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asteryukariさんの究極魔法少女 絶対☆姉貴の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
究極魔法少女 絶対☆姉貴
ブランド
アクシス
得点
80
参照数
137

一言コメント

全体を見渡すと矛盾点や粗がいくつも見つかるが、それでも「姉と弟」という関係に最後まで言及し続け、読み手が唸るような回答を叩きつけてくれた本作は、私にとって忘れられない作品となった。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

勉強は全国模試で一位を取り、運動じゃいくつかの地方記録を持っている。おまけに『魔法』まで使える「魔法少女」でもある。本作はそんな凄すぎる姉と主人公、そしてそれを取り巻く幼馴染達の関係性に焦点を当てた物語。

そのタイトル名、設定からまあ十中八九ギャグエロゲーだなと思っていたのだが、そうではなかった。序盤はお姉ちゃんが変な格好をして立ちはだかってきたり、主人公サイドについている三人組「ボランティアーズ」も一ミリも可愛くないおかしな格好をしていたりと、ある意味予想通りというか、ギャグゲーらしい光景が広がっていた。戦う理由、格好、決着の仕方…どれをとっても真剣なんて言葉は当てはまらなくて天を仰いだ。また、シーンについても前述した格好のおかげであまり魅力的に映るものはない。

といった感じで序盤から中盤にかけてはあまり面白くなく、三人のヒロインを攻略した時点でもそれは変わらなかった。各ルートでひかりの異変について言及する部分もあったが結局、解決はせずにそのままヒロインとゴールするので消化不良のまま終わる。ヒロインも好きになれる子がいなかったので、まあこの時点の本作の評価は相当に低かった。かほるこシナリオだけは少し頑張っていたが...。

しかし、タイトル画面より「はじまりのお話」が解放され、過去編を読み進めていくと本作への印象がガラッと変わる。主人公たちの過去だけでなく、魔法の概念や彼らに魔法を授けた人物まで出てきて、ギャグゲー感はゼロになる。後に開放される欠けた世界なんかは本作に対する印象を改めろと言わんばかりの内容で、少し鳥肌が立った。

実質TRUEのひかりシナリオではひかりが暴走理由を紐解きながら、静かに絶望へと足を進めていくことになるわけだが、これがもう本当に辛い。ようやっとひかりルートに入って、これまでのヒロイン以上に時間をかけたイチャイチャを見せつけた上で、どん底に突き落とすような事実を突きつけてくる。私自身、ひかりの事が好きだったのもあって開いた口が塞がらなかったし、それを提示してきた安倍に対しては憤りを隠せなかった。原因を作ったのはお前なのになんだその態度はと。

せっかく思いが通じたのに、想いが通じたが故に離れなければならない。二人一緒に幸せになることができない事実を徐々に徐々に受け入れていくひかりを見ているのが辛くて、受け入れ始めたら覚悟が決まっていくのも切ない。流石は最強なお姉ちゃんなのだけれど、この時だけは感心より切なさが勝った。

そして物語は二つの結末を迎える。一つはみんな無事でひかりも主人公も相思相愛のまま終わるハッピーエンドであり、二人の関係が好きだった身としても納得のいく結末。今まで素直になれなかったひかりが、迷わずに「呪文」を口にする。地の文が彼女の心情を如実に表していて凄く良い。

で、もう一つの結末は…とても辛くて涙も出る。けれど本作をプレイして良かったと、心からそう思うモノが描かれていた。

「あたしは…あたしは!あんたのお姉ちゃんなの!!だから、だから…あたしはあんたが幸せになる為なら…何でもするのよっ!!」

思い返せば彼女はいつだって自分の気持ちよりも主人公の幸せを優先していた。だからこそ、そこをトーダに突かれたわけで...。

切なくて、苦しい…けれど彼女というキャラクターを考えると、非常に彼女らしい選択をしてくれたと私は思う。そういった意味で村上初花ENDを高く評価したい。



振り返ってみるとやっぱり前半が辛いので他人には勧めにくい。ただ後半はテーマ性の強く、それでいて人物の心の機微を丁寧に描いたシナリオが用意されているので、やはり埋もれさせるには惜しい作品だなと。姉と弟のインモラルにここまで徹してくれる作品も少ないだろう。改めて私好みの良作だった。