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asteryukariさんのMy Sweet Home リメイク版の長文感想

ユーザー
asteryukari
ゲーム
My Sweet Home リメイク版
ブランド
よかれとおもってやったのに
得点
78
参照数
58

一言コメント

複雑な事情を絡めるわりに物語は終始穏やか。しかしながら彼らの終わりはしっかりと用意されているのが非常に良く、自分好みな点でした。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想



歩み寄る気持ちはあるのに、素直になれず上手くやっていけない。そんな不器用な三人の共同生活を描いた物語であり、ジャンルとしては疑似家族モノに当たる。家族構成としては父、息子、娘であり、それぞれ血の繋がりがない。父親だけ血の繋がりがないパターンの作品はさほど珍しくないが、三人ともが赤の他人というのは中々レアなのかなと。

また、同ジャンルの某有名作とは違い、事件やイベントが起きるわけでもなく、ただただぎこちない日常が流れていくといった作りになっており、そこ最初は少し不安めいたものを感じていた。題材のわりに話が動かないなと。しかし、振り返ってみるとデリケートな題材だからこそのリアルさがあり、日常の中に描かれる小さな心の機微に着目しながら読み進めると、よくできた作品であることがわかる。


心情描写の繊細さは各ルートに分岐した後も健在で、みーすけとくっつくルートなんかは勇の気持ちを目で追うのが非常に楽しい。幼い頃から気になっていた相手がようやくこっちを向いてくれた、間違っているとわかっていても受けれいてしまう。彼がどれほどまでに彼女のことを想っていたかがダイレクトに伝わってきた。ただ、このルートはみーすけの気持ちの変化がかなり雑に描かれているので、そこは少し気になった。が後述するルートの結末を見る限り、あくまでこのルートは不正解の方として作られたのかなと私は思う。というかそうであってほしい。そして、もし本当にそういった意図で作られたのであれば、凄い作品である。


で、もう一つのルートはというと、ここでは勇が家から出ていき、みーすけと亮輔の二人暮らしになるという結末を辿る。みーすけのことを想って、また自身を変えようとして飛び出してくれた勇には感動を覚えたしよくやってくれたという気持ちで満たされた。しかし、私の心を更に満たしてくれるのは亮輔の行動である。

勇という自分を受け止めてくれる存在を失い、自身の気持ちを抑えきれなくなる形で亮輔に迫ったみーすけ。対する亮輔は欲に乱されずあくまで娘として接する。これがもう本当に嬉しくて、大人な亮輔がなんとか家族の形を壊さないように、大人でいてくれたのが良かった。そこに至るまでに亮輔が実は凄く魅力的な人物であることが示されていたので、ここで失敗しなくて本当にホッとした。迫られて受け入れた勇とは違う、大人な彼の対応はクールに見えて、様々な想いが詰まった行動だったのである。

その対象が主人公でなかったとしても、ヒロインには初恋を大事にしてほしいという考えを持っている自分としては、このルートはあまりにも良過ぎた。勇とは違い、この先も葛藤し続ける亮輔の気持ちを想うとなかなか胃の痛むお話ではあるが、そんな不安定さもまた愛おしい。




同人作品故にあまり知られていない作品(あくまでここのデータ数に基づく考え)であるが、プレイして良いなと感じる層もあまり多くはなさそうである。ただ、私は非常に好きな作品だったので、プレイしてみてよかったなと心の底から思う。出遭いに感謝です。