出会い、繋がることの美しさ、共に笑い合うことの大切さを登場人達を通して痛いほど理解した。
恥ずかしい話、この作品は「Dear Word-Re.-」への繋ぎ程度の認識をしていたので、純粋な面白さにただただ驚いた。この作品単体で十分楽しめた。多少の不満はあれど、こんなにも好きな部分があるなら最終的な評価は間違いなく「良かった」になる。
能力者絡みの戦闘などがよく見られたが、一番に言いたかったことは、「人と人との繋がり」や「かけがえのない日常」、その美しさと尊さなのかなと。色々な人と出会えて、話せる。その幸せについて自慢げに語る登場人物が多かったのが印象的だ。
皆が皆他人を思いやり、それを楽しみながら生きていた。その光景は別に特別なものじゃなくて、ただ皆で集まり飯を食らうなど、本当にどこにでもある日常風景。食事のシーンが多かったのは決してライターさんのお腹が減っていたからではないのだ。
前半で日常シーンが多く語られるからこそ、後半に日常の愛おしさに気付き、満足気に散っていくキャラクター達の姿が映える。読み手である私たちにも彼らの気持ちがわかるのだ。「ああ、たしかにそりゃあ全てを懸けたくなるわ」と何とくせざるを得ないし、そんな生き様の彼らを見て羨ましいとすら思える。
この作品の魅力はやはりそれぞれのキャラクターにあるので、個々に見ていく。
○和哉
本作の主人公。はじめは無気力少年という感じだったが、周りがバカだらけなため、その冷静さを活かしたツッコミが光る。…と思いきや本人も時たまお馬鹿な行動をするため冷静なのかと言われたら違うかもしれない。
主人公補正でめちゃくちゃ戦闘能力が高いのかなと見てみるとそうでもなく、特別であることは間違いないが、戦闘における活躍どころなんかは少なかった。まあ、そちらの分野はカズヤの担当なのだろう。
大川を始めとし、詠二、宗一郎などのお馬鹿組とよく付き合ってきたものだ。でもそんな馬鹿と揉めて、呆れて、最後には笑い合う。その空間は心地よかっただろうなと思う。現に本人も他の仲間達も皆口を揃えてそう言っていた。とびっきり可愛い彼女までいて、何と羨ましい奴。
○大川
お馬鹿筆頭。後半はどうしても出番が少ないが、前半のこいつのアクセントといったらもう。彼のぶっ飛んだ発言に対し、鬼畜な返しをする和哉を見て笑うことが多々あった。和哉との競い合いが始まり、それを見た第三者の反応というのもクスリとくるものばかりで、ああ、楽しいなあと。
結局最後までフワフワした奴だったが、そんな彼が和哉の事を思い出せずに悶々としている姿が酷く胸を締め付けた。
○あさひ
癒し枠かと思ったらまさかのエヒト様!それはいいんだが、癒しを振りまいていた彼女がああいった扱いになってしまったのは少々残念だった。負け犬で、ヤンデレで。元の優しい彼女に戻ってホッとしたが、できれば能天気なままでいてほしかったかなと。
確かに普段からの和哉に対しての入れ込み具合は凄かったが、キャラ的にもシナリオの流れ的にもマイナスだったかなと。千沙の事が好きだったのもあり、やはりどうしても彼女の事は好きになれなかった。悪い子じゃないんだけどなぁ…。
○郁海
彼女が本作において一番私の心を揺さぶったかなと。彼女の心情の変化というのが綺麗すぎる。馬鹿は苦手だが、気付けば自分の周りには馬鹿しかいなかった。でもそんな馬鹿達との出会いが、会話が、一緒に過ごす日常がたまらなく楽しかったんだと。おかげでよく笑うようになったと言っていた。
なんだこの眩しさは…。彼女の追憶があまりにも幸せそうで、気付いたら涙が流れていた。あの誰も寄せつけようとしなかった彼女が、あの周りを見下していた彼女がだ。こんなのは反則だ。
そんな彼らと自分を繋いでくれたあさひに感謝し、彼女を守るために戦うことを決意した彼女は、冷静で頭の良い単なるクラスメイトではなく、紛れもない仲間だった。
