ErogameScape -エロゲー批評空間-

amaginoboruさんの鎖 -クサリ-の長文感想

ユーザー
amaginoboru
ゲーム
鎖 -クサリ-
ブランド
Leaf
得点
94
参照数
2132

一言コメント

洋上陵辱サスペンス...を舞台に様々な一面を魅せる作品です。単純な陵辱モノとして見れば生ぬるく、悪役のユーモラスな凶行以外には物足りなさを覚えるはず。各ルートの題目を汲み取った上で、改めて主要人物の言動を振り返ることでようやく奥深さに気づける仕組みです。ある意味2周目プレイを前提としたノベルゲーですね。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

正直なところ、初プレイ時は何かとストレスの溜まるエロゲです。複雑極まりない
選択肢とフラグ管理はエンディングを遠くへ追いやる。孤軍奮闘する主人公に対し
ヒロイン達は足を引っ張るだけ。それでいて悪びれることもなく、雰囲気を霧散
させる低俗なギャグをかまし。

エロゲ界きってのユーモア鬼畜・岸田の存在感で楽しめたとしてもトータルは微妙。
陵辱もエロとしては十分でも鬼畜いシーンは決して多くはありません。これらから
良作未満の評を下した方が大半かと思われます。事実エロスケでも中央値は
そこそこですし。

しかしルート次第ではテーマ性の濃い、一読の価値あるシナリオも少なくありません。
愚鈍で空気の読めない明乃、妹ヒロインとして有名なちはやなどは題目も一貫していて
なかなかに読み応えがあります(明乃はメタい部分もあり補助線要ですが)。

また本作は、全ての結末を読み終えた上で最初から物語をなぞり返すことで、初めて
妙が紐解ける仕組みです。ただの足引っ張りあいにしか見えなかったヒロイン達の言動が、
相応の理由あってのことと理解できる。それこそ友則や可憐のような浅慮ですら理由が
添えられていて、思惑の複雑さや丁寧さを見通せるようになるのです。

わけても巧妙なのが明乃。彼女だけはキャラクター事情に作り手の思惑が相乗り
されていて、ただの利己的でKYな言動にも意味があることに気付かされます。
それこそ恵は、明乃を立たせることが本来の役割だったのでは?と錯覚しそうな
ぐらいに。

敵と味方、男と女、家族と他人、兄妹と姉妹、キャラと作者。多くの思惑は後出し
され、たとえ1周目で全てを理解できたとしても、道中に散りばめられた個々の想い
にまで至れるようには作られていません。まずは陵辱と岸田の魅力を楽しみ、次に
登場人物達の思惑を知り、その上で道中の複雑な言動を堪能する。そこまでして
初めて面白さに気付けるのが『鎖』というノベルゲーです。


以上を鑑みた上で本作にはいくつかの欠点があると考えます。まずは特定ヒロインの
個別内容。恵・可憐・珠美の各ルートは主題も相まってやや食い足りなさを覚えました。
致命的なネタバレに繋がる部分なので詳細は後述します。主人公・恭介の感情にも
思うところがあるのですが、こちらも後ほどで。

次にヒロイン達の緊張感のなさ。時には思惑を隠す森役としてのコメディであり、
緊張感だらけの作品で一息つくための配慮でもあり、一概に欠点とは言いがたくは
あります。が、以上を鑑みてなお量が多く中身も低俗。作風を壊してしまっている
のは事実です。もう少し下ネタや量を減らすことで程よいバランスになったのでは。

とはいえ岸田のユーモラスな言動を鑑みると、それこそがライターさんの持ち味でも
あり。微妙なバランスで成り立っているのも事実です。思惑が張り巡らされた文章の
中に、肝をコントロールしつつ悪役を立たせ、かつ笑いまで調整しろというのは少々
書き手に求めすぎな気がする。この辺りは読み手個々の受け取り方次第でしょうか。

