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asteryukariさんのヴィザルの日記の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
ヴィザルの日記
ブランド
雨傘日傘事務所
得点
83
参照数
212

一言コメント

丁寧に描かれた日常だからこそ、その大切さ、尊さというのが後になって物語に響いてくる。構成が非常に好みだった。こちらまでセントサウスという街を好きになる。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

前半はギャグや日常を大切にした話が続き、フリーシナリオにて少しずつ先の戦いの香りが漂ってくる。コルクがヴィザルを始めとし、街の人と仲良くなっていくのが印象的だ。派手さはないが、後々この日常の風景描写というのが重要になってくる。

因果応報ともいうべきか、リアンの復讐劇が始まり、街の人々が無差別に次々と殺されていくわけだが、この時のコルクの回想こそがこの作品の大きな魅力の一つであると思う。

ヴィザルと暮らすようになり、ヴィザルを通じてまちの人々とたくさん知り合った事。下の階の場末の酒場を営む小粋な婆から始まり、いつも仕事をさぼり、露店や路地裏をぶらぶらうろうろしている悪党のサブナック。

そしてそれを捕まえることが得意で、ヴィザルには厳しいが、コルクには出会うと必ずビスケットをくれるフラウロス。

娼館長屋の用心棒でありながら、いつもからかわれたりして用心棒らしくない猫の獣人クリノラス。

いつも笑い、いつも遅刻し罰を受けている何かと話すことの多いメイコ。

この街には面白い人間がたくさんいる。この街に住み、この街で生きてきた彼は勿論、この街が大好きだった。彼女と歩く賑やかな十字路も、彼女に手を引かれる静かな路地裏も、彼女の世話を焼く事務所の部屋も、そして彼女と眠った長椅子も。

日常のシーンが長かったのは、このためであったかと思うほど、ここにきて前半部分が生きてきた。丁寧であったからこそコルクの気持ちがよくわかる。こんなにも愛していた日常を壊されて黙っているはずがないのだ。もう終盤はコルクしか見えなかった。

だからまあ最後は涙が流れてしまったわけだ。力を使い果たし目が見えなくなりながらも、主であるヴィザルの事を気に掛ける。主が大好きだからこそ。

ヴィザルもヴィザルでコルクの側に付き添い、ヴィザルの譫言に耳を傾け、声を掛ける。

このやりとりがとっても切なくて、でも温かくて。いつも長椅子の上でしていたように、ヴィザルのおなかの上にコルクが乗り、安心する場面ではもう涙が、涙が…。
「これならもう、こわくないぞ。ヴィザル。怖くないぞ。もう平気じゃ」

その後のヴィザルの様子を描いた「ないたあかおに」も短いながらも良かった。リィルゥと面識あったんだね。

木製のゴーレムと街娼婦という不思議な組み合わせながらも、まさかこれほどまでに見ていて心地の良い、大好きな二人組になるとは思わなかった。もうこの二人の会話のすべてが今は愛おしい。