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amaginoboruさんのBad Nameの長文感想

ユーザー
amaginoboru
ゲーム
Bad Name
ブランド
Silveredsteel
得点
99
参照数
1292

一言コメント

気弱な少女が陵辱で快楽に目覚めたり禁断の愛に走る、いわゆるエロゲあるある設定。それを女性側視点を巧みに使った心情・感情・エロ表現で、至上の抜きゲーへと昇華しています。レイプや近親相姦に抵抗がない方、心理描写を重視する方、そして何より「背徳感」をお求めの方にオススメしたいエロゲです。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

いわゆる陵辱抜きゲーに相当する作品かと思われますが、視点が常に犯される側の少女、
つまり女性視点です。普通のエロゲプレイヤーからすれば「女の視点で抜けるかよ」と
回避する要因にしかならないでしょう。

しかしお待ちいただきたい。「陵辱が嫌い」「近親相姦なんて気持ち悪い」というので
あれば仕方ありませんが、抜きゲー目的であれば本作は是非オススメしたい逸品です。
というのも、女性視点を使った陵辱描写がこれでもかとばかりに徹底され、そしてエロいんです。


特にノーマルルートはエロ重視です。痴漢の主犯格・佐伯の手によりヒロインである唯は
徐々に快楽の沼へと引き込まれるわけですが、そのやり方が何ともえげつない。
相手が間違いなく嫌がるプレイを提案しして却下される。却下を許容し相手を安心させた
ところで強引にレイプ。快楽漬けにして「嫌なことじゃない」と思わせ、受容させる。

と書くとあるある展開なのですが、ここで女性視点が生きてきます。
見知らぬ男に襲われる嫌悪と恐怖。相手が引き下がってくれたときの安堵と希望。なのに
酷いことをされたことによる悲しみと絶望。嫌なはずの行為を悦んで受け入れてしまう
自分への戸惑い。
唯の感情がプレイヤーへダイレクトに伝わってくるため、犯られる側の心境に自然と
シンクロしてしまうのです。

性行為自体の表現も実に濃厚です。プレイこそアナルセックス止まりでキワモノは
ありませんが、行為のそれぞれが丁寧に描写されていて実にいやらしい。いずれも
じっくりねっとりと表現されています。

そんな心情と感情、そしてエロ表現の一つ一つが重みを持って、かつ矢継早に繰り
出されることで、読み手は感情を大きく揺さぶられることを余儀なくされます。
なのに調教自体は遅遅として、なかなか先に進みしません。読み手は適度に
ブレイクタイムを入れつつも、ひたすら感情のジェットコースターに乗せられ、性的に
興奮させられ続けます。

正直エロさも然ることながら読んでいて非常に精神を磨耗します。疲れます。
でも唯の心とエロの先が気になって止められない。
こういう疲れ方をしたのは久しぶりですね。エロはありませんがマヴラヴオルタ以来
かもしれません。



ですが単にエロが充実しているだけのシナリオではありません。
唯はされるがまま快楽の波へ溺れていきますが、それはあくまで手段。佐伯の目的は
「背徳感から得られる快感」を唯に肯定・受容させることにあります。

これは快楽自体を受け入れることと似て非なるものです。
受け入れても以後の生活で使わなければ、また佐伯側から強制しては意味がない。
たとえ世間・友人・家族から蔑まれ気持ち悪がられても、代価として得られる快楽を
自発的に求めさせる。それが彼の目的です。

その理由は明確にはなりませんが、彼の言動からしておそらく歪んだ愛情なのかなと。
ノーマルルート最後に「to be continued」と出るあたり、本当はリリース予定だった
3作目で語られるはずだったのでしょうが、今となっては真相は闇の中です。

閑話休題。いずれにせよ本ルートでは、唯は快楽に屈し佐伯の要求、つまり背徳感から
得られる快楽を自発的に受け入れ始めます。
自分はマゾっ気全開で人に見られて悦ぶ変態である。普通のエッチでは満足できる体
ではない。だからいけない行為から快感を得ても仕方ない。たとえ自分を育ててくれた
家族を裏切ることになっても。

唯が背徳を受け入れる物語。それがノーマルルートです。



一方トゥルールートはノーマルからの分岐で、手篭めにされる寸前で父に助けられる
シナリオ。陵辱描写はルート中1回のみと鳴りを潜め、代わりに父とのインモラルな
恋愛物語が繰り広げられます。

誰にも相談できなかった絶望的な状況から、電車内でバイブ責めにあう絶望的な状況から
助けてくれたお父さん。その存在はついに一種の恋にまで昇華し、一方で佐伯の言動に
より、「父と性行為する背徳感」に酔いしれている自分にも気づかされます。

このあたりの描写は、凄惨なノーマルルートを見た後だとほっこりした気分になれますね。
特に牛丼屋や夜祭りの1枚CGが印象的。それまでの唯の境遇を知っているだけに、殊更心に
響いてきます。
と安心させておいて過激な痴漢シーンを入れてくるあたり、容赦ないなぁとも(笑