○千紗
我らが委員長。正統派美少女。彼女には基本が詰まっている。戸惑い臆することも多い彼女だが、自分の気持ちはハッキリと伝える。うん、完璧だ。彼女は意識する幸せについて語っていた。誰かのために、ご飯を作る。そしてそれが毎日のように続いていけば、それはきっと幸せなものなんだと。うんうん、その通りだ。
彼女の和哉に対する愛がとても甘酸っぱい。初めて好きになった人だもんなぁ…。強く優しかった。自らの命の事や、ひとりぼっちになりたくないという気持ちも関係しているとは思うと、愛おしくて愛おしくて。
○リラ
元は委員会の手駒だった少女。この娘が最後まで生き残るのは意外だった。この娘がというよりは、この娘がいることで周りの温かさが描けていたのかなと感じた。それは咲さんと和哉とリラの三人でいる時だったり、詠二達に誕生日を祝ってもらった時だったり。とにかく周りが優しさで満ちていた。
そして普段は感情を表に出さない彼女だからこそ、咲さんが亡くなる時のはズルいだろう…。もらい泣きしてしまった。
○咲
皆の姉貴。彼女の独白がもう素晴らしい。自分を今まで支えてくれた人たち、そして今度は自分がそれを。
「あの子たちが同じことを繰り返して、そうやって誰かを幸せにしていけるなら、それ以上に幸せなことはない」
過去が笑い、未来が笑う。世界が笑い、自分も笑う。それこそが幸せなのだと、彼女の人生観には頷くばかりだった。
○詠二
はじめ見た時から良いキャラしていたが、やはり彼も泣かせに来た。彼ら自身が言っていたことではあるが、郁海とよく似ている。彼もまた人との繋がり、出会いに感謝し、幸せを感じていた。掛けてくれた言葉も、一緒に笑いあったやつらも忘れたくない。自分が関わってきた全ての人間関係を愛おしく思っているのだと。軽そうに見えて実は情に熱い人間だった。こういうの最高に好きだ。
中でもやっぱり和哉たちと過ごした時間は大切みたいで、彼の回想を見ながらふと宗一郎と和哉と馬鹿やってる日常風景を思い出してぽろぽろ。
そして郁海との最期の会話。
「しっかしそれにしても、変なやつらやったなぁ」からの「アホみたいに楽しかったな」には、とうとう嗚咽漏らした。
○仁
堅いおじさん。堅いだけで数々の修羅場をくぐってきたんだから凄い。彼に関しては活躍も情報も少なく、どうなることやらと読み進めていたが、しっかりと活躍の舞台が用意されていた。回想にて彼がなぜあんなにもお姫様のために尽くそうとするかが少しわかる。
でもやっぱり一番高まったのは宗一郎へのバトンタッチなんだよなぁ。
○宗一郎
記憶を失ったことで始めこそ敵であったが、和哉達と共に生活していくことでかけがえのない仲間になっていく。彼のあほっぷりも中々で、百人一首や食事の際は笑わせてもらった。特に雑草飯じゃんけん、あれはツボってしまった。
いきなりフェードアウトしたかと思ったら、刀拵えて仲間のピンチに駆けつける。あの登場はかっこよすぎて鳥肌が立った。記憶は思い出せないが、何のために戦うかは心得ていたよう。
○レーア
先祖代々受け継がれてきた護衛という職務を終始全うしていた。ただ、勿論それだけではない。守りたかったのは「エヒト」ではなく「叶」なのだから。彼女については少ししか描かれていなかったが、彼女のその忠誠心からは想いがしっかりと伝わってきた。
○叶
エヒトという立場に縛られ、あらゆるものごとを背負い込んで生きてきた。彼女こそが一番の苦労人だろう。よくぞここまで戦ってきた。彼女にこそありふれた日常というのを体験してほしかったし、できることなら普通の女の子として生活してほしい。どう頑張ってもエヒトであるという事実は覆らないのが悲しくて仕方ない。彼女に救いはないのか.…。
キャラごとに回想が挟まることでより感情移入できた。お話的にはもや所々でモヤが残ったが、流した涙は本物だった。Re.が楽しみだ。