そして分岐の複雑さ。個別エンド到達まででも大変なのに、30を超えるバッドエンドを
網羅するとなると個人では大変に厄介です。選択肢にも意図が乗せられていることは
わかりますが、それでもフローを作るなりEDリスト&ヒントを作るなりの配慮は必要
だったかと考えます。



以下キャラ別所感。明乃ルートの本質などを含むネタバレありです。









◆岸田
主人公。彼の圧倒的な存在感なしには退屈で読みきれない方も多数でたのでは。
牽引役として十分な仕事をしていたように思います。って今更語るまでもありませんね。
珠美のサル顔呼ばわりにガチ切れしたり、火箸に「熱いじゃねえか!」と吐き捨てて
みたり、そんな妙な可愛げがあるのもまた好ましい。

同時に恵・ちはやルートに深く関わる人物でもあります。特にちはや。これだけ
圧倒的な悪人なのに、わずか数行で刺殺されたことに不満を覚えた方もいたのでは。
ですが「香月兄妹が岸田程度をものともしない化け物に成り下(上)がった」のを示すに
最適の演出でもありました。他ヒロイン達を仕留める様子がテキストのみなのも
同じ理由かと。動く邪魔者でしかない。だから立ち絵すらないのですよね。

同ルートで岸田が殺られたのは、そんなちはやに対する認識の甘さ、慢心が主因です。
手錠の件もさることながら最たるはクロスボウを撃たれたシーン。挑発しておきながら
「・・・本当に撃ちやがった」と驚く岸田が可愛い場面ですが、その実この時点で
見誤っています。

ちはやを「戦う覚悟のある相手」と認識しておけば彼は死なずに済んだ。狂気開眼が
直後であったことからも、クロスボウを撃った=人を傷つけたことが彼女の暴走を決定
付けた一因であるのは明確です。近親相姦を見た後に殺さなかった件も含め、認識の
甘さが彼の落ち度でした。

他方で恵ルートでは「お前ら二人は組ませると厄介になる」と両者を警戒しています。
その上で負けたわけで、ちはやルートにおける岸田の運命は彼女に撃たせた時点で
決まっていたと断じても過言ではないでしょう。



◆ちはや
個別ラストの凶行は内容より、合理的に近親相姦を成立させたことに
賞賛を送りたいですね。

事あるごとに人の正義を、自分と異なるものを排撃する世界を嫌う物語です。
全てを敵として見なし、完全なる2人の世界を作り上げることで成し遂げた香月兄妹は、
エロゲでも最も合理的な近親相姦を成し遂げた一組といえます。たとえ手段が狂気に
溢れたものだとしてもです。

加えて岸田を瞬殺したことで威圧感を備えさせたのは上述の通り。最凶最高の
悪役を仕立て上げ、踏み台とすることでヒロイン側を更なる存在へと仕立てる、
セオリーながら実に効果的な演出でした。合理性と圧倒的な存在感。この二つが
ちはやを妹ヒロインとして名を知らしめた主因でしょう。

道中を振り返ってみると、彼女の狂気は多すぎるようでその都度別の理由を被せて
いるのが巧妙です。例えば利己的に暴走するヒロイン達だったり、拳銃所持の暴露を
極限下の感情暴走に見せかけたり、時にはエロゲ妹のテンプレというメタな煙幕を
張ってみたり。

しかし事あるごとに岸田と比較していたのは少々誘導がすぎた感もあります。確かに
思惑の糸が多く読み取りづらい面はありますが、その点を鑑みてなお岸田の名前が
溢れていて手を引っ張りすぎかと。もう少し読み手を信頼しても良かったのではと、
明乃に信頼されず落胆する恭介のような心持ちとなりました。

また岸田と同じぐらいに友則とも類似しているように思います。というのも2人とも
行動原理は異性への渇望、つきつめれば性欲ですから。ちはやがたまたま見目麗しい
少女であっただけで。友則も彼は彼で下劣すぎて同情の余地はないのですが、
可愛いは正義を地で行くちはやの扱いには苦笑を隠せませんでした



