一つ一つの花が違う色を持っていて、眩いほどの煌めきを放っていた。悩み苦しみ、彷徨い歩いたその先で自分だけの答えを見つけた、そんな彼らを見て愛しさと途方もない喜びを覚えた。素敵な花束をありがとう。
この作品のタイトルを初めて目にした時、何やら凄く悲しそうな作品だなと感じたのをよく覚えている。滅んで朽ちて、それに加えて追憶だなんてさぞ絶望に満ちた、けれど素敵なお話が詰まっているのだろうなと。
そんな浅薄な認識のままプレイの時を迎えたわけだが、やってみると全然違っていた。確かに滅び朽ちる世界での出来事を描いた話ではあるが、私が想像していたような絶望に満ちた物語などではなく、どこまでも希望に満ちた物語だった。
本作は八つのエピソードが用意されており、それぞれが別の登場人物、別のテーマで描かれている。けれど、それらの物語には確かな繋がりがあってそこに気付き始めるとまた違った面白さが生まれてくる。時系列を整理するのは勿論、人間関係について考えてメモしながら読み進めたりするのはとても楽しかった。
嬉しいのがそうやって悩み考えていた時間を最後に活かしてくれた点で、八つの物語を読み終えた後に解禁されるあの仕様は驚きよりも先に喜びが沸き上がってきた。ちなみに一発合格…とはいかず二回目でようやっと乗ることが出来た。ああいった仕掛けが施されている作品は過去に何個もやったことがなかったので新鮮で良いなと。ユーザーの事をきちんと信頼してくれているような、そんな感覚だ。
まあ何はともあれ一番書きたいのは八つの物語の感想という事で、一つずつプレイした順に感想を語っていく。
《forever》
整形をしたことで一転、今までの人生が嘘みたいに華やかになった女性のお話であり、掴みは抜群に良かった。美しさを手に入れ、恋人も手に入れた彼女が願うのは「永遠」。今が楽しければいい、いつまでも美しくありたい、そして今の幸せが続くように。彼女の永遠に対する執着心は凄まじく、事あるごとに自信の夢である不老不死に語り、それを研究のテーマにもしていた。
中盤に差し掛かり、顕二が別れ話を切り出す辺りから本当にどのシーンを切り取ってみても素晴らしいの一言で、間違いなく本作の中で一番好きなお話に当たるし、一番心を揺さぶられた物語であった。その中でも特に良いなと感じたのは周りの人々の彼女に対する見方。
雑草の頃から彼女を見ていて、今では親友とも呼べる間柄となった陽子。舞台に上がっている彼女を「かっこいい美しさ」と形容した富士教授。それから彼女の生き様に惚れたという顕二。彼女は本当に周りに恵まれているなと感じたし、そんな中心にいる彼女は自分から見てもやはり魅力的であった。
だから命を懸けて永遠に手を伸ばした彼女の生き様は切ないでも苦しいでもない、ただひたすらに強く美しいと感じた。こんなに魅力的なキャラクターに出逢ったのはいつ以来だろうか。加えてあのシーンは側にいるのが陽子な点も素晴らしい。後に紡がれる物語を読んで改めてそう思った。
《circular》
マゼンタという不思議な女性と大吾という青年の出会い。たまに二人の会話が噛み合わなくなり、彼女が一人ペラペラ喋り続けるシーンがあって、その時は主人公同様疑問を抱いた。ただまあ、きちんと意味があったわけで真実が明らかになった際には多少くるものがあった。
この物語は母親と息子の部分だけ切り取るとまあ結構好きな部類に入るのだが、一方で組織間の話についてはやや冷めた目で読んでしまった。最後の「蜘蛛の糸~」辺りはかなり良いなと感じたが、そこに至るまでのお話がやや薄めだったかなと。
ただ、ここで出てくるマゼンタというキャラクターは作品の中でもかなり重要な立ち位置にいるので、最後の方にこの物語を読んでいたら少しは良いものに思えたかもしれない。
《dear》
冒頭の「世界は…終わりを迎えた。」という一文からもわかる通り、人類はほぼ絶滅しかけていた。そんな世界で登場する人物は二人であり、一人はカプセルから目覚めた未黄。もう一人は彷徨いこの地に辿り着いたという春。
時系列的に最後のお話なので、他の物語に触れつつ進行していくような作りになっていた。終盤なんかはわかりやすく、詳しくは語らないがこの作品の総まとめと言っても良いような文章が多く書かれてた。「受け継ぐ」という言葉の意味を考えると自然と涙が出てくる。
ではこれを最後にやらなかったのは間違いかというと決してそうではない。この物語にも悲観せず憎しみと少しの希望を持った人間、すなわち未黄の力強い生き方が描かれていた。残酷にも見えるが実に芯の通ったお話だったなと私は思う。
《innocent》
人類が生み出した最低最悪の悪魔と呼ばれる少女がキーパーソンの物語。罪人であるのに裁けない、そんな彼女と相対するは彼女を消す依頼を受けたという青年。そして、それらを見守るのが審議記録人たる百合。
このお話はとにかく闇ちゃんがユニークな性格をしていて、物語を読み進めていく事で年相応な無垢な部分が見えてくるあの感じがとても好きだった。騙されたとわかっても何事もなかったように振舞い、百合を攻撃する所なんかなんとも子供らしくて良い。はじめは異質に感じた彼女も実は一人の女の子だったわけだ。
加えて百合の心情変化も見応えがあり、正義がそこにあるものと信じ込みレールに乗っかるがままだった彼女が、自ら考え行動し自分なりの正義を見つける。その光景は読んでいて大変心躍るものだった。茶番であったのはやや残念だが見たいものは見れたかなと。
