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aska11311さんのアオイトリの長文感想

ユーザー
aska11311
ゲーム
アオイトリ
ブランド
Purple software
得点
88
参照数
801

一言コメント

アマツツミの対の作品??

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

アマツツミの対であるそうな作品。
 アマツツミが自己犠牲の是非を問うお話であるのに対し、本作は普通の人間が特別という存在を恨み、踏みにじり、特別になろうとしたお話。書かれているテーマに関して、対とは感じなかったのが正直な印象。作中に出てくる「言霊」はアマツツミが神から人へ、アオイトリが人から神へ。わりとキーワードになるこの言霊に関しては対比であると断言出来る。
最初に知っておいてもらいたいがこの解釈・感想を書いている時点では本作で度々出てくるメーテルリンク著「青い鳥」を私は読んだことがない。あくまでも作品内で解説されていた知識を用いて書いていることをご承知願いたい。

 人間だれしも他者を認識したときは無意識に他人と比較し、人と違う存在でありたい、特別な存在でありたいと願うものだと思う。そして違う存在だと、特別な存在だと自覚したとき自己を肯定できるのだと思う。
本作のヒロインであるあかりはそんな普通の人間であり、特別を呪い、特別でありたいと願った人間である。
普通であるあかりは、特別な存在が動かしている世の中に疲れ、自らが特別になることでその摂理に抗おうとする。
しかし普通であるが故に、どんなに特別でありたいと願ったとしてもそれは普通の発想でありどうあがいたとしても特別には成り得ない。特別を手に入れ幸福にあろうとしても、このようなことから幸福は得られずそして手にした瞬間それは色褪せてしまうのであろう。

 さて、この普通である者の不可能性を認識したうえでメーテルリンクの「青い鳥」が本作に登場する。
この「青い鳥」とは、特別を望んだ主人公であるチルチル・ミチルが普通であることを捉え直す認識を手にした結果、その普通が特別に転じる物語である。
 
「アオイトリ」でも「青い鳥」を倣い、普通→特別→普通(再定義)という形で書かれている。
あかりのバッドエンドは自らの「普通」の認識を律や小夜、メアリーの特別な力を吸収することで特別へと昇華させ、その特別を自らの死と胎内の子供の死という形で踏みにじり、幸福を永遠のものにするというエンドであった。
 トゥルーでは、生まれてきたときに持たされたもの(生まれてきた意味・価値)が人間の弱い心であることに気づき、それこそが幸福であると認めることで特別であることを手放した、というように解釈している。

 これほどまでにあかりが葛藤し、恨み、望み、そして最後に手放した「特別」を、主人公はいとも簡単に手放すのだから作中で狂人と書かれているのにも納得ができた。


以下感想。
 童話をモチーフにし、それをライターである御影氏の解釈によって書かれたものが今回のアオイトリであり、非常に楽しく読ませてもらいました。特に物語の過程に関して、精巧に作られており息を呑みながらプレイしておりました。
また、毎回全力投球のエロシーンや演出など、大変満足しました(笑)
 
 ただし上記解釈にもあるようにこれは作品評価の大半をあかりに焦点を置いたものです。
その他ヒロインの物語関しては話が粗く作られていて悪目立ちした箇所や、もったいないなと思うところがありました。すべてを寸劇として置いたときに、イレギュラーな存在であった「メアリー」、元々悪魔が用意していた「小夜」、閑話休題的なポジションの「赤錆姉妹」。こう書き出してみるとこれもライターの方の思惑なのかな、とも少し思っちゃいますが。

 納得できない部分はありつつも総評としましては考えさせられるところが多々ある良作であったと間違いなく言える作品です。今回はあかりルートを評価してのこの点数だと思っていただければ幸いです。
書いていて分からないままになっているシーンがまだまだあるので、いずれまたプレイしなおして感想に書き加えたいと思います。