◆恭介
ヒーローであり主人公ではないのが『ピアニッシモ』の綾音・奏介の関係性を彷彿と
させます。ちはやルートを除いて彼はヒーローという役割で、だからこそ物語の核心
(=鎖の意味)には彼の居場所がありません。むしろ「岸田が主人公寄りの群像劇」と
した方がしっくりくる。メインカメラこそ恭介ですけどね。

そんな彼が唯一エロゲ主人公となるちはやルートですが、戸籍を調べたエピソードには
後付け感が否めません。ちはやを異性として意識する一面や陵辱に激昂するシーンこそ
あったものの、家族なら(家族でも)そのぐらいは普通で片付けられるレベルです。
そんな重要な心持ちを突拍子もなく見せられては、読み手としては面を食らうばかりです。

一方でヒーローを約束された存在です。全ての友人≒ヒロインを分け隔てなく守る事を
強いられ、特定人物への想いは最終盤にて演ずるかのように描写されるのみ。
そんな彼へちひろにのみ特別な目を向けろというのは少々酷であり、他者の目を
考慮しても難しいかなと。

ゆえに戸籍の件を一概に唐突呼ばわりはできません。メインテキストは確かに恭介の
心中。しかし、だからこそ普段は心の奥に蓋をしている感情と取れなくもありません。
近親相姦の禁忌を殊更強調する本作であれば尚の事でしょう。読み手の匙加減一つな
微妙なラインですが、それもまた『鎖』の妙ではないでしょうか。

しかしこの恭介という青年、ギリギリまで役割を詰め込まれていますね。ヒーロー
しかり、兄しかり。その観点からも主人公にはそぐわない存在ですね。特にエロゲ
主人公というものには透明性が求められますからして。そんな彼だからこそ、明乃の
アンチ萌えキャラ属性を引き立てることができたのかもしれない、というのは流石に
穿ちすぎでしょうか。



◆友則
矮小な小悪党の役割を十二分にこなした名脇役。ウザいしムカつくしでいいキャラ
してました。ヒーローをしっかり立ててますし、退場のさせ方にも色々と使い道が
用意されていて実に便利そう。

月の扉ルート(恵・明乃・ちはや)では短絡的な言動でヒロインの思惑を隠す森の
役割も果たしていたのが印象的です。3ヒロインとも含むところがあり、それらを
(こちらのルートではやはり短絡的な)可憐と共に引っ掻き回して隠蔽していたのが
巧い。拳銃の件などは暴露・譲渡ともに、受け取り手の意図が上手いこと隠れていました。

彼の存在は本作における登場人物の動かし方を象徴するかのような存在です。
無駄なく動かし、使える限りを使いきり、退場させるそのときまでの用途を
しっかり用意しています。

月の扉ルートでは内通バレで話を転がし、夜の扉・恵ルートにおいても同様に内通者を
臭わせて退場。珠美ルートで(少々強引ながら)勝因となる拳銃を持ち込ませ、可憐
ルートでは読み手の溜飲を下げるため恭介に介錯させ。恭介の件といい、本当に素材を
余すことなく用いるライターさんです。



◆珠美
夜の扉ルートの面々は残念ながら月の扉に比べてシナリオ面で格落ちします。中でも
呷りを受けたのがこの珠美。可憐ルートのサイドストーリー的な存在で終盤の進行も
やや駆け足。見せ場が潤沢に用意された他ヒロインに対し少々残念な扱いです。他にも
陵辱されることで恵の内通を明示していたり、どちらかといえば友則的な扱いだった気も。

とはいえ同ルートでは唯一恭介が背中を預けられる相棒として奮闘します。自分のこと
しか考えないヒロインばかりの世界です。凶悪犯を前に、小さいながら創意工夫で奮闘
する珠美の存在は、それだけで恭介だけでなく読み手にも頼もしく映りました。そこが
彼女一番の見せ場だったのかもしれません。ちょっと寂しいですけどね。

