ErogameScape -エロゲー批評空間-

asteryukariさんのかみのゆの長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
かみのゆ
ブランド
light
得点
81
参照数
169

一言コメント

かみさま達と過ごす賑やかな日々は楽しく、それだけでも充分だった。しかし先にはもっと素敵な光景が広がっていた。あんなにも優しく逞しい主人公は中々いないだろう。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

ある日突然アパートが爆発するというとんでもない始まり方をしていたが、それはさておき作品としてはかなり良かった。第一印象としては神様たち過ごすほのぼのとした日常が魅力の作品といったところだったが、いざやってみるとだいぶ違う。

勿論、彼女達と過ごす日々も魅力的だったのだが、それ以上に各ヒロイン√の出来が良かったなと。そして、その良さを生み出していた最高の功労者は間違いなく主人公くんだろう。

彼に対する初めのイメージはいたって普通だなと。尖ってもなければ大人しいわけでもない。ちょっぴりスケベなごくごく普通の一般男児。そんな感じで少し頼りないかなと思う瞬間もあったのだが、物語を読み進めていくと彼の良さが次第に見えてくる。

奇天烈な姿、行動をする神様たちに戸惑いながらも真面目にコツコツと働く彼を見て、はじめは警戒をしていたヒロイン達も心を許すようになっていく。乙女なんかはわかりやすい反応を見せてくれて、彼に大きな信頼を寄せるようになっていた。かつて背負い投げをかました相手とは思えないほどに。

そして、彼の魅力が光る瞬間というのが個別√であり、その中の三つについて感想を述べていきたいと思う。


まずは杏理√。杏理は主人公と同じ大学に通う一年生であり、親友でもある。しかしその正体は土着の神様であり、男女両性を併せ持つ存在。そんな彼女とどう付き合っていくのかが描かれているのが本√。

これまではなかった男女の関係となり、これまで以上に仲良くなった二人。けれど杏理は悩んでいたわけだ、自身が男でもある事に。そんな彼女に対する主人公の対応がまあかっこよかった。良かったのが口だけではない点で、きちんと男の姿で抱いてあげていた点。

美少女ゲームというジャンルなので嫌悪感を抱いた方もいるかもしれないが、私はよくやってくれたなと。こういった一歩の踏みが大切なのだ。口だけで安心させて終わりだなんて、そんな安っぽい結末でなくて本当に安心した。


次にあや乃√について、絵を食べて生きるかみさまであり、キュビズムの絵を好んで食べ続けていたところ異形の姿になってしまったという。見た目もだが性格もかなり変なヒロインだった。主人公も言っていたが人間体はとてもかわいい。

主人公に女性として扱われていくうち、あや乃も自身の異形の姿について考えるようになっていくのが本√の最大の肝。主人公が自身の姿にうなされているを偶然聞いてしまい、悟ってしまう彼女。その時の語り口調が本当に切なくて、読んでいて胸が苦しくなった。

また、彼が描いた絵を通じて自身の生き方についても嫌悪感を抱くようになり、どうしてこんあかみさまに生まれたのかと嘆くようになっていく彼女。身体が弱ったことで精神的にも弱っていくあや乃は見ていて本当に辛かった。けれど、ここでまた主人公が男を見せてくれた。

「きみを好きな俺は、絶対に変わらないんだって」

彼女がたとえ異形の者であっても、絵を食べて生きる変わり者であっても好きな事には変わりないんだと、そうビシっと言ってくれた。そして、異形の姿の彼女とキスをする。杏理√とは違い、流石に行為までは描写されていなかったがそれでも十分だ。よくぞ、よくぞ行動してくれた。本当にこいつはイケメンすぎる。

エピローグにて子供が絵を食べているのもかなり好きで、最後までしっかりと本√のテーマを大切にし続けてくれたなと。人間になって終わりではないのだ。どんな存在であっても愛する、それが描かれている点がとても良いのだから。かなり好きな系統のお話だった。


そして、籐子√。神由町で一番偉くて強いかみさまである彼女と距離を縮めていく事になるわけだが、彼女には他のかみさま達と大きく違う点がある。それは神湯神社の敷地内から外に出られない事。つまり人間として人間界で暮らしていく事は出来ないのだ。

だからこそ、みんなで仲良く集まれる場所としてかみのゆを作ったわけで、いつも強気で逞しく見える彼女は実際のところ寂しがり屋さんだというが話を進めていくうちにだんだんとわかってくる。

寂しがり屋な籐子は当然、主人公が人間界で生活している時間に寂しさを感じるわけで、そんな二人の立場の違いが本√の最終的な壁となっていく。そして、これの解決方法が素晴らしかった。

人でなくなることを恐れず、恋人と生きる道を選ぶ。彼の選択に思わず歓喜してしまった。最後の一枚絵で見られる籐子の表情が本当に嬉しそうで、それも相俟って少し泣きそうになった。最高の結末だと自信を持って言える。


思い返してみてもやはり主人公が素晴らしい作品だったなと。話として大きく広がることはないし、主人公に目がいかなかった場合は単なる雰囲気ゲーとして終わってしまうだろう。そういった意味でも自分の好みに合致した作品だったのだなと思う。