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asteryukariさんのWhite ~blanche comme la lune~の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
White ~blanche comme la lune~
ブランド
ねこねこソフト
得点
84
参照数
265

一言コメント

普通の暮らしでは、気付かずに通り過ぎる、ありふれた、“日常”の一コマこそが、かけがえのない宝物だと知った。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

私がねこねこを好きなせいもあって点数はやや高めになってしまった気もするが、個人的には内容的に満足のいく作品だった。だが、悪い点もあるのは明らかで、複数ライターによる弊害は他のねこねこ作品でも見られるのだが、本作は擁護できない程酷かった。

ブリジット√では話に起伏がなく、主人公も何も魅力がなくただ流されていくだけになっているため、問題外である。また、最も酷い√である、ほたる√では何と主人公が別のキャラになってしまうのだ。今まで共通ルートで妹として兄にベタベタで時たま恋愛感情を見せるような仕草、振る舞いをしていた彼女が、いきなり現れた男と短期間で仲良くなり添い遂げてしまう。まさに主人公寝取られが行われてしまっているのである。しかもほたる√でねこねこ恒例の緊急回避コマンドを入力すると、この作品が出る数年前に発売され現在でも話題にされることが多いヨスガノソラを意識したであろう「そんなに実妹がよけりゃ、ヨスガにソラってろっ」というセリフが放たれる。これに関して寝取られた上に煽られたと感じたユーザーや、ヨスガノソラという作品を貶されたと感じるユーザーからの批判が相次いだらしい。実際に私もプレイ中に切れた。

しかしカナン√に入るとシナリオ担当が海冨さんになり、話に面白さが戻ってくる。カナンは私がこの作品で二番目に好きなキャラクターで、人としても姉としても非常に魅力があるキャラクターだと思う。長命人でありながら、一般人であるレンを実の弟のように育て上げ、どんな局面でも弟のことになると必死になる。途中から弟ではなく男として意識することになっても形が変わるだけで愛している事実は変わらない。そんなに想われている弟はしょっちゅう標的にされたりするが、√の終盤ではカナンと結ばれる未来を選べたにも関わらず、カナンを想うからこそ、それを破棄し戦うなど中々男らしい場面もありよかった。
また、過去編ではクレアというキャラクターが出てくるのだが、この娘が作中で最も好きなキャラクターであり、それ故に一番泣いた話でもある。いつも元気で明るく愛想を振り撒いている彼女がセトと結ばれるシーンで慌てふためく姿は新鮮でとても可愛らしく、特別な存在である自分を受け入れてもらえるのか不安に思うその姿はまさに天使と言える。そう思っていただけに彼女が穢れにより虚ろ目でベッドの上での生活が始まった時は主人公に感情移入し泣きそうになりながらプレイしていたが、そんな状態でありながらも主人公に辛い思いさせてごめんねと謝るシーンがあり、そこで完全に涙が止まらなくなった。知らぬ間に体がむしばまれていく恐怖と闘いながら、主人公を気遣い心配し続ける。私はプレイしながら、「悪いのはきみじゃない、きみじゃないんだ」と思わず言葉にし、自分が一番つらいのに...こんなに良い娘がなぜ、そう問い続けていた。その後、悲壮感を保ったまま過去編は幕を閉じていったため、しばらく余韻に浸っていた。

そしてマリカ√でも過去編がいかに重要であったかのごとくマリカが同じ症状に見舞われる。カトレアという花から連想されるものであったり、マリカと日常の出来事に焦点が当てられ始め、ともさんらしいシナリオが展開されていく。このシナリオはやや胸糞要素もあり、それが勝手に餌をやっていたのも悪いが、マリカになついていた野良猫を近所のババアが迷惑がって自分の猫だと偽り保健所に送り処分してしまうのだ。このシーンでは主人公以上にブチ切れ、どうやったらこのババアを殺処分できるか考えるほど胸糞だった。が、それを偽らずにマリカに事実を伝える主人公には好感が持てた。
この√は過去編と同じような展開になることは明らかだったので主人公とマリカは、セトとクレアと同じようなやりとりをするんだろうな、二回目はさすがに泣けないかなあと思っていたが、ここでブリジットの魅力が爆発する。ブリジットが主人公だけに嫌な役を押し付けまいと自分も一緒にその役目を担うというのだ。後に明らかになるのだが、ブリジットはマリカと本当の姉妹ではなく、赤の他人であり、年齢で言えば自分の方が妹に当たるという。では、なぜそんなにも必死になるのかと主人公が戯けたことを抜かした時の返事が、「私達の絆は、血よりも濃いわ」である。正直想像はついていたがハッとさせられた。ただの小さな女の子が発した言葉であったのならばスッと抜けていくのだが、これまで何よりも血を大事にしてきたメロヴィング家の現当主が言うのだから言葉の重みが違う。この√における過去編との最大の違いは姉妹愛が描かれていることだと思う。
また、過去編とは違いマリカの症状が回復するのも大きな違いであるが、話が急展開でどうしてもご都合主義エンドにしか見えなかったため、マリカがそのまま息を引き取る展開でも悪くはなかったんじゃないかと思う。だがまあ後半の√二つが立て続けに同じような鬱エンドを迎えるのもおかしいので、もう一工夫加えてより丁寧なハッピーエンドを目指して欲しかった。

他にもナイフの傷の回復速度だったり色々消化不良気味ではあるが、様々な愛の形を見せられ、涙する場面も多かったため満足のいくものだった。当たり前の日常で何気ないことの大切さを改めて教えてくれた...そんな作品。