何をしていても自分を客観的に見てしまう…とか言っちゃう人用
この物語の主役はふたり鍬形 拓馬、佐々木 柚香の二人だろう。
この二人の共通点はアイデンティティのなさだと思う。
柚香はハイスペックで心臓の病気を除けば大抵のものは持っているが、
小さいころに大きな挫折を経験する、さらにその原因となった司を強烈な信仰の対象と
するけれど、生きるにあたり現実に負けその場の安らぎを求めてしまう。
鍬形は分かり易く負け犬だ、特別身体能力が低いわけでなく(むしろ才能はある)頭が悪
い分けでもなく、ちょっと顔が悪くコミュニケーション能力が低いだけで、彼はまわり
の人間が何かをするだけで傷ついてしまう人間になってしまった。
そして二人は確固たる自分を持っている司に憧れを抱くことになる。
柚香にとっても鍬形にとっても司は理想の存在なのだろう。大きな挫折を知り、決して
叶わないと知っていても一つの高尚なものを信じ続け、確固たる自分を持ち続ける。
それはまさに天才で理想の人間だ。
しかし現実には力を手に入れた鍬形はやっぱりまわりに傷つけられ、柚香の心はいろい
なものに翻弄されてしまう。
二人はどこまでも平凡で高尚なものになることはできない。この物語は狂気をあつかっ
ているのではなく、どこまでも肉欲と拙い理性から開放されない二人の物語ではないか
と思う。
司はまさに物語の主人公で理想の世界に住んでいる。ノーマルエンドのラストピアノを
求める姿は感動的で、だれもが一度はあこがれる天才の姿そのものだと思う。
しかしこの物語では上記二人の偶像として存在している。
そして川瀬 雲雀、彼女はマスコットという言葉に象徴されるように、力も知恵ももた
ず大災害に絶えず翻弄されているが、その実だれもが持っていない自分への誇りを持っ
ている。彼女は自分が愚かな事も感情的なところも知りながら最終的に自らを肯定する
ことができるのだ。なんてすばらしい生き方だろう。