ErogameScape -エロゲー批評空間-

asteryukariさんの黒曜鏡の魔獣の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
黒曜鏡の魔獣
ブランド
雨傘日傘事務所
得点
88
参照数
212

一言コメント

自分が戦闘モノにおいて何を重視しているのかを再確認できた。何を思い、何のために戦うか。それをしっかりと描いたとても私好みの作品だった。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

全体的にギャグ色が濃い目で、序盤なんかは戦闘描写も少なく、話がどう進んでいくのか若干の不安を胸に抱きながら読んでいたわけだが、そんな心配は要らなかった。もう、ディールが登場したあたりから読み進めるのが楽しくて楽しくて仕方なかった。というのもまあ単純に戦闘が増えてきたからなのだが、ともかく物語に引き込まれていった。

この作品の一番の魅力は敵味方問わず、それぞれのキャラクターが自身の目的のために、自らの意志で戦いに臨んでいることだろう。だれかに指示されたからだとか、軍が、国がそう言うから戦うとかではない、だからこそ意志の強さというものがハッキリと見て取れた。まあ、国のために戦いますというのもかっこよくはあるが、熱さはない。やはりなぜ戦うのか、どうして挑まねばならないのか、そこが重要なのだ。

キャラクターごとに軽く感想を述べていく。

○エルセディオ
腕が増えたり、使う武器が黒剣だったり、その黒剣も数万に増えたりと、まあ厨二心をくすぐる主人公だった。何より強いのが良い。弱い主人公がだんだんとのし上がっていくというのも嫌いではないが、強い方が見ていて気持ちが良い。戦い方も極めて冷静な立ち回りをしていて、でも終盤はカラスの気迫のおかげもあって、彼も熱い想いを戦いにぶつけている。

○リィ・ルゥ
儚くも気高く!!!
あまりにも尊く!!!
今宵を淡く照らし出す朧な月明かりの中!!!
美神リィ・ルゥ!!!
時代に呼ばれて華麗に推っ参っっっ!!!!!

みんな好きになること間違いなしと思う程良いキャラしていた。序盤はギャグ、癒し要員だと思っていたのに。彼女の境遇を考えると中々辛いものがあるが、そんな感情を吹き飛ばすくらいめちゃくちゃな活躍をしてくれた。カラスが喋っているのに、容赦なく拳銃をバンバン放ち、フレスベルクをボロボロにしていく様は実に爽快だった。あまりのスピード感に笑いが零れてしまった。

戦いが終わった後は、ああ、この娘は本当にエルセディオが大好きなのだなというのがわかるくらい、幸せそうに笑って彼に抱き付いていた。彼女は日常でも戦いでも笑顔なので、笑顔が頭に強く残っている。改めて考えてみるとだいぶやばいなこの娘…。

○アーベル
はじめは「なんだ、サブヒロインか」くらいの心もちだったが、気付けば大好きになっていた。淫乱で単純な彼女だけれど、実はかなりの手練れでその実力はロードと互角。でも反応は女の子らしく、自身も女として扱ってもらうことを望んでいる節があるのがまた可愛らしい。

対ロード、カラス戦では彼女の強さが特に目立っていた。半狂乱のような彼女であったが、両手を振り上げ殴り倒すという技のみで両者をボコボコにしていたのが面白かった。いや、どれだけ強いんだ。

彼女のENDは思わず頬を緩めてしまうようなもので、いつも通りのおもしろおかしい掛け合いをしてからの、「お、おかえり…なさい…」は効いた。なんてかわいい女の子なんだ。

○ディール
色々と不憫な青年。あらゆるものを失ってもなお前を向いて生きていこうとする姿は称賛に値する。彼は序盤から何かと登場機会が多く、立ち位置的には準主人公くらいだったかなと。

グリムロックとの仲が良かったのが印象的で、最後はついに部下になっていた。あの二人の共闘というのを見てみたかった。

そして当然、クリスとの関わりも重要であり、BGMの使い方も相俟って涙を流すこともあった。彼女が見ているから、無様には戦えない。彼女が見ているから、膝を突いてはいけない。何かを守る騎士は、負けてはいけない。もうあのクリスを想い戦う場面の地の文は全部好きだ。ディールよ、いつまでも騎士で在れ。

○グリムロック
十騎士という高い位にいながらも、偉そうにすることもなく、相手には敬意を払う。良いキャラしていたなぁと。このキャラが一番好きなんて方も多いのではないだろうか。ディールに騎士とはなんたるかを教えたキーパーソンであるし、それ以外の発言もいちいちカッコいい。その人柄の良さから、部下からの信頼も厚く、私としても十騎士の中で下につくなら彼がいいなと思う。

○ディアブロ
第一印象からずっと最悪だったのだが、終盤になってユニークなキャラになってきたのもあり、その嫌悪感も徐々に薄れていった。ジョークかと思いきや本当に海鮮鍋パーティーするのはズルい。

○ロード
まさに悪役に相応しい振る舞いをしていただけあって、エルくんには是非打ちのめしてもらいたいと考えていただけに、まさかこんなにも好きになるとは思いもしなかった。何が良いって、どこまでも一途なのだ。大切な姉を守り抜くため、そしてそんな大切な姉に虚界術の使用を強いて、割に合わない対価を払わせた相手を自らの手で滅ぼす。そのためだけにこれまで生きてきたんだと。

だからこそ黒曜鏡が現れた時は臆することなく向かっていった。敵うとか敵わないとかそういった理屈じゃない、ただ許せないから。どこまでも自分に忠実で、そんな彼の姿に見惚れてしまった。「ギル」と呼ばれた後にニッと笑う演出、あれは素晴らしかった。

○カラス
天然で人をイラつかせる才能があるなくらいの認識だったのに、まさかの黒幕。普段のほほんとしているだけあって、終盤で感情を露わにした時は来るものがあった。彼もまた自分の愛する人、娘のために戦っていたのだ。最後には気持ちも晴れたようで良かった。EXTRAで顔を見せてくれたのも嬉しい。

本当にどのキャラもしっかりと自分を持っていて、その意志の強さが物語をより熱く、切ないものにしていたのだと思う。雨傘日傘事務所の作品には初めて触れたのだが、想像以上に自分好みだったので、他作品もドンドンやっていきたい。