良い意味でフリーゲームのクオリティとは思えない
ファタモル本編とは全く異なる世界設定。
序盤はパロディ込みの楽しいお話という印象でしたが、中盤からの怒涛の展開には思わず見入ってしまいました。
テーマとしては、ネットコミュニティの弊害・死生観、そして縹けいか氏が創作物に何を込めるのか、創作物を作る人が何をもって救われるのかが書かれていた作品だと思います。
顔が見えないからこそネットコミュニティでは偽りの自分や存在を生み出し、時に偽りの幸福を得たり、時に優越感に浸り自己肯定をしようとしたり、時に存在を隠しながらも友情を生み出す。そんな現社会のネットコミュニティの縮図がこの作品には上手く書かれており、短い作品ではあれども非常に考えさせられるテーマであった。
死生観に関しては縹けいか氏の書いていることはファタモル本編から一貫しており、自己の存在は自己に内在しているものではなく他者にあるものである。そして本当の死は他者に自分がいたことを忘れられてしまい、認識されなくなることである。だからこそジゼルは認識されなくなることを悲嘆し、歌という形にして存在を残したのでしょう。死に対する一つの考え方の一つに過ぎないとは感じながらも、まさしくそのとおりであるなと私は感じました。
縹けいか氏の創作に対する考えもこの作品に込められており、創作物とはだれかの心に届けることでその価値が生まれ、それがたとえそれを届けたい人が1人だとしても、それが創作する上での最大の活力となる。ということが書かれておりました。創作を特定の誰かのためにした経験は1度もありませんが、1つの考えとして受け入れ作品からどんな魂を自分自身が受け取ったのかをこれから作品に触れる中で考えてみるのもまた楽しみ方の一つだなと思えました。
この作品をフリーでできるのは驚きです。
縹けいか氏の作品にはほとんど触れることができたと認識していますが、その作品群の中でもテーマが非常にはっきりしていいるので読んで損はないと思います。