しかし父にとっては、娘はあくまで家族として大事な存在。全ての行為は家族へ対する
愛情であり、悲惨な目にあった唯に対する応急処置でしかありません。当たり前ですが。
自分の想いと性癖を改めて自覚した唯は、それでも父に肉体関係を迫ります。が、撃沈。
しかし泣きの一回で、一晩だけ夜を共にしてくれることに。


そのやり取りにおいてはカードフルオープン状態の唯より、守るべきものを持つ父の
方が興味深いですね。
恋心が救った相手に対する一種の麻疹であること、また「父と性行為する背徳感」に
期待しているのがわかるから。そして何より守るべきものがあるからこそ、
「娘と性行為する背徳感」に惑わされたりはしない。だからこその否定です。

しかし部屋を出る娘の涙を見て、応急処置の一環として一晩のみ許容するわけですが、
理由の半分はおそらく唯への同情でしょう。
自分が何とかしようと頑張りすぎたり、相手へ常に優しさを持っているあたり、この親娘
本当に似たもの同士ですね。お父さんっ子であることが上手く書かれています。
だからこそ一晩だけなどという、何とも優しい対応を取ってしまうわけですが。

でも娘のためとはいえ、実子と性行為するハイリスクを配偶者に生涯内緒にして
まで犯してくれるお父さんは、インモラルかもしれませんが実にカッコいい。エッチも
唯のために真剣に応えてくれますしね。
背徳の持つ甘さに揺れない優しくも大人の対応。それが唯との決定的な違いです。


ノーマルルートでは背徳を受容する側だった唯が逆に、背徳を行為を勧める側となり、
拒絶されるのがトゥルールートです。
恋心や性的快楽を満たそうとインモラルを迫る唯と、それを大人の矜持を持って優しくも
拒絶する父。しかし心の治療兼子供のワガママとして、一度だけ許容します。
それは自分のためだけに受け入れた唯とは、似ているようで全く異なる対応です。

結局のところ本作は「背徳の味を拒否できない、多感な時期を生きる少女の物語」
なのだと思います。
味を知ってしまい、無意識に快楽を求めているからこそ、痴漢されても声を上げず、
周りに助けを求めません。また助けられても代償を求めてしまいます。

父とのセックスにしても、片や快楽を求める真夏の夜の夢、片や大事なものを守る
一家の長としての義務と責任。同じ背徳行為にしても、その意味合いの差は歴然です。
事実、最後のモノローグで唯はこのように語ります。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

If people knew this affair,they may say,"It's indecent."
They may blame this affection,and call it by the ――――

Bad Name.

And yet.
I was really glad to have been held in your arms.
Throughout life,I could not forget it.

I'm sorry,Dad. I still...

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

いけないとわかっていても欲しい。誰かを傷付けても手に入れたい。
むしろ誰かが傷つくことで、更なる欲求が手に入るかもしれない。
そんな危険で乳臭い発想が、唯からは見え隠れします。

だからこそ、本作エロシーンの大半は青臭く描かれています。
まるで何も知らない少女が、これから背徳の蜜味を知りだすかのように。
そしてトゥルールート最後のエロシーンなど一部は、多少熟れた成りの描写が見て
取れます。蜜の味を知った少女が、貪欲に蜜を求めるかのような。

背徳感。それが本作の主題であることは間違いありません。



以上
「美事なまでの心理・感情表現がエロ・テーマの両方を存分に引き立てた、最高峰の抜きゲー」
というのが本作への評です。凄まじいインパクトを持った作品でした。

ですがレイプ・近親相姦というジャンルは間違いなく人を選びますし、女性視点の展開は
独自の面白さがあるとはいえ、やはりプレイヤーを限定します。ゆえにお世辞にも万人向け
とはいえません。
上記を受け入れ、かつ「背徳」というテーマを存分に楽しめる人にこそオススメできる、
非常に間口の狭いエロゲです。点数は全てに合致したプレイヤーのものとお考えください。





蛇足1
背徳感がテーマだからこそ、中途半端で終わるノーマルルートには不満が残ります。
前述の通り3作目で語られる予定だったのでしょうが、佐伯の目的と堕ちきった唯を
見ることができないのは実に残念です。そこが唯一の欠点ですね。
発売からもうすぐ9年ですが、続編出ませんかね?出ませんか。そうですか。


蛇足2
Badnameとは本来「汚名、悪名」を意味します。
が、ボンジョヴィの名曲「You Give Love A Bad Name」の和訳に倣い「禁じられた愛」と
訳した方がしっくり来る気がします。どうでもいいですか。そうですか。


蛇足3
この手のエロゲは経験値が少なくて評価に結構悩んでいます。
比較対象をプレイしたいところですが、本作に匹敵・凌駕する作品って全く想像が
つきません。エルフのガテン系とか?教えていただけると是幸いです。
エロスケで探せですか、そうですね。