また、このお話で登場するレッドは他のお話にも頻繁に登場し、その役割もかなり大きい。結婚した相手とそれから娘の正体、そして死因について繋がった時は開いた口が塞がらなかった。
《melancholy》
技術の発展により天気の操作が可能になった世界が舞台の物語であり、そんな不自然な環境を好ましく思わない少女が主人公。このお話は回想の使い方がとても好きで、欲しいタイミングできちんと差し込んでくれることもあり、読んでいて妙な安心感があった。
また、主人公である彼女も相当だが、清四郎くんも変わったタイプのキャラクターで、始めは近寄りがたいような雰囲気を纏っていたが、中盤に差し掛かる頃には年相応の姿が見えてきた。歯車から抜け出すのがどれだけ苦しいか、そうやって彼女に本音をぶつけるシーンはかなり印象的。
川野さんも中々重要な立ち位置にいるキャラクターで、最後まで裏があるような人物だったが、まあ敵対することはなかった。エピローグを見る限り三人仲良くやっているようで、川野さんの結婚の話で盛り上がっていた。にしても川野さんの相手について語られたときは思わず声が出てしまった。あの人もちゃんと幸せを掴んだのだと思うと涙すら出てくる。つくづくforeverを先に読んでおいて良かったなぁと。
《lost》
2999年の物語であり、地球寒冷化が大きな問題となっている時代の話。私の場合はdearを先に読んでいたので、なおさら終わりに近い状況だという事が理解できた。序盤は終わりが来る雰囲気なんか感じさせない、日常メインの話が描かれていたが、話が進むにつれて不穏なワードが飛び交うようになる。
隕石を呼び寄せ元凶たる緑青校長については何も思う事がなかったが、滅び朽ちる時代に生まれながらも逃げずに立ち向かった彼女の生き様は目を見張るものがある。誰かによって決められたようなつまらない人生、ちっぽけな存在でも主役に慣れる瞬間があるのだと、切ない終わり方ではあるがこの作品らしいものだったと思う。
《abandoned》
ストレイメタルと呼ばれる貴重な金属を求めやってきた男と、その地で出会った少年少女の物語であり、あのレッドくんも出てくる。年齢が年齢なので子供っぽさはあるが玄兎や百合の話通り逞しい少年だった。
とはいえこのお話で最も目を引くのはブルーだろう、亡くなった娘に似ているという部分も気になるが、序盤はとにかく無邪気に振舞う魅了された。彼女が零した「ワタシたち…まるで、…家族みたいだね」という台詞には不覚にも少し泣きそうになった。そのくらい彼女を意識して読んでいたわけだ。
まあそんなわけで終盤はボロ泣きしてしまった。アサヒの意識が芽生え、自身が機械であることにも気付いた。それでもこれが自分であると、精一杯生きているのだと伝えたい。そんな彼女の意志が強く描かれていて、それを受け取る度に新しい涙が作られていった。
加えてここではforeverの登場人物である陽子さんが出てくる。なぜ自分に構うのかと問うレッドに対し「あなたは、わたしの大切な親友の子供だもの」と応える所なんかはもうforeverの内容を思い出すと胸の奥が締め付けられる。本当に緋依は良い親友を持ったと思う。
そして、陽子の恋人であり、夫であった蒔元と永遠に会えなくなったことが語られる。foreverにて緋依に「あなたまで~」と言っていた部分と繋がり、また冒頭の「最後に見た…妻と娘の顔が思い出される」にも繋がる。「たとえ何を犠牲に…しても」とは言っていたが陽子さんが好きな身からすると彼の行動は愚かでしかない...。
《vivid》
一週間の間に相手を殺せばこれからも平穏に生きることが約束される。そんな理不尽極まりないゲームに参加させられた沙乎華と紅。全体を通じて明るさなんか欠片もないような話ではあったが、その中では美しい関係が描かれていた。
沙乎華と紅、この二人がとても素敵で前半は沙乎華が良いキャラしているなと感じていたのだが、後半は紅が魅せてくれた。「他人のことを思いやって泣いてあげることのできる」、自分もそうでありたいと、沙乎華のために涙を流したいと彼女がとった行動は単に衝撃を与えるだけでなく、二人がどこまで想い合っているかを示してくれた。
また、この話には成長したレッドである緋色も登場する。終盤の紅とのやりとり及び超能力を持っていることから子供が誰かは容易に想像できる。名前にもきちんと意味があったわけだし、改めてこの作品は繋がりを大切にしているなぁと。全ての物語を読み終え、関係を整理している時にふと笑みが零れた。
《epilogue》
正直、この作品に対する評価が下がった部分ではあるが、彼の言っていることには同意するばかりだ。本当に誰もが美しい花を咲かせるように、それぞれの人生を精一杯に生きていた。
読み終えてみてまず思ったのは攻略順を他人に聞いたりしなくて良かったなぁと。事実こそ変わることはないが、読む順番によって各物語に対する感じ方はだいぶ変わると思う。私の場合言えばforeverをはじめに読んだからこそ後の物語に響いたように。まさに自分だけの花束を作った気分だ。
そして、実に美しい作品であったなと。つまるところこれが本作に対する感想の全てだ。この作品に出逢えた事を誇りにすら思う。