ErogameScape -エロゲー批評空間-

asteryukariさんの嘘つきナレットの優しい暗殺者の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
嘘つきナレットの優しい暗殺者
ブランド
雨傘日傘事務所
得点
83
参照数
170

一言コメント

伝わる真実の温もりをいつも感じていた。たとえ何が聴こえなくたって、今二人は長い長い夜を超え、明けゆく空、そっと、抱かれてる。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

これはアイロンウッドの街を織り成す暗殺者と騎士、魔女と麗人の物語である。そう、騎士と麗人。つまりはあのラベンダードラゴンとキザクラさんが見れるのだ。いやぁこれが非常に嬉しかった。それも脇役ではなく、準主人公のような登場頻度で、終盤なんかはナレット達よりも主人公していた。

この二人は戦闘に関しても勿論素晴らしいのだが、それと同時に日常の会話劇というのが非常に面白い。天然と自由人を掛け合わせてこんな面白さが生み出せるのは流石といったところ。私だったら上手く色をコントロールできずに黒ずんでいってしまいそうだ。

キザクラさんの、エリュズニール喫茶時代から何も変わらない付き合ってあげる優しさ。それがこちらでもナレットとのじゃれあいにて垣間見えた。乙女らしいところもしっかりそのままでさぁ…うーんかわいい!

ラベンダードラゴンも昔と変わらない。堅くてめんどくさくてちょっと面倒くさくて、でもめちゃくちゃ強い。そんな彼が一方的にやられ始めるものだから、あの時は焦った。ノッキングスワロウ恐るべし。

ノッキングスワロウことスティラくん。穏やかな顔して恐ろしい子。全盛期は単身でダークエルフとやりあっていたという…。また、このことが記されている書類(ヴィザルの調べ!名前が出てきてくれて嬉しかった!)には、彼が頭蓋内の出血に伴い脳挫傷を発症していたと記載されているため、これがナレットとの記憶の齟齬を生んでいるのだろう。流石にナレットの記憶の方が正しいはず。

彼のナレットを想う気持ちはとても強くて、そしてだからこそ彼女に届かないというのが切ない。言葉では通じないから度々体を重ねていたのかと思うと、あのシーンの数々もただえっちなだけでなく、とても神秘的なものに見えてくる。いや、えっちだったんだけどね。

あの淡々と人を殺していくスタイルは好きで、その恐ろしさというのもよく伝わってきた。ラベンダードラゴンとの初戦で、もしラベンダードラゴンが闇夜に消える彼を追いかけていたのなら、万が一見つけることが出来ても殺されていただろう。闘技場の舞台であればラベンダードラゴンが勝つだろうが、障害の多い建物の中や路地裏だったら彼が勝っていたに違いない。

そんな彼が溺愛する姫というのがナレットであり、彼女もキザクラさんとはまた別の自由人であった。本作の癒し要素くらいに考えていたのにまさか彼女も○○○とは。こうして見てみるとタイトルが秀逸だなと。

魔女の下りに関してはササッと語るのではなく、もう少し尺を用意してほしかったが、まあ事実はわかったので十分かもしれない。ただ守られるだけの彼女が覚醒し共に戦うという展開は、王道であり熱くて良かった。お互いが好きな人のために好きな人と戦う。こういう愛の表現も好きだ。

彼女もやはりスティラの事が大好きで、それは単純に好きということだけではなく、恩返しの側面もあるかなと。過去から現在までずっと自分のことを考え、守ってきてくれたんだもんなぁ…。こうなると過去についての描写がもっと見たくなってくる。

「大丈夫だよ。どこ行ったってもう、ずっと一緒だから。ナレット」と言われてくすくすくすくす笑う彼女は相当幸せな気分だったことだろう。無論、彼も同じはず。

エピローグは中々考えてしまうもので、全ての話を読み終えた後も少し読み返した。


招待状に関しては単純に綺麗なモノだった。決してナレットとスティラを登場させず、彼らが訪れたことを描く。あちこち掃除されていたり、料理が作ってあったり、極め付けにはあの絵の数々。ここで流れる「約束-toi et moi-」という曲の歌詞が素晴らしく、聴き入ってしまった。まさに彼らの関係そのものだ。


そして黒琥珀の断章、これがどうにも解釈が難しい。時代設定の曖昧さ、暗殺者視点、つまりはスティラ視点で書かれているのだから、嘘の日記の可能性が高い。そして最後の「おかえり」、「ただいま」というのが本当の日記の方なのかなと。

ただ、テオドールの言葉が真実だとするのならば、半年後には二人とも死ぬ運命にある。姉が「あれらはあとどれくらい」という聞き方をしていたので、二人共ということになる。そう考えると、その時が来ることを予感した彼女が、あるいはスティラが、噓の日記として書き記したのかもしれない。

私の最終的な解釈としては、その時代設定の曖昧さから、あれは半年以内に書かれたものであり(番号が大きいのが気になる…)、彼女は嘘の日記のつもりで書いたが、将来的にそうなる可能性を読み手に見せてくれたのかなと。

本作では戦闘の熱さというよりも、どちらかというと想いの熱さの方が伝わってきた。熱く切なく浸れる名作。また機会を作り、読み返したいものだ。