一部個別ルートが未実装で発売当時は大荒れしたそうですが、現状でも作品としては完成していますね。絶望に見舞われた青年が立ち直る物語としては(たとえ本来表現したかった何かと異なるとしても)十分体を成しています。しかし同一ルート内による複数ライターの起用や、度重なるルート増築が原因で何かと継接ぎの目立つ代物に。完成度は低めです。
半身ともいうべき存在を事故で喪い、絶望に暮れていた主人公が転校先の仲間たちに
支えられ復帰するお話です。色彩の淡いタッチが特徴のグラフィックですが、物語も
基本的には画と同様に柔らかく、終始穏やかに読み進めることができます。それだけに
派手さを望まれる方には退屈かも。
メインライター前々作にあたる『さくらむすび』は穏やかさの中に厳しさや嫌悪も
見え隠する物語でしたが、Gardenはほぼ終始柔らかです。実際は不穏な描写も散見
されるのですが、最後まで明確にされず終わります。瑠璃ルートで詳らかにされる
予定だったのでしょうけどね。凍結によってお蔵入りとなったみたいです。
なのであやふやな部分は気にせず、主人公の涼君が立ち直る過程(とロリおしっこ)を
素直に楽しむのがベターかなと。穏やかな空気と柔らかなタッチは、優しい雰囲気を
好まれる方にオススメです。登場人物たちの個性も大変丁寧に書かれていますし、
シナリオこそ鉄板なれど、独特の味わいを楽しめることと思います。
なおメインヒロイン・姫宮瑠璃の個別ルートが存在しない点ですが、最初からない
ものと認識すれば全く問題ありません。それでも各ルートちゃんと完結しますので。
先に述べた不穏な描写や世界観を覆しかねない文言も、語られないからと消化不良に
陥ることはなく、今から読み進めるに欠点とはなり得ません。
しかし一方で、体を気にせず完成させることだけに腐心したツケは作中へ見事に
フィードバックされています。有り体にいって完成度の低い作品です。
まず各種個別ルート。メインヒロインである絵里香ルートですら主人公の性格や
各キャラの呼称に揺らぎが見受けられ、文体からも複数ライターがパートごとに執筆
していることがわかります。テンションが大きく異なるため別人になったかのような
印象もあり、面喰うことも少なくありません。
それにサブライターと思しき方の表現・話運びが十把の萌えキャラエロゲのそれに
近く、一方でメインライターは独特な空気を放つものだから、切り替わった際の
違和感がもの凄いのですよね。別ゲーといっても差し支えないレベルで変わるときも。
逆にサブライターが単独で執筆したと思われる鈴村あざみルートなどは、クオリティこそ
他ルートに劣るものの完成度はかなり高め。共通から各キャラの性格が一変してしまう
ものの、以降は全くぶれないからむしろ安定しているのですよね。そんな不思議な現象が
発生してしまっています。
逆に全てメインライターが書いたであろう新絵里香ルート(絵里香は新旧2ルート
存在します)は上記問題をほぼクリアしているものの、各ルートからシーンを接続
したかのような作りが読み手に違和感を持たせます。
旧絵里香ルート、愛ルート、そしてオリジナル描写の3つをシーン毎に繋げて一本と
した結果、各パートの接続非常に強引なのです。かなり無理くりな繋げ方をしている
ように見受けられます。加えて従来2ルートをプレイ済みだと結果が読めてしまうため
新鮮さも薄めです。
元より瑠璃ルートを作成するための構成組み直しであり、完全新規のルートを狙って
作ったわけではないそうです。とはいえ読み手としては新展開を期待してしまうわけで、
瑠璃ルートが凍結された今となってはその欠点だけが浮き彫りとなっています。
だのに瞬間風速だけは作品随一だからタチが悪い。メインライターの書いた箇所は
いずれも読みごたえのあるシーンばかりなのですが、新絵里香ルートはそれが顕著です。
特に2回目エロとエピローグは秀逸で、ここだけを切り取れば名作といって差し支え
ない出来栄えでした。
しかし道中がちぐはぐだから、全体的な完成度は旧絵里香ルートの方が上。
痛し痒しな状況に大変やきもきさせられました。両ルートのいいとこ取りをした物語を
読んでみたかったですね。
そして何よりボイス無しが痛い。『Garden』自体に元から声がなければ欠点にはなり
得なかったですが、新絵里香だけ声がないものだからどうしても見劣りします。加えて
同ルートのボイスの貢献度が非常に高いのも一因です。先に挙げた2回目エロは抜きゲー
にも勝るエロさと物語を兼ね備えているのに、ボイスがないだけで1回目より見劣り
する残念な状況となっています。
更にキーキャラクターである絵里香と千夏が大変残念なことになっていて実に惜しい。
共に白波遥さん担当なのですが、イントネーションは全く同じながらも微妙に声色を
変えることで演じ分けていて、絵里香の個性を上手く印象付けているのですよね。
その重要性は旧絵里香ルートを読み通すことで実感できます。
だのに新ルートはボイス無し。問題はその演技が聞けないことではなく、あまりに
