややシステムが難解だが読み進める価値はある。本当に読みごたえのある、仕掛けが盛りだくさんの楽しい作品だった。
「悲劇へようこそ、だ」
ゲームを開始して早々その言葉が現実のものとして襲いかかってきた。何からやればいいのかわからない…。加えて適当に進んでいくと運命量が枯渇してまたはじめから。いや、運命量ってなんだ?無限にしろ。
そんな風にして試行錯誤しながら読み進めていたのだが、合言葉の場面に辿り着いてから完全に止まってしまった。攻略サイトを見るのは、そこまで頑張ってきた自分としてはとてもとても悔しいものだったが、致し方ない…。
といった感じで、自力で読み進めていくのは中々難しかった。特に運命量の制限が厳しく、苦労させられたがクリアした今となってはこのシステム、制限共に没入感を上げる良いものだったなと思う。不思議なもので、始めこそ二度目はないなという感じで読み進めていたが、今はまたいつの日かやりたいと、そんな気持ちだ。
まあシステムの話はこの辺で、肝心の話の内容についてだがまあ凄かった。やはりこういった題材は強い。分かりやすく目を引く大きな謎と、そのヒントになるであろう意味深な台詞の数々。もう序盤から気になるところを記憶しながら読み進めていた。というか序盤はやり直しをし過ぎたせいで大体の会話が頭に入っているのだが。
クオリアの話や、トランプが出てきた場面での思案、サキの台詞、サキの正体。挙げていけばきりがないほどこの作品には様々な仕掛けが施されていた。
一番初めに驚かされた、と言うか軽い感動を覚えたのが「帽子屋」を合言葉として選択する場面だ。個人的にずっと引っかかっていた場面だったのもあり、あれは気持ちが良かった。ああ、ここでここに繋がってくるのか、凄いなあ。と感動のあまりため息すら出た。
そしてこの辺からは話が一気に動き出すからクリックがやめられない止まらない。美月と主人公、そしてヒロインの皆が協力して終局へと向かっていくその様は見る側を魅了した。特に一葉ちゃん、彼女の健気さには涙を流さざるを得なかった。
「だから、もし…私でも先輩の力になれるなら、私の運命を使ってもらって平気です」
それが何を意味するか知っていながらのこの台詞。ああ、この子は本当に主人公に感謝していて、本当に主人公の事が大好きなんだなあと、彼女の意志の強さがじんじんと伝わってきた。主人公が去る瞬間まで優しく微笑み続けていたのも、主人公の決意が揺らがぬようにと彼女なりに考えたものだったのだろう。だからこそあの涙と本音を零す場面では、えんえん泣いてしまった。
このままゴールかと思いきやそうはならないのがこの作品の厭らしい所であり、面白い所だ。とても主人公とは呼べないほどの非道や、起きてしまった残酷な結末など、後半の展開はどれも手に汗握るものばかりだったが何よりあの仕掛けだ、まさかあんなプレゼントを用意していたとは…。
「あなた」、理解した時には声が漏れていた。そこから本当の意味で、全員で収束へと向かっていくあの光景、高揚感は当分忘れることがないだろう。
読み終わって息を吐き思わず微笑んでしまう、こんな読みごたえのある物語は久し振りだった。何とかして記憶を消去し、もう一度やり直したい限りだ。