それぞれが抱えた物語を終わらせるための、1つの物語
ネタバレを大いに含んだ要約です。
ちょこっとだけ感想が含まれております。
現実に居場所を失った5人が過去を解きほぐし、真実を見つめるお話。
人の感情を色で読み取ることができる主人公は、5月5日を延々とくりかえす世界へ踏み入れる。
その中で過去のグループと再会するが、外見の変容とともに男女としての意識を自覚した主人公は、選択を迫るヒロインたちに背中を押される形で、その中にいた1人の手をとる。
それが男1人女4人グループの崩壊であるとともに、ヒロインが過去を再確認するきっかけとなる。
みさき
幼少期自分の体を汚し、過去に祥子を襲った父親の存在に足を引きづられていた。
祥子への罪悪感と、父が標的を変えたことによる自分の持つ女らしさへの嫌悪感、そして男性に触れられることに対する恐怖がその証である。
彼女が見せていた「正義感」は、自分が強い存在であろうとした結果に生まれた虚構であった。
物語は、「兄は自分の味方で居てくれた、そして父はあのひまわり畑で死んでいた」と信じ続けること。
迷宮から出た後、血のつながりさえ疑問視する言葉を投げつけてくる兄、父に瓜二つのその男に対し、みさきは良い感情を抱いていなかったが、それでも父へ告発してくれた「唯一の」味方なのだと信じたかった。
だが、兄が告発した理由は父を貶めるためであり、みさきの味方ではなかった。
個人的には、父と兄との決別、この2回で山場を作っているのだと思うのだが、あまりその盛り上がりを感じ取ることはできなかった。兄嫁との絡み、それに祥子とのつながりだけで、あまり話が展開されなかったようにも思えた。
母親や父親などの事件に関わる重要な人物も出ていないのも原因か?
文音
3年前、親の再婚により妹との同居するようになった。
妹、麻由紀は人のものを欲しがる性格であり、当時主人公の諒人へ好意を抱いていた。
そんな麻由紀が事故にあい、エデンへ迷い込むまではひたすら妹の看病を続けていた。
落ちている妹の姿を見てから通報するのが遅れてしまったことへの贖罪として。
麻由紀に対しては暗い感情を抱いていたこともあった。文音自身が好意をもつ諒人を欲しがり、大切にしていた写真を破かれたことがきっかけに近い。その感情によって、「わざと転んで膝を傷めた」のではないかと自分自身を疑い、そしてその意識が麻由紀をエデンに生み出した。
文音の物語は「妹を亡くしたことと5月5日の事故から目を背けることができる世界」であったのだろう。
自分自身の生き方を見失い、車に轢かれ、現実へ戻ることはとても気乗りするものではない。
麻由紀の事故の真実。直前に麻由紀とあった諒人が彼女を邪険にしたことでヒールが折れ、脱いだヒールを振り回して木にひっかかり、美羽に呼びかけるも無視されてしまい、仕方なくヒールをとろうとして落ちたということ。
間接的な加害者となり、文音の心情も理解できた諒人は、「死者を悼む」涙を流した。
過去に決着を付け、元の世界で病床に伏せていたままの文音を起こしたのは、現実で生きようと勇気づけてくれた諒人と、諒人と結んだ小指の約束であった。
正直に申し上げると、道中の麻由紀CGのインパクトが強すぎてあんまりシナリオが頭に入らなかった。
トイレいけなくなるから突発的なドッキリはやめていただきたい。
「あの時ああしていれば…」という思いは(特に学生時代に)強烈なものをもっていたため、感情移入が自然に出来た。
もちろん、人の生死に関わるレベルではないし、罪を感じても罰を甘んじて受けることをよしとしなかった私とは大違いではあるが。
美羽
美羽は諒人と同一の存在であろうとしていた。
そのため、幼少期は似たような髪型、服装で過ごしていた。
他人に見間違われることで、その同一性を確認することができることができる。
グループはその確認に大いに役立っていたといえる。
初潮などの性差が双子の同一性を脅かし、グループのメンバーが抱き始めた好意にも警戒心を抱かせた。
女らしくなっていく自分に、男になってしまう諒人に恐怖を抱いていた。
姿が変容するにつれて、諒人のそばから離れなくなったことがその現れである。
