ErogameScape -エロゲー批評空間-

asteryukariさんのみずいろの長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
みずいろ
ブランド
ねこねこソフト
得点
86
参照数
361

一言コメント

追い続けるような夢や目標があるわけでもなく、ただ、なんとなく過ぎる日々。特別じゃなくていい、普通でいいんだと。ありふれた日常の大切さをねこねこはいつも教えてくれる。そして、それがいつも心に染み渡るのだ。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

日常の掛け合いが既に面白かったため、このまま軽い日常系の話が続いていくのかなと、少し気を緩めながらプレイしていたわけだが、個別√に派生してから一気に来た。日和√が一番胸に響いたのは間違いないが、雪希√も個人的にかなり好きなテーマを扱っていて、じんわりと胸に染みてくるような、優しくて、痛い話だった。この作品に限らず、他のねこねこ作品でもそうなのだが、幼少期と現在でパート分けする構成が個別√で活かされていてたように感じる。

まずは雪希√について、好きなテーマというのは言うまでもない、三角関係である。あくまで私の主観だが、三角関係は主人公がどちらも選べない、どっちつかずの判断をしてしまったが故に起こる場合が多く見られると思う。故にヒロインは苦しみ、時にはヒロイン同士の争い、ドロドロした関係になっていくという感じだ。だからこそ主人公に対して嫌悪感を抱きやすいし、三角関係が嫌いという方も多いだろう。

私としてはヒロインが悩み、葛藤しそして自分の気持ちの答えを出すという過程が非常に好きなため、それに繋がることの多い三角関係は好きだ。また、ただドロドロするだけで終わる三角関係ではなく、どちらかが遠慮あるいは他方のヒロインを後押しするというかたちをとる三角関係もある。私はこれが大好きで、これは本√でも見られた。

雪希は物分かりの良い出来た妹で、かと思えば自分の意見はハッキリ言うし、兄に褒められたりすると素直に本当に嬉しそうに喜ぶ。まさしく良い妹。そんな欠点の無いような彼女が実は兄と、そして日和との関係について葛藤し続けていたというのがまたなんとも言えない。

ずっと一緒だったんだから、いつまでも兄の側にいたい。そう思うようになり、だったら日和はとなるわけだ。当然、日和も健二の事が好きなようで、それは彼女も幼少期から知っていた。ではなぜ現在までそんな複雑な気持ちで関係を続けていくことが出来たのかというと、単純に楽しかったから。健二と日和と、そして私、この三人で少しも変わらず続いていったらいいと彼女は思っていた。

しかしそうはいかないというのがこの話の内容。端的に言って見ていて辛い。何が辛いって雪希も日和も別に敵対心があるわけではないということだ。どちらも優しいからこそ双方に苦しむことになる。雪希は日和に比べると気持ちが先行していたが、だからといって日和を蹴落としてまで兄と一緒にいたいわけではない。でも、チョコレートは同時に渡すという誓いを破ってしまったり、指輪のことがあったりした。

そんな雪希の姿を見て日和が身を引いたというもまた切ない。身を引いた日和がすぐに涙を流してしまうというのがもう、幼馴染として好きという訳ではなく、本当に女の子として好きだったんだなというのが痛いほど伝わってきた。そしてそれを見て泣く雪希。きっと罪悪感でいっぱいだったであろう、何度ごめんなさいと心の中で唱えていただろう。お互いが泣きながら抱き合う。この光景を見て涙を流しつつも、私はこれを美しいと思った。スッキリもしないし、この先の事を考えるとまた切なくなる、それでも美しい。



そして日和√ではもう画面見えなくなるほど泣かされた。まさか日和があんな状態だったとは。そうわかると今まで淡白で変化のないように見えた日常風景がガラッと変わった。あれは日和にとってどれだけ幸せな日々だったのか、普通であるということがどれだけ大切なのか。他のねこねこ作品でも度々テーマとして扱われる「日常の大切さ」というのが、やはりまたしても私の胸に突き刺さった。驚くほど飽きが来ないテーマであるし、毎回泣かされてしまう。

日和√の中でも一番好きなシーンといえばやはりストローのシーンだ。その行為自体も良いのだが、日和が途中まで飲むふりをしていたということ。それはジュースが空になったら終わってしまうから、いつまでもこの時間が続けばいいと思っていたからだという。こんな綺麗な会話を思いつき、それをキャラクターと共に描き切るライターさんにはもう本当に尊敬と感謝の気持ちしかない。凄すぎるし、綺麗すぎるだろう...。そこから指輪までの流れはもうセンスが光りっぱなしだった。この人にしか書けないなと、そう思わせてくれた。

しかもその怒涛の追撃は終わらない。記憶を失うというのはまあそうなるかなとは思ったが、最後まで奇跡を起こさない、でもちょっとしたご褒美を与えてくれるような、そんな終わり方にしてくれたのがもうたまらなかった。正直、再開してハッピーエンドでもいいかくらいに考えていたが、侮っていた、駆け足にもならず十分に尺を取って描き切る。涙を流しながらため息をついた。エピローグであるみずいろに関しても素晴らしい。

毎日同じように過ごして、笑って、泣いて、喜んで、テレビ見て、話して。別に劇的な出来事も、ドラマのような物語もない日常。そんな普通の毎日がいかに大切でいかに愛おしいものであるか、この作品を通じて改めて考えさせられた。