ですが負傷した足を、岸田への奇襲時以降は気にもかけないあたりは少々手落ち。
マンガ風味のリアクションで怪我アピールしていましたが、以後設定を引き継げない
なら軽く触る程度で話を進めてよかったのかも、と。数少ない明確な落ち度でした。



◆可憐
夜の扉側のメインヒロインですが、残念ながらその内容は凡庸といわざるを得ません。
本当に普通の洋上サスペンスで他ルートのような捻りが見当たらないのが痛い。
加えてお嬢様キャラクターの悪い部分ばかりが前に出てしまい、ヒロインとしても
残念な感じ。お姫様を救うお話ですが、こんな自分勝手なお姫様はちょっと嫌w

役割は明乃ルートとの明確な差異かと。役立たずで空気を読まないエロゲヒロイン
なのは両者とも共通ですが、可憐には良家の生贄という鎖が存在します。「何かに
縛られたヒロインが脱却を図る」という本作コンセプトには完全一致する一人で、
ヒーローが鎖から開放する流れも完璧。『鎖』という作品のヒロインに値する存在
というわけです。

後述しますが明乃ルートは「自分の意志を持たず主人公に追随する萌えヒロインの
否定」が主題です。同じ無力な役立たずでも意志を持ち現状から脱却を図る可憐を
置くことで、相対的に明乃を引き立てているのでしょう。



◆恵
最も重い「殺人」の鎖を纏う咎人。岸田を絡ませ物語を掘り下げたことで、可憐ルート
より深みのあるシナリオとなっています。とはいえ一般的な良作の域を超える代物では
なく、本作の中では中程度のクオリティです。特にルートロックのある終わり方は
いずれも投げやり気味で、私的にはあまり好みではなかったり。

ただし引き立て役としては可憐以上に重要。というか恵絡みで最も趣深いのは間違い
なく明乃ルートの最後でしょう。

明乃「恭ちゃんのことだけど」
  「あたしのってことでいいよね・・・?」
  「ずっと黙ってるから・・・さ」

恵の鎖を鑑みればもう殺るしかない、この発言。容器を握り潰すSEが鬼気迫る恵を
的確に表現していました。

恵は明乃の「周囲に流される、自分の意志を持たない萌えヒロイン」という個性を最も
引き立てる存在です。ちはやに悪意をぶつけられ、恭介にも心中呆れられ、岸田にすら
最も安全で愚鈍な存在とされますが、やはり最たるは恵。真っ先に襲われ、逃げるわけ
にもいかず絶望と苦痛を味わい、それでも一人立ち向かう彼女にとって、明乃は
あらゆる面で相手にしたくない、見たくもない存在です。

それでも表面上は繕うのが彼女の優しさですが、まぁ相手がアレでは怒髪天を衝くのも
やむなし。救いがたい豚に翻弄される哀れな咎人でした。

実際のところは題材を考えるに、恵の鎖こそが主題であり明乃が引き立て役です。しかし
恵ルートを主題とするには結末の力不足感が否めず、一方で明乃ルートは徐々に
(読み手をも含む)あらゆる人物に不満を抱かせ、最後に爆発するものだから非常に
印象深い。理屈でなく感情的にはやはり、明乃が主で恵が副であるように思います。

ただし一人の登場人物として見るなら、恵はこの上なく丁寧に掘り下げられています。
無力な女子校生が絶望を味わい、一人で這い上がる様はひたすらに悲しく、惨たらしく、
そして弱く強い。ヒーローたる恭介の裏側であるため表立ったシーンはごく僅かですが、
背景を知った上で改めて読み直すことで魅力を認識できる娘ですね。本作ヒロインの中で
最も好ましく思います。



◆明乃
ホント最低ですねこの娘。実に下劣です。恵を好ましく思うのは殺意にシンクロできた
からかもしれない。ですが一個の登場人物としてみた場合、大好きなキャラの一人でも
あります。これだけ嫌悪沸きすぎてクソッタレ嫌な気分にされたヒロインなんてほとんど
いませんから。月の扉で溜飲下げられるのも大きい。

