個性豊かすぎるヒロイン達と過ごす日常も魅力的だが、個々が胸の奥に抱えているものに対峙していく個別√も中々に面白い。加えてとんでもない隠し玉があったりと、最後まで読み手を楽しませてくれた。
名作「sense off」を手掛けた元長柾木氏の作品であり、期待値はやや高めだった。
共通パートではヒロイン達と学園内、学園内問わず親交を深めていくことになるわけだが、肝心のヒロイン達がまあ一癖も二癖もある子達なので、ちょっとした日常会話がギャグのようになるし、逆に何を意図してわからない発言があったりと、少し普通とは違っている。
しかしながらそれを私は魅力的に感じたし、そっと寄り添いながらそんな変人達を理解しようとしていく主人公にも好感を覚えた。すぐに誘いに乗ってしまうのはどうかとも思うが、本作に限っては性行為も大切なコミュニケーション手段として描かれているため、そんなに違和感はないかなと。流れだけ見ていると稚拙な抜きゲーのように見えるかもしれないが...。
また、個別パートに移ると本格的にヒロインの内面に目を向けた話になっていき、彼女の達の抱える悩みを共有していくこととなる。賑やかで楽しい共通パートと比べるとやや暗い印象を受けるが、ただ適当にシリアスをぶつけるというわけでもなく、あくまでキャラクター像に沿ったテーマで話が展開されていくのが良かったなと。式子なんかは凄く分かりやすい。
個別√の中でも良かったのが推奈√。まず推奈ちゃんが容姿性格共に私好みのキャラクターであったことに加えて、母親(実は姉)の彩子さんもすごく良い役割を担っていたなと。終盤になって彩子さんのことを「好き」という場面は、二人の関係性を如実に表す極めて重要且つ素敵なシーンである。
「人が人でないものに支配されたら..。それはもう人じゃなくなっている」
これはまさにその通りで、決して他人事ではないよなぁと。そして、このような現象を「檻」と表現するのは凄く上手い。ふわふわとしたものが固まり、やがては人の自由をも制限する枷になる。まさにこのお話にぴったりとワードチョイスだと思う。
そして、Genesisパートについては…とりあえずは凄いものを見せてもらった言いたい。というのもせいぜいおまけ程度のシナリオだろうと思っていたら、作品の見方がガラッと変わるような仕掛けが施されていたからだ。内容の好む好まないはさておき、こういうのは素直に嬉しい。
で、内容に関して触れると…まあメタメタだった。慧子ちゃんの話を聞いているうちに何となく近づいてきている感じはしたが、式子の「自分の中に属性があらかじめあって、それを目の前の人間に当てはめてみているだけなの」という台詞で確信した。ああ、これは我々に向けたものなのだと。
ただ、面白いと思う一方でなるほど…とはならなかった。確かにゲームをプレイしていて、ヒロインに興味を持ち始める要素として”属性”かもしれない。しかしながら自分の中に取り込み、自分の中だけを見つめる、それを楽園と呼ぶのはいささか滑稽に映る。そのキャラクターがどういった意図で作られたのか、物語にどう影響するのか、それを見届けられることこそが幸福であり、その幸福を得られる環境こそが楽園なのだと私は思う。なので当作品の主張は面白いと感じる一方で、共感は全くできなかった。
とまあ色々と言いたいことが出てくる作品ではあったが、故に話題性の富んだ作品だったなと。違う価値観を持つエロゲユーザーと議論する際に本作を持ち出すと中々おもしろいかもしれない。何はともあれ面白い体験をさせてもらった。素敵な時間をありがとう。