何をもって幸せだと思えるか、何があって生まれてきてよかったと感じられるか。とある少女の想いが私の胸に突き刺さった。
生きて動く人形たちの住む「人形の国」を舞台とした物語。我々が普段目にするような玩具の人形ではない、会話もできて食事もできて、性行為だってできる。そんな変わった人形たちと共に話が進行していく。その珍しい設定に一目見て心惹かれた。
序盤はかなり日常寄りの内容となっていて、ユーリスとリーゼを中心とした賑やかな毎日が綴られていく。人形を作ったのは誰か、また各々の過去なんかも伏せてある。そんな状態だったので一話目「黒い森の悪魔」ではわかる事の方が少なかった。最後のシーンだけは中々の衝撃を与えてくれたが、それでも面白いという感情はこの時点で生まれていなかったかなと。
面白いと感じ始めたのは二話目の「わたしがいて、あなたがいる」。まあ作品の構成がずるくて、一話であんな結末を見せられた後だからどうしてもリーゼへと意識が向く。ユーリスを傷付けられた事で嫉妬や怒りなど、新しい感情を獲得していく彼女はとても眺め甲斐のある人物だった。
嫉妬心が募るあまりユーリスを突き放してしまう場面はかなり印象的で、リーゼだけでなくユーリスの気持ちなんかもよく描かれていたと思う。妬みや嫉みが消えない少女とどうしたらいいのかわからない少女。けれど一緒にいたいという気持ちは同じ。あの一件で二人の心の距離は大きく縮まったのだなと思う。
また、このお話ではマキナの失恋も描かれていて、彼女の事を気に入った身としては胸にくるものだった。初めて会った時からユーリスの事が大好きで、彼女が落ち込んだ時も励ましてきた。それも五十年もの間。それを知り合って一年足らずの女に取られたのだから心中穏やかなはずもない。そんな彼女の本音を包み隠さず見せてくれたのが私はとても嬉しかった。
そしてラストのフリードリヒ殿下との対話のシーンは…とてつもなかった。
「──行けません、殿下」
今まで想い続けてきた主君とも呼べる存在が手を差し伸べてきた。けれど彼女が出した答えは”ノー”だったのだ。そして、それは何よりもリーゼの事を愛しているから。”過去”ではなく”今”を選択した彼女の力強い主張は私の胸の奥まで響いてきた。一話のエクストラシナリオ「黒太子の寵姫」を読んでいるとこのシーンの重要さが良く分かる。
三話目の「我が愛しき人形の姫」はマキナ視点のお話であり、彼女の事を気に入っていた私としては嬉しすぎるものだった。このお話は前の一話二話とは違い、彼女が一歩踏み出すものであり、リーゼではなくユーリスへ自分の本音をしっかりとぶちまける。
「好きなの!本当に好きなの!!初めて会ったときからずっと!!側にいられないときも、一日だって忘れたことはなかった!!側にいられないと苦しくて、気が狂いそうになって!!…」
今まで抑えてきた気持ちをすべて放出するかのような熱い告白に思わず涙しそうになった。こんな醜くも美しい告白が見られただけでこの作品をプレイした価値はあったと思う。
で、そこから待ち受けるのはハッピーエンドではなくビターエンド。なんでこんな展開になってしまったのだと絶望した方も中に入るかもしれない。だが、マキナは確かに幸せだったのだ。ユーリスに出逢えて、一緒に生きて、愛し合えて。これまでの彼女の歩みを思い返すと自然とそう感じてしまう。また、追加についても同様に素晴らしかった。あの笑顔を見て三話の結末をBADと捉える人はいないだろう。
そして、四話目の「人形たちの森」はこれまでをまとめるための、作品の総仕上げとなるお話…なのだが上手くまとめあげていたかというと微妙なところ。個人的には人形の世界だけで完結させてほしかったなぁと思ってしまった。あちら側の世界の人物たちにあまり興味を持てなかったのが大きいかもしれない。
まあ残念な部分が目立っていたわけだが、同時に素敵な部分も確かに存在して、特に二話と三話はかなり私好みの話の運び方をしていた。情報の少なさ故にどうなるのかわからない作品だったが、しっかりと良い物語を提供してくれた。そういう意味でもプレイできてよかったなと。