共に傷付き合いながらも、幸せを求めて支え合っていく。そんな彼女たちの物語がとても胸に響いた。
前作と同様に温暖化の影響で街の半分近くが海の底に沈んでしまった世界が舞台となっている。ただ、その世界観が物語に直結することはなく、メインはあくまでヒロイン達との恋愛物語。
物語は主人公が事故に遭って入院し始めるという中々に急な始まり方をするのだが、その病院で出逢った一人の少女が主人公の運命を大きく変えることになる。彼女の名前は織姫星であり、名前だけでなく中身も少し変わった彼女に主人公は惹かれていく。
作品の構成は二部構成となっており、星との出会い…そして別れが一部であり、彼女が亡くなった後が二部。てっきり星も他とヒロイン達と同じく後半でルート分岐するのかなと思っていただけに、早々に退場してしまった彼女を見て少し固まってしまった。しかも前作の春音ちゃんと同じサトリ病だなんて…正直かなりくるものがあった。『織姫』という名前をそう使うだなんて...。余談だが、サトリ病の院内で扱いがどこか某作品を思い出す。
で、二部では想い人を失った主人公が立ち直っていくお話…なのだがそんなすぐに立ち直れるわけでもなく、序盤から終始シリアスムードで事が進んでいく。ことあるごとに彼女の事を思い出し、何なら夢の中で対話だってしてしまう。二部構成でしかも想い人の死を引き摺るタイプの作品は久々だったのもあって、かなり見入ってしまった。
ただまあ、いつまでも引き摺っていても解決しないぞということで、共に生活しているヒロイン達と徐々に距離を縮めていくわけだが、二部で新規に登場したヒロインの話に関しては特に心が動く瞬間もなく、結末に関してもあまりしっくりくるものではなかった。卯里ちゃんなんかは容姿がとても可愛いのだが、残念ながら話の方はあまり好みではない。
では誰が良かったのかというと、それはもう小枝子様に決まっている。主人公の幼馴染であり、その当たりの強い性格と美しい容姿から学園内では”小枝子様”と呼ばれている。何なら小枝子親衛隊なるものまであるらしい。是非、入隊したいものである。
彼女が他のヒロインと違うのは、一部の頃から登場し、主人公と一緒に星を失った痛みを味わっている点。はじめは主人公にまとわりつくお邪魔虫くらいにしか思っていなかった彼女だが、会話を重ねていく事で星を友達、もっと言えば大切な人として認識するようになっていた彼女。それなのに...。
小枝子様ルートに突入すると、あの頃の回想を挟みながら主人公と寄り添いあっていくことになるわけだが、その過程が本当に素敵だった。星に捉われ続けている主人公を何とか開放しようと、これまでは伏せていた感情を表に出すようになり、人としても女としても魅力的になっていく彼女。多少強引であろうと、繋ぎ止めなければいけないと、そんな彼女のちょっぴり我儘で逞しい姿を見て、もはやぞっこん状態だった。
そして、後半部分ではとある女の子をきっかけに今度は彼女が檻に閉じ籠ってしまうわけだが、そこは勿論、主人公が手を伸ばしてくれると。その『寄り添う』という言葉がぴったりな二人を見て満面の笑みを浮かべてしまった。こんなのもう他のヒロインなんて見えなくなってしまう。
また、個人的に嬉しかったのが星の最期を看取った際の回想が差し込まれていた点。
「私は泣きだすわけにはいかなかった…。倒れるわけには、いかなかった…」
「私よりずっと辛いであろう、亘がいたから…」
彼女だって相当に辛かっただろうに、それでも他人の為に頑張ろうとする。その逞しさにただただ心を打たれた。あのぶっきらぼうな慰め方も、自身の悲しみを押し殺しながらだったのかと思うと涙が出てくる。
振り返ってみると本当に小枝子様が魅力の作品だったなと。彼女がいたからこそ、ここまで評価していると言っても過言ではない。主人公だけでなく、作品までも救ってくれた。改めて『川越 小枝子』というキャラクターに出逢えた事を誇りに思う。