ErogameScape -エロゲー批評空間-

asteryukariさんのD.C.II To You ~ダ・カーポII~ トゥーユーの長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
D.C.II To You ~ダ・カーポII~ トゥーユー
ブランド
CIRCUS
得点
85
参照数
124

一言コメント

読みたかった、見せてほしかったモノばかりを提供してくれる良質なファンディスクだった。過去のFD達とは異なり、シーンではなくシナリオに注力してくれた事を大変嬉しく思う。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

D.C.II本編で語られなかった過去と新規ヒロインを軸に据えた四つのエピソードが収録されている作品。正直な事を言えば、これまでにプレイしてきたFD達と同じくちょっとしたアフターストーリーがあるだけで、どちらかというとヒロインの新規シーンを楽しむようなものだと思っていた。ただ、OPを見てみるとそんな雰囲気は微塵もしなくて、お話に力を入れていることが何となく予感できた。

そして、いざ読んでみるともう賛辞の拍手を送りたいほどに素敵なお話が揃っていた。期待していた「まひるに降る雨」が素晴らしかったのは勿論、他の話についてもそれぞれに魅力があって、その上で感動を冷ますようなことはしてこない。「四つ」と聞くと少なく感じるが、まさに無駄のない作りだったと今は思う。
以下エピソードごとの感想。


◆紫陽花
朝倉家の過去について綴ったものであり、音姫と由夢の実母親「由姫」が登場する。新しい家族として彼女達と生活することになった義之が由姫と出会い、彼女達と同じように母親の愛を感じていく。お話としては非常にシンプルで、由姫に関しての事実が語られることは勿論、音姫や由夢の知らなかった一面なども見られるため、読む価値は大いにあった。

特に印象的だったのは音姫の今と昔の違いであり、物語の終わりに義之も言っていたが、昔の彼女は義之に対して冷たく当たっていた。また、性格的にも今とは違い大人しめだった。そんな彼女がここまで明るく面倒見の良い女性になった理由を考えると、やはり母親の一件が大きく影響しているのだろうなと。由姫は義之に対し「守ってあげて」と告げていたが、あの瞬間に守ると決意したのは音姫だったわけだ。


◆雪月花
杏と小恋と茜、それから義之と渉と杉並の六人が仲良くなるまでを描いたお話であり、他と比べるとかなり明るく軽い内容となっていたが、個人的にすごく好みなお話であった。本編を読んでいる時からあの尖りに尖った杏がなぜ小恋のような女の子と仲が良いのか疑問だったが、やはり一悶着はあったようで。その事実が知れたことも嬉しいが、何よりその事を楽しそうに語る小恋が良かった。

また、渉との出会いについてはかなり気になっていたので、読んでいてとても楽しかったし、実に彼等らしい出会い方だ。ラストのスポーツ大会のくだりなんかはまさに青春そのもので、改めてD.C.IIは恋愛だけでなく友情にも意識を向けた良い作品だなと。本当に、お前ら最高だ。


◆まひるに降る雨
まひるの過去について掘り下げた作品であり、彼女の親友であるミキの視点で物語は進行していく。初めてまひると出会った頃から彼女が命を落とすまでが丁寧に描かれていて、本編でも相当の涙を零していた私がこれを読んで泣かないはずもなかった。あんなに号泣したのはいつ以来だろうか...。

ミキの台詞も涙を誘うのだが、私の涙腺を最後まで刺激し続けたのは彼女ではなく、まひるの父親である真哉だった。もうあんなの泣かない方が難しいだろう。序盤に陽気な姿を見ていた分、くるものがあった。

「たとえるなら...」
「たとえられるものなんて...あるわけないよなぁ...」
「まひるのことが...お父さんは一番大切なんだから...他のものになんて、たとえられるわけないよなぁ...」

いつもの調子で例え話をし始めてこれは...思い返すだけで涙が出てくる。本当に人物の造形といい、話運びといいよく出来ていた。むしろこちらが本編であると言ってしまってもいいかもしれない。


◆機械の心
新たにヒロインとして昇格したμ(咲耶)の話であり、義之に偶然拾われた彼女が、朝倉家で生活していくことで新しい感情を獲得していくロボットヒロインらしいストーリー。意外なのは感情自体は元々存在していて、嬉しい時はとびっきりの笑顔を見せてくれるし、怖い時は涙だって流す。物怖じしないはずの機械である彼女が、お化け屋敷で悲鳴を上げているシーンなんかは中々新鮮だった。

ただ、その状態のまま終わりを迎えるはずもなく、感情の制御をするために記憶を消去することになる。そして、その結末が非常に良い。記憶を消去されたのにもかかわらずご主人様の暮れた服だけは大切にしている。まさに満点の結末ではないだろうか。感動を冷ますこともなく、ほんのりと温もりを残してくれる。実に素敵なお話だった。