初対面こそ最悪であった主人公と時間を重ねていくうち、心を許していく姿は愛らしさの塊。それでいて姉妹関係にある柚鈴を大切に思っており、話は違えど、その思いやりというのはどのお話でも変わらず強いまま。なんと素敵な女の子に出会ってしまったのか、幸せになっていいんだよ...。
男は髭を落とし、洋服姿の人々が街頭に現れるようになり、洋服が珍しくもなって来た、昭和を目の前にした時代の狭間にある僅かな大正時代。そんな時代を背景に舞台は神社というのだから雰囲気は抜群。これを伝奇モノに生かさず何にする。加えて場面に合わせ緩急をつけ流れるBGM、これも雰囲気づくりに一役買っている。
お話も勿論、秀逸なものが多いのだが、「伝奇モノ」と考えると不足しているように感じる。やはり説明不足が目立つのだ。主人公を始めとした、美月や柚鈴などの姉妹たちの出生について、また親である葉桐と一哉、真などの関係、堕ち神や神威についてが終盤になって一気に説明されたため、やや急な展開に感じたし、まだまだ謎が残っていた。
特に堕ち神や神威については本作の最重要事項であるにもかかわらず、かなりサラッとそれも口頭で伝えられたのみであり、内容自体は理解できたが、やはり急なため戸惑った。また、双葉√においては伝奇とは遠くかけ離れた話になっており、正直驚いた。まあ、これが結構面白いから困る。他の話と比較すると平和且つ幸せそうなのがまた何とも。
ただ、シナリオ自体は面白く、キャラクターの想いが強く表れる場面も多い、とても私好みのものだった。特に良かったのは、やはりメインとなる美月と柚鈴のシナリオ。美月に関しては容姿、性格、声が見事私に嵌り、物語の関係上、不幸を被ることが多いというのがまた私の庇護欲を掻き立てた。
自分が一番危ない、悲しい境遇にありながらもなお他人を思いやる、こういった芯の強いキャラクターの惹かれてしまうのだ。
柚鈴√では葉桐の命で何とか自身の命を二年繋いだが、やはり堕ち神としての覚醒を抑えきれず、柚鈴らに自信を殺すか封印するように言う。これは柚鈴がいて、主人公がいて、鈴香がいてみんながいて、幸せな日常を送っているこの状況を壊したくないが故の決断である。
「この幸せを永遠にしたいなって…」
この言葉の意味はあまりにも切なく、どこまでも家族想いだった。あの一枚絵、髪の艶が恐らく涙も表しているんだろうと考えるともう涙が止まらない。
封印された後に思わぬ形で復活というのは少し冷めたが、後のENDを見るとあれでよかったんだと思う。
後のENDというのが柚鈴TRUEなわけだが、なんというか、辛い。
このENDでは封印などせずにザクッといくのだが、その前の掛け合いが悲しすぎる。やるせなさでいっぱいになった。釣りの約束や抱きしめるなんていつでもできる、できたのに。こんな日常のようなことを望む彼女を見て、もう本当に終わりなんだな、死ぬってそういうことなんだなというのが痛いほど伝わって来た。自分達の分(葉桐も)まで幸せになるように柚鈴らに言い聞かせ消える、心に穴が開いた気分になった。
そんな彼女が救われる話は勿論自身の√であるが、ああ良かったと素直に喜べないのがまた容赦ない。堕ち神である自分が子供を産めばまた同じことの繰り返しになる、そんな宿命を生まれてくる我が子にも背負わせたくないし、旦那である主人公にも迷惑をかけたくない。主人公には幸せになってほしいと願う、故に自分と別れてほしいと言う。
……泣。
キミは幸せになっていいんだよ、そう言ってあげたかった。だからこそ自分の幸せは美月と一緒にいることだと言い切る主人公には拍手を送る。よくぞ言った。この先の事を考えると辛い結末が待っているのだろうとは思うが、どうか幸せなひと時を...。
たとえ暗い夜空の様な旅路でも、輝く月は旅人の夜道を照らしてくれる。
苦しくても。
悲しくても。
淡い希望が、そこにあるなら。