絶妙な演じ分けで、声を知っていても脳内再生できないことにあります。どうしても
千夏が絵里香と同じ声になってしまうのです。同声優さんの別名義含めた演技を多数
経験した読み手ですら、この僅かで確かな差は脳内再現が難しいのではないでしょうか。
2人の声は互いが異なる人間と意識づける重要なファクターですが、これが最初から
ボイスがなければ、読み手はテキストと立ち絵からのみ2人の声を想像します。そこに
不都合は何も発生しません。別人なんだな、じゃあ声も微妙に違うんだろうな、で
思うがままに想像するからです。
先にボイスを当てたルートを読ませ、別ルートでボイスがオフになったとしても、
声質がまったく異なったりあるいは別声優による演技であれば、こちらも問題は
ありません。完全に違う声と意識できるため、脳内再生も容易に実行可能だからです。
しかしあえて同一の演者に微細な演じ分けを依頼し、かつ後発ルートで声を外した
とあっては問題です。実際に聞いて違う声だと知っているのに、同じ声でしか想像
できないからです。全編ノーボイスよりもタチの悪い欠点が表面化してしまって
います。
脳内再生の可否は読み手のセンスにもよりますし、そこまで気にされない方も多いとは
思います。しかし私にとっては、新絵里香ルートにおいて最も気になった問題点の1つ
でした。
以上から「局地的な作り込みは見事な一方で、完成を急いたことで作品全体が歪と
なった、完成度の低い作品」というのが私の本作評です。物語が成立している以上完成は
していますが、完成度は非常に低いですね。一点突破の良作ではなく、長所は見事なのに
欠点が足を引っ張っているタイプで実にもったいない。
たとえ瑠璃ルートが追加されていたとしても、評価は変わらなかったでしょう。
よく「瑠璃個別がないからダメ!」という声を耳にしますが、それで道中の出来栄えを
フォローできるか?といわれたら、少なくとも私はできないと予想します。それと
これとは別問題なので。
ゆえにメインライターが凍結としたことにも合点がいきます。だって作ったところで
微妙ですから。「話の整合性が取れなくなった」とのことでしたが、その実「継ぎ目の
拙いシナリオに新しい文章を乗せても読み手は納得しない」とも判断したのでは。
(お詫びの短編作品が上がってこない点は同情の余地もありませんがw)
『Garden』があるべき評価をされるには、プロットはそのままにテキストを
全面改稿する他ないと考えます。つまりリメイクですね。その際に瑠璃ルートが
起こされていなくとも、名作となる可能性はあるかなと。既存のお話だけでも
十分楽しめますから。
近年は過去の名作をリメイク・HDリマスタする動きが活発です。二度払いを
強いられるリアルタイム経験者は業腹でしょうが、丁寧に綴られた『Garden』を
是非読んでみたいものです。
以下ネタバレでグラの差分表現について
◆1枚CG差分絵による動きの見せ方
立ち絵の枚数が非常に多い一方で表情パターンに乏しく、物語やキャラ内面より外見を
意識した構成。喜怒哀楽はテキストに任せきり、立ち絵は着せ替えショーに専念して
いたように思います。結果様々な髪形や服装を楽しめたわけで良質な表現とは思うの
ですが、文絵がお互い別の仕事をしているように見えて個人的には面白くなかったり。
しかし1枚グラはテキストや表情、動きまでも意識して巧みに用いられていたように
思います。例えばあざみルートの2人で廊下を歩くシーン。2人の距離感、寂しさ・喜び
といった感情、右から左への物理的な動作など、差分を用いてテキストの流れを的確に
表現しています。
他には小夜ルートの影踏み。最初は左上に絵里香・あざみが映っていて右に小夜。
左下の涼の下に到着すると左上の二人は退場し、右側の空白が2人だけの世界を
殊更に強調します。
またテキストは右から流れてるため、ノベルゲーというより絵と文を両方楽しめる
絵本のような形式に変じます。ここ一番のシーンで、文章を背景の一部として見立てる
かのような作りは見事でした。で、最後の左下へと歩いていく差分が「2人のスピードで」
というルートテーマを表現しているのですよね。実に見事でした。
そして瑠璃と蛍を眺めるシーン。こちらはもう見ての通りですね。現実的な世界観で
見せる幻想この上ないグラフィックは、柔らかな色彩もあって何ともファンシーです。
振られた瑠璃の表情が蛍の明滅に合わせて推移する、動的な表現も用意されています。
パッと見の柔らかなタッチに惹かれプレイした読み手も少なくないと思われますが、
本作グラフィックで最も見るべきは、差分を用いて表情と物理的な動作を並行して表現
している点です。テキストが届かない部分を絵と動きで見せることで想像を的確に補助
しています。物語の伝えたい情感が明確に理解できるのですよね。
ただただ絵が可愛い・綺麗ではなく、グラフィックの持つ特性を十二分に生かした作りは
何よりも評価されるべきものと考えます。