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asteryukariさんのつくもの ~やどりぎロマンス~の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
つくもの ~やどりぎロマンス~
ブランド
XUSE
得点
78
参照数
187

一言コメント

ギャグエロスを予感させる導入からは考えもつかないほどに温かく賑やかな日常が用意されており、それが作品の大きな魅力でもあった。奇妙な生物と共同生活を描く、そういった話を好むユーザーさんにおすすめしたい一作。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

ある日突然、身体から人語を話すヘビのような生物が生えてくる。某有名漫画を思い出すような導入である。しかもそのヘビはかなりのドスケベときたらもう、その先の展開が段々と読めてきた。恐らくはこのスケベなヘビ"麻呂"と共にヒロイン達を凌辱していくのだろうと、導入部分ではきっと誰もがそう思っただろう。しかし、そんな予想とは大きく外れて、なかなかヒロイン達を襲おうとはしない。それどころか麻呂と過ごす日常ばかりが流れていく。

はじめは女の身体にしか興味を示さなかった麻呂だが、主人公と共に生活するにつれて自分の知らないもの、知らない文化に興味を持つようになる。特に本やテレビへの執着心は凄まじく、普段はおしゃべりな彼からは想像もつかないほどに静かになる。ある意味、主人公よりも人間らしい生活をしていると言える。


そんな風にして個別ルート分岐するまでは麻呂との共同生活が描かれていくわけだが、個人的にはこれが凄く良かった。人外との共同生活というだけでも好きなジャンルだが、そこに麻呂というキャラクターのユニークさが加わることで、読んで楽しく癒される日常劇が完成していた。

何と言っても麻呂が可愛くて、大して強くもないのにすぐ調子に乗って主人公に制裁を食らう流れを見るたびに好きになっていった。本当にシリアスな場面でもこの流れを忘れずにぶち込んでくれるので、読んでいてとても楽しい気分になる。麻呂の「ぐええええええ」を聞くたびに笑顔になったものだ。

また、元々は人間という特色も物語に上手く生きていて、恋愛に不器用な主人公にさりげない助言を与えたり、人間関係について何かと先輩としての意見をくれることが多かった。序盤は主人公のヘタレっぷりが目につき、そこをちょっとした不満にも感じていたのだが、麻呂との組み合わせを考えてみると、こういったタイプの主人公で良かったなと心底思う。ヘタレな主人公が段々と男らしくなっていく、そんな成長物語として読んでみても楽しめる作品に仕上がっていた。


個別ルートに関しては、特に幼馴染との恋愛を描いた天音ルートが良かった。天音ルートの何が良かったかを考えると、それはやはりヒロインと、そして麻呂とのやりとりだろう。はじめは馴れ馴れしくしてくる天音に嫌悪を抱いていた麻呂が、彼女の優しさを理解し、段々と彼女の事を慕うようになっていく。麻呂の心境の変化も勿論だが、天音の健気さもすごく胸に沁みてきて、お弁当を食べるなんて何気ない日常の光景に少し涙を誘われることも。

そんな良い感じの三人の関係をどう主人公とヒロインとの恋愛物語に繋げていくのか、心配していた部分でもあったが、そこも上手くまとめてあったと思う。もう本当に麻呂が良いやつすぎて、良いやつ過ぎて...。後押しするだけでなく、時には主人公を叱責することがある点も嬉しく、いつの間にか天音の事を大好きになっている麻呂を見てなんだか幸せな気持ちになった。

終盤の展開はやや早急にも感じたが、麻呂らしさを最後まで残していってくれたのは非常に良かったかなと。主人公のかけがえのない友達として、二人を繋げた恋の神様として生を全うする。その美しい幕引きに心打たれた。

あとは本作のメインである紗絵ルートにも触れると、こちらも天音ルート同様に麻呂の優しさと逞しさが詰まった話ではあったと思う。ただ、他ルート以上に急展開&テンポが早く、これまでの謎も一部は明らかになるが全ては明らかにならない。所謂、勢いで進んでいくようなシナリオだったので、そこはもう少し丁寧にやってほしかったなというのが正直な気持ち。


他にも他作品ではまず見ないような異質なヒロインなんかも用意されていたりと、本当に予想の遥か上をいく面白さが詰まった作品だった。凌辱を望んでプレイし始めたユーザーには少し物足りないかもしれないが、私としては大好物のジャンルだったので、久々に良い意味で期待を裏切られたなぁと。

楽しくて、癒しに満ちた友情の物語をありがとう。