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aponさんのsweet poolの長文感想

ユーザー
apon
ゲーム
sweet pool
ブランド
Nitro+CHiRAL(NITRO CHiRAL)
得点
95
参照数
2618

一言コメント

BL作品でもニトロはニトロだった。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

視界に移るグロ肉世界。
あの光景を見た瞬間、誰もが思ったはずだ。
「――沙耶?」
このブランドの兄ブランドであるニトロプラスの傑作「沙耶の唄」その世界観を踏襲しているかのようなスクリーンショット。
咎狗の血、lamentoと続いて劣化していたライターの文章力。
おまけに看板絵師であるたたなかなの退社。
新しい絵師オニツカセージの癖のある絵。
正直言っておわったと思った。
ニトロを愛するが故にBLにまで手を出してキラル作品を買い、そこそこの満足をさせてもらっていたものの、これでキラルとも縁切りかな。と思っていた。

ところが購入してみれば、その完成度の高さに気づかされて愕然とする。
沙耶の唄、は個人的に一番好きなゲームで、それと似通った設定、価格。名作になりうるはずがないと思ったのだが、これもまたこの低価格が故にコンパクトにまとまりながらもしっかりとした魅力を持った作品に仕上がっていた。
そうそう、沙耶とは実質あまり似てるという印象は受けなかった。沙耶がテーマに「種族を超えた純愛」を置いているのに対し、sweet poolは「愛でもなく、恋でもなく、もっと深い」とのキャッチコピーを露出してきた。実質テーマも「本能による繁栄」に近い。それは種族が違っても愛そうという沙耶とは対照的に在るテーマだと思った。

シナリオも、lamentoでは見えた手抜き感とは打って変わり、本気でこの作品に打ち込んだことがうかがわれる。
男同士が気軽に恋におちエロに突入して。という最近あふれかえっているBLゲームとは一線を画すその恋愛描写の重苦しさ。
挟まれる日常にほっと息をつきながら、緊迫した物語に目が離せなくなる。
エンディングはどれもこれもハッピーともバッドとも言えないエンドだが、終えた後の余韻がたまらない。ぼんやりとしながらその美しさに浸る。この部分もまた沙耶と似通っていると思った。
文章自体も悪くなかったと思う。読みやすく、続きが気になる。
これからもここでは淵井さんに書いてほしいと思う。

絵に関しては最初は好みでなかったが、慣れればよく思えた。
作品にあっている絵だと思う。
あとはたまにバランスが崩れることがなければ完璧。この絵師にも期待。

音楽はいつものzizzなので文句なし。
歌ものも全て気に行ったが、中でもいとうかなこ嬢の「miracles may」がシナリオの効果もあいまって頭一つ抜けている。歌詞も和訳してみると物語に沿っていてなんともいえなくなった。


他のブランドとは違ったものを作ろうとするニトロらしい心意気が見えた。
BLだと馬鹿にせず、男の人でもやってみてほしいと思う。基本的に女性を萌えさせるスタンスにこの作品はないので、媚びたキャラクターなどはいないのでその点も安心して平気だ。
個人的には他キャラとのルートがバッドしかなく、メインルートは二人だけに軸を置いた体制も気に入った。
ただやはり全ての人に受ける作品ではないので、鬱グロに耐性のある方だけどうぞ。


この作品は明らかに沙耶の唄を意識している。そして、沙耶と肩を並べて恥じない作品になったと思った。
愛でもなく、恋でもない。
そう謳ったこの作品だが、沙耶に負けず劣らずの純愛がそこにはあったと思う。
キラル、おみごとです。これからもがんばれ。