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asteryukariさんのプライベートナースの長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
プライベートナース
ブランド
Angel Smile
得点
84
参照数
75

一言コメント

とにかくヒロイン達が魅力的で、自身の気持ち以上に好きな人の幸せを願う、そんな行動の数々に心を打たれた。こんなにも素敵な少女達がいる作品を埋もれさせてはいけない。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

幼少より謎の病気に侵され、父親は死去、母親は仕事で忙しいため一人暮らしを余儀なくされている。そんなとても恵まれているとはいえない境遇のため、性格も明るいはずもなく、どちらかと捻くれている。本作はそんな彼が「プライベートナース」と呼ばれる住み込みのナースさんと出会い、素敵な幼馴染に支えられながら病気を克服しつつ、人間としても成長していく物語である。



本作の何がそんなに私の心に響いたのかというと、まずは作品の優しく温かな雰囲気である。登場人物のやりとりも、音楽の使い方もすごく自然で心が癒される。

主人公の性格から読み始めの頃はこの先、不愉快に感じる場面が出てくるのではと危惧していたのだが、決してそんな展開にはならなかった。あくまで不器用な少年として描かれており、不快感は一切ない。女の子達の優しさもあって、ツンデレ少年にしか見えなかったのである。

音楽もすごく心地の良い音作りのものばかりであり、常に優しく時に切なさを感じる実に作品にあったものが起用されていた。特に回想シーンは独特な演出と音楽の効果で記憶に残る名場面になるケースが多く、本作を名作たらしめる重要なファクターとなっていた。



次に良かったのが前述した演出である。美しい一枚絵や手書き風のイラストを背景に縦書きのテキストをゆっくりと表示していく。これが個人的にすごく素敵だなと感じるポイントであり、見入ってしまうこともしばしば。登場人物の感情がダイレクトに伝わってくる、本当に素敵な演出だったと思う。



そして、物語におけるヒロインの動かし方...これが本作を評価する最大の理由であり、感涙した部分である。プレイ前はそのタイトルからナースであるまりあが非常に魅力的なヒロインであり、彼女への印象で作品の評価が決まるのだろうなと思っていた。しかし読み違えていた。まりあが魅力的なのは正解であったが、彼女と同等かそれ以上に魅力的なヒロインがいた。それが腐れ縁の少女、「宮本 彩乃」である。

彼女が魅力的な女性であることは序盤の段階で気付くわけだが、それでもまりあルートをやっている段階では健気な女の子くらいの印象だった。で、まりあルートの攻略を進めていくと、なぜか彩乃とデートする展開を迎えた。なぜ彼女とデートなのか、好感度的にまりあとデートするのが自然なのではないか。フラグ立てを間違えたのか等々疑問を抱えながら読み進めていった先で衝撃を受ける。

「まさかお前、俺の事」
「まあね、一応...ずっとさ、好きだったんだけど」

過去に付き合ったことがある二人、けれど近すぎるが故に合わなかった...そう思っていたのは主人公だけで、彼女はずっと彼の事を想い続けていた。毎朝、彼を迎えに来ていたのも、彼が倒れた時はつきっきりで看病していたのも、決してお人よしだからではない。彼が好きだから、そうしたいからやっていたのである。

思い返せば回想でも彼女は幸せそうに笑顔を浮かべていた。主人公が微妙な表情を浮かべている時も、照れている時も変わらずに。きっと主人公と一緒にいるだけで嬉しかったのだろう。


そんな秘密を暴露した彼女だが、それは"告白"のためにしたものではなく、"決意"のためにしたものであった。「好きだから私と付き合って」ではない、「好きだから幸せになって」なのである。そして、彼の恋路が上手くいくように後押ししようとする。どこまで良い子なのだろうか、まりあルートをやっているはずなのに彼女に心を奪われてしまっている自分がいた。

「見返りがなくても、誰かの事をすごく好きだと思える自分...そんな風になれたら素敵だなって思わない?」
「だからワタシは好きだよ。自分の事...」

後日の彼女の台詞も本当に強く逞しくて、感涙しながら読み進めていた。完全にフェードアウトするのではなく、主人公がちゃんと上手くやっているか見守っているのが良い女過ぎて良い女過ぎて...。そして、案の定上手くいっていないことがわかると、主人公だけではなくまりあにも喝を入れる。それもわざと自分が嫌な女に見えるような言葉を口にして...こんなに魅力的なヒロインに出会ったのはいつ振りだろうか。


また、彩乃√では今度はまりあが後押しする展開になるのも嬉しい。彩乃らしくない弱り方をしたところで、まりあが優しく後押ししてくれる。本当に丁寧でキャラクター愛に溢れた作りにただただ涙するばかりである。



とここまで褒めちぎってきたが、全体を見てみるとまりあ√後半の展開が少し異質だったり、他の二人に比べると少し美緒がヒロインとして弱かったりする。だが、結末は演出の効果もあってどれも納得のいくものになっているし、何よりここまで語ってきたヒロイン二人の魅力が半端なものではない。なぜこんな素敵な作品をこれまで発掘できなかったのか、喜びと同じくらい悔しさがある。

まさに埋もれている名作であった。