だが、諒人は美羽を「女」として見るようになってしまう。
距離を置こうとする諒人に近づく美羽は、諒人のその心境の変化に気づき、苦悩する。
美羽は今までの自分を支えてきた「同一性」を見つめなおし、諒人と「特別な兄妹(カップル)」となることを選んだ。
美羽の中で秘密にしてきたのは、あの心中の夜、父親と話したこと。
消えてしまいたい、そう話す父に「消えればいい」と冷たく放ってしまったことがあの事件を起こすきっかけになってしまったと感じていたため、両親に愛情を抱いていた諒人に負い目を感じていたのだ。
最初、主人公に恋愛感情MAXな子かと思ってましたごめんなさい
個人的には、序盤や他ヒロインルートの時の敵意むき出しな妹が好みだったので、話が進むと角がとれてちょっと悲しくなった。独占欲にも見えたあの態度が気になって買ったんだけどな…
祥子
グランドルートは、あのエデンを作ったきっかけとなるお話。
祥子と愛を知るため、様々な恋人らしいことを行っていく。
諒人は彼女の愛を受けながらも、どうしても過去のひまわり畑のできごとをきかねばならないと考えていた。
そして、徐々に真実を目の当たりにする。
錠前のあった部屋の手前のゴミ袋は「暴行事件の犯人」であった。
そしてまた、ひまわり畑で祥子は「自殺者」の頭を殴りつけ、あれを母の前へ持ち寄り「夫」としてそこに置いていたという。
夫は常に妻だけを愛し続けたという「物語」に浸る母親を喜ばせる良い方法と考えたのだ。
だがその方法により、「現実」の警察によりエデンが崩れ去る。
それぞれ決意を固め、エデンを後にする。
戻った現実で、祥子の母親はなくなっており、祥子はその亡骸と同居していたことが判明する。
祥子の物語は「母親と過ごし続ける世界」であったのだ。
そしてその後、警察から事情聴取を受け、しかるべき罰を受け入れた。
みさきは兄との決着を、文音は意識の回復を、美羽は兄との関係が変わることの受容を乗り越える。
それぞれ各ヒロインルートであった、恋人と紡いだシナリオを、グループではなく友人たちと協力して乗り越えたのだ。
そして、終わらせるべき物語は残り1つ、すなわち諒人の物語。
なぜ、感情を色で読み取ることができるのか?
なぜ、ひまわり畑の事件を誤認していたのか?
そこには、諒人の両親心中事件に関わるものであった。
諒人は両親の不仲を気づきながらも、改善しようとしなかったことを後悔していた。
最後に両親を見た時、「母は父を許した」と解釈することをした。
そうすることで心中の意味をあてがい、自分の中で納得しようとしていたのだ。
「色」で読み取っていたものは、ひまわり畑で見た鮮やかな赤がきっかけに現れた「幻」にすぎなかった。
自身の虚構(物語)に気づき、それを乗り越えることで、すべての物語は終りを迎える。
グランドルートでは、祥子とともに、主人公もまとめて救済するお話。
読み飛ばしてしまったかもしれないけど、エデンが生まれた経緯とか具体的に出ていない気がする。個人的にはそれを暴いて終了するかと思っていたので、少々残念。
また、主人公の過去に関しても、美羽ルートである程度吹っ切れたようにも見えたけど全然そんなことなかったのね…
結局色が見える能力も、グランドルート以外では1回ずつしか使われてないし、ヒロインと1体1で使われてるし、あんまり印象に残らなかったようにも思える。
総評
シナリオゲーと聞いて手にとって見たが、盛り上がりが全体的に欠けており、エデンという特殊な舞台が活用しきれていなかったようにも思える。
水増しのような日常シーンがなかったので、さくさく読み進めることができる点はよかった。
CGは高水準で、Hシーンも各キャラ3シーン以上用意されていた。
ただ、改行時セリフ停止がOFFだと、BGVとボイスが同時に聞こえてヒロインの声を2重に聞くことになる。
また、Hシーンは幕間として連続で挿入されているものが多い。
話が1段落ついたところで始まるため、物語的な要素が少なく、悪い意味でシナリオから切り離されているような感覚がある。
日常シーンのように読み飛ばすことはしなかったが、読後の満足感は得られず、不満点が多く出てしまった作品であった。