死生観というよりはナルキッソスの花言葉である、自己愛についていろいろな視点から書いた秀逸な作品。
人は自分の気持ちしか正確に把握できない。
時には自分の気持ちすらも制御できない弱い、弱い生き物なんだと思う。
とても、万能の神なんかじゃない。
そんな弱い、弱い人という生き物は自分を愛せないと生きていけない。
どうしたら、自分を愛せるか。
どうしたら、自分に満足できるか。
それは、治療できなくても治療すること自体はいいことなんだという自分なりのまやかしの理想(プライド)を持ち続けることかもしれない。(死神の花嫁)
すでに他人を傷つけてしまっているのに、気付かないフリをして、あたかも他人を傷つけない優しい人を演じることによって、自分の優しさに陶酔することかもしれない。(Ciの高さへ)
死が近くに迫ったときに、元気な奴もいつの日か等しく誰もが死ぬんだと、死ぬ順番なんて決まってるわけじゃないと誤魔化すことによって自分自身を納得させることかもしれない。(メサイア)
人は本質的には自分のことが一番大事だと思っている、だから自分を愛するためには他人が犠牲になっても構わないと思い、そんな自分を愛することかもしれない。(小さなイリス)
これらがどれも正しいかなんて分からない。
人それぞれで正しい答えが違うことだってあるし、
それどころか、正しい答えがどこにあるかすら分からないことだって往々にしてある。
だからこそせめて自分自身の気持ちくらい把握しようと、考える。
一生懸命、考える。
誰からも愛されるように。
何より、自分自身を愛せるように。
それこそ自分の顔に惚れてしまう、ナルシスそのもの。
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全体としてはどの作品も自己愛についてきちんと描かれていて良かったです。
1,2とはテイストが違う部分はあるけれどむしろ本作のほうが自己愛については
細かく書けていて好きです。
何よりこれだけのクオリティーの作品がこんな低価格で手に入るのが驚き。
今回の4つの中では個人的には死神の花嫁が一番ナルキっぽかったし、一番好きな作品でした。
視点が2ndまでの患者から一歩広がって医者の視点から描かれていていかにも続編って感じがしたし、1、2で実際描かれた自殺のシーンについて、自殺を行うかどうかは一人一人の人間の意志であると否定せず、その上で本人の同意があっても安楽死という形で医者が命をコントロールしてはいけないんだとした点、たとえできなくてもしなくちゃいけないことがあって、それをやっていくしかないんだと前向きにまとめた点が他と違い良かったと思いました。
どうやら完結編がでるみたいですが、
かなり世界観が広がってきた本シリーズをどのようにまとめるのか非常に興味がありますし楽しみです。