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asteryukariさんの眠れる花は春をまつ。の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
眠れる花は春をまつ。
ブランド
130cm
得点
75
参照数
140

一言コメント

読めば読むほど登場人物たちの事を好きになっていくような、人間描写に長けた作品だった。お話にちょっとした苦みはあれど、それが良いアクセントになっていたなと思う。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

◆ストーリー紹介
とある都会の喧騒から遠く離れた村、「天咲村」。

全国にその名を轟かせる大財閥「天童家」の息子にして、生まれ持っての不幸体質でもある主人公・天童一馬は、
今日も今日とて自身38回目となる誘拐事件の人質として捕らえられていた。

颯爽と現れた天童家のメイド・三島葉子によって救出され、今回もなんとか事無きを得る一馬。
しかし、妹・天童一花は泣きながら叱責、もう一人のメイド・野々村樹子にも心配され、
周囲に迷惑ばかりかけてしまう自分の不幸体質に頭を悩ませていた。

しかし、悩んだところで改善の策など見つかるはずも無く、
一馬は自分の不甲斐なさに落胆する日々を送っていた。
そんな折、一馬は自身を「座敷童」であると名乗る一人の少女と出会う――



◆感想
紹介にも書いてある通り、まあ主人公の一馬くんがどうしようもない屑野郎で、無力なくせに口だけは一丁前のクソガキであった。作中でも「カス」と罵られているのが面白い。あの場面ではだれもが皆、誠の意見に同意するだろう。

ただ、彼がカスなのは「守られる立場」にあるからであり、作品全体について考えた時に弱くて当然だなと気付く。腐っても主人公だけれど、本作で見るべきはやはり彼を守り、支える周りの人たちなのかなと思う。最低な主人公だからこそ、周りの存在が映えていた。

まずは彼を守り、育て上げてきた葉子について

戦闘力に特化したメイドさんということでまあ、私の好みど真ん中ストライクなキャラクターだった。意外だったのが見た目のわりに案外、乙女チックな反応を見せてくれるヒロインで、序盤から立場など気にせず一花とバチバチやっていた。主人公のプロポーズをいつまでも覚えていて、自身もまた彼の事を想っている。実にピュアなヒロインだった。

驚いたのが彼女こそが本作におけるTrueヒロインであること。あれだけ一花を意識させるような内容を描いておいて、結局主人公が選んだのは彼女がなんて…最高のチョイスをしてくれたと思う。そこに行きつくまでに不満を抱く場面こそあったが、それを差し引いても充分良かった。

惜しかったのが回想がやや短めだった点で、戦うことしかできないメイドが育て親になっていく光景をもう少し丁寧に描いてほしかったなと。大変好みのキャラクターだったのでそんな事を思ってしまう。


そして、主人公の事を権力で守り抜いていたお兄様にぞっこんな妹、一花ちゃんはというと…この娘もこれまた最高に可愛らしいヒロインだった。ツンデレというよりはデレデレというべきか、1:9くらいのツンデレ比率であった。お兄様の事が好きすぎてグループ傘下の企業に兄グッズの制作を依頼しているあたり、かなりやばめの女の子だなと。

近親相姦なんてどんとこいな妹ヒロインで、ことあるごとに兄に甘え、時に夜這いを仕掛けたりしていた。夜這いに来た際に選択を誤るとかなり異色なENDに飛ばされるが、あれもあれで彼女は幸せだったのかなと。

True√にて世界の真実が明らかになり、彼女がどれほど主人公を愛しているのか、その思いの丈がよくわかるのだが、前述したとおり彼女は選ばれない。結局のところ、主人公は割り切れなかったわけだ。ただ、結末としてはどっちつかずで終わるのでアプローチ次第では彼女が選ばれることも充分にありうる。なんせ相手は優柔不断なお兄様だ、いくらだって揺れるだろう。
 

あとは樹子やそれから剣豪さんだって魅力的なキャラクターだ。剣豪さんが失恋した一花を励ますシーンはかなりお気に入りで、親であり、従者である彼の良さがありありと描かれていたなと。娘の使い方もすごく良い。



◆総括

内容としてはわりとこじんまりしていて、看板ヒロインであるシロよりか他のヒロインに魅力を感じることも多かったが、まあだからこそ楽しめたのかなと思う。何より素敵な妹と素敵なメイドさんが揃っていた事実が本作の価値を何倍にも引き上げてくれる。本当に良い登場人物が揃っている作品だった。