読み始めてすぐに心を掴まれた。もっとこの話を読みたいという気持ちがそのまま最後まで続き、全ての物語を読み終えた時にようやく一息つけた。掲げたテーマを捨てることなく最後まで描き切った点について、私は大いに評価したい。
あらすじを全く見ていなかったのもあって、記憶を失った主人公達と同様、舞台がどこかもどういった話なのかも見えなかった。そして、だからこそ私はこの作品にこんなにも心惹かれたのだと思う。
過去回想が始まると共に、かつての仲間達の存在を知る。彼等は火星で人間が住めるよう、テラフォーミングしに来た人類最初の調査隊だった。この回想パートが本当に面白くて、ただ「こういった事実があったよ」とテキストに書いて終わりではなかったところがとても嬉しい。また、内容のほとんどが日常会話な点も彼等の仲を理解できていいなと思う。
そんな素晴らしい回想を経て現実に戻る。そしてカズナの言葉改めてここがどこかを伝える。序盤も序盤なのに一気に興奮してしまった。用意してきた材料も最高だが何より話の運び方だ。OPのタイミングも秀逸で、かつての仲間が敵として立ち塞がってくることを予感させてくれる。早くこれから始まる物語が読みたいと、その一心でOPを眺めていた。
何となく話の流れが見えてきても即奴らと戦うというわけでもなく、まずは能力の発現からな点も丁寧で良い。二人にはどんな能力が付与されるのか、また他の人物はどういった能力を有しているのか気になることが多すぎて笑みを浮かべてしまった。
また、日常パートもかなりお気に入りで、雫と不知火のユーモア溢れる会話劇も勿論、リ―ティアやアクアとの癒しに満ちた掛け合いなんかもかなり良い。お堅いと思っていたアクアがまさかのいじられ役担当とは...。しかもむっつりだし、ちょろいしでめちゃめちゃ可愛い。是非、私も「じ、次元斬…笑」と揶揄ってみたいものだ。
下界に出る前に彼等と戦闘を行うのも実に丁寧で良いなと感じた。実戦経験の少ない、ましてや自分の能力の使い方を理解していない彼等を、そのまま戦場に放り投げるなんてことをしなくて本当に安心した。戦いの中で覚えていくというのもまあ悪くないが、相手が相手なので。
ここからはルートごとに感想を述べていく。
●カズナ
一番シンプル且つ読みやすいルートだったように感じる。恋愛に関しても一番力が入っていたのかなと。初めて恋心を自覚したカズナさんはとても可愛らしく、シーンもヒロインの中だと群を抜いて良かった。不知火くんが暴走してしまうのもよくわかるよ。
母親が登場した時は、母と娘の軋轢を描くのかなと予想したがそうではなかった。むしろ親子の話はわりと控えめだったのかなと。このルートのメインは不知火のかつての友であり宿敵、コウとの話だった。
心臓移植による影響、それは当人達だけの問題ではなかったわけだ。まあ大切にしていた自分の妹の心臓が他人のものになっていたら負の感情も覚える。それこそ「奪われた」と感じるのも無理はない。だが「殺した」までいくと行き過ぎかなと。実際、コウは行き過ぎていたのだ。憎しみを得れば得るほど強くなるが、それと同時に思考が停止していく。
そんな状態になってしまった彼の止め方が良かった。それはもうバシッと決めてくれた。いやあ嬉しい。
また、外野の戦闘はタイロン戦が好みで、チャペックとの会話は切なくも見応えのあるものだった。自らが作り出したモノが自分の夢を叶えてくれる。彼はこの上なく幸せに逝くことが出来たのではないだろうか。
●リ―ティア&アクア
我らが妹リ―ティアちゃん。あの満面の笑みと可愛らしい声色に何人の隊員達が射止められたのだろうか、あんな娘に罵られても嬉しいだけだ。平伏したい...。アクアさんも絶対えっちだしで期待は充分だった。
話としては少し弱めだったかなと。というのも敵として認識していた災害達が早々にフェードアウトしてしまうのが少し不満だった。そして、代わり出てくるのが大きな機械。そんなのは全然燃えない。
ただ、その機械「ヘカトンケイル」自体は中々良いキャラクターだ。ヘカトンケイルの視点で殺される瞬間を見せ、それにより「殺した」という事実を彼等だけでなく読み手にも認識させる。リ―ティアという女の子を意識した話作りになっていた。
あとは問題児コウくんをどう処理するかだが...雫ちゃんが強すぎて笑ってしまった。これで「ファントムキラー」と名乗っているのかと思うとつい…笑。
この√はアクアとリ―ティアのハーレムENDかリ―ティアENDに分岐するが、個人的にはリ―ティアENDが良かったかなと。守護る者として主の幸せを心から祝福する、そんなアクアさんが素敵だった。
●雫
共通の時から夫婦の様な掛け合いを見せてくれた雫と不知火の物語。このルートが最も面白く、そして濃い。これまでカラミティ・モンキーズの扱いに微妙に不満を抱いていたが、このルートでの彼等は本当に良かった。過去のいざこざは過去の奴らで片づける。こういう展開が私は好きなのだ。序盤の共通ルートで見られた温かさを再度感じることが出来た。
また、コウの選択も絶妙。友達だから助けるとか、償うためにとかそんな事は考えていない。自分がそうしたいから戦う。憎めないキャラとして丁度いい立ち位置に座って退場していったなと。安易に「良い奴」にしようとしない所が素晴らしい。
そんなかつての友達の活躍に見入っていた分、別れのシーンはくるものがあった。ドミトリの「―俺は。お前たちと共にあるなら、どこに行っても怖くねぇな」がまたずるい。人類の希望を背負い、ひたむきに前に進み続けた彼等にただただ「お疲れ様」と言いたかった。
そして、迎えるシャノンとの最終戦。プレイヤーの多くはポカンとしてしまったのではないだろうか。スケールが大きくなりすぎだし、敵であるはずのシャノンを討たずして終わる。これでいいのかと。
私も初めは唖然としていたのだが、同時にこの作品のテーマを思い出し、考え方が変わった。この作品のテーマは「進化」。それを意識して読むといかにテーマに、タイトルに忠実に作られていたかに気付く。進化を書くのであればその果てまでしっかりと書く。そんな筆者の強いこだわりを感じた。
これを放棄して人間レベルの戦闘を書けば、熱さを残したまま終わることができたかもしれないがそれでは意味がない。恐らく筆者自身、この辺は悩んだのではないだろうか。本当によく書き切ってくれた。
また、最後のシャノンの言葉が、冒頭のシャノンの言葉と繋がる事のもまた良い。まさに一貫した作品だった。
環太郎の事とか、星の巫女の事とか不満はいくつかあるけれど、終始楽しく読んでいたのは間違いない。序盤の読み手の心をぐっと引き込むような話の組み方、明るい雰囲気作り、そしてテーマへの意識。どれも素晴らしかった。