さんざ語り尽くされたことではありますが、明乃は萌えヒロインのメタファーです。
法や社会の保護が届かない世界において、未だ誰かに頼るだけの存在。恵が這い上がり、
珠美が未熟な身体で奮闘し、可憐が短絡的ながらも行動し、ちはやが無力ながらも兄に
付き従い、友則ですら性欲と生存のために行動を選ぶのに、明乃は何もしません。

唯一、自身が性欲の毒牙にかかりそうな場合のみ行動します。が、その際に忌避される
のは岸田でも友則でもなく、唯一味方でいてくれる恭介。それでいて事が片付くと
「恭ちゃんあたしのでいいよね?www殺人黙ってるからwww」とかほざくからもう
あーこのクソビッチマジ何とかしたい。

そこで用意されたのが夜の扉ルートです。みんな大好き岸田さんが明乃を文字通り料理
してくれる素敵な陵辱展開。ひょっとこ口にされ舌を入れられ、母子レズセックスを
強要し、U字バイブで攻め尽くしとやり放題。こちらの期待通りに溜飲を下げてくれます。
そして何より最高なのが吊るし上げシーン。


岸田「せっかくだから明日の朝食の準備をと思ってね」
  「食材は・・・」
  「豚だ」


イヤッホォォウ豚だぁー!モノローグも「豚には明乃という名前がつけられていた。」
とノリノリ。そんな悔しそうに涙目向けても誰も助けてくれないよ?w恭ちゃんを
信じないで恵の部屋行ったお前が悪いんだよ?wさあ岸田さん存分にやっちゃって
くださいw

と、大草原も辞さずに陵辱を堪能できるのが凄い。だって普通なら多少なりヒロインが
可哀想って思っちゃうじゃないですか。性格の下劣さが約束されたロープラ抜きゲーなら
まだしも、萌えグラで親しく想ってくれるリーフの幼馴染です。陵辱されれば助けられ
なかったことを悔いたり、凄惨さに目を背けたりもしたくなるものです。

でも明乃はそうならない。だって最低なのを実際に見て知っているから。更にちはや、
恭介、岸田、そして恵と、多くのキャラから「救いようのない最低な愚鈍」扱いされ、
作り手にすらアンチ萌えゲーヒロインとして扱われているから。だから心痛むことなく、
明乃の陵辱を「楽しむ」ことができるのです。



そうやって楽しんでしまった読み手に対し、言葉の刃が振り下ろされます。


ちはや「あの世界には、自分と違うものを攻撃したがる人たちばかり。無視すればいい
    ものを、わざわざ近づいては石を投げていく」
   「みんな他人のあら探しに必死で、一方的に殴れる時には道を引き返してでも
    そうする」
   「あの世界の正義は、誰かを傷つけるための正義。無抵抗な人間を飽くことなく
    いつまでも殴り続ける」
   「奪うことばかりの世界」
   「もうあそこには戻りたくない!」


自分の杓子と異なる行動をする明乃を嘲笑う読み手。一方的に殴れる時はルートを戻って
でも読み直す読み手。無抵抗な豚を飽くことなくいつまでも殴り続ける「岸田を見るだけで
自身は何もしない」読み手。「あの世界」の連中と何が異なるのでしょうか。

加えて作中人物が肯定するから殴ることを善しともしています。

裏切られた恭介がモニタ越しに「幼なじみとして裏切られたような気になってくる」と蔑むから。
何もしない明乃に「あなたの体はただの脂肪の固まりですか」と悪意を剥き出しにするから。
殺人を盾に愚か極まりないことをほざかれた恵が殺意を抱いたから。岸田が豚と蔑むから。
みんなが馬鹿にしているから。だから自分もやっていい。やっても罪にならない。

最序盤でスナッフビデオで興奮する友則と、あらゆる事情を知り、人の尻馬に乗った上で
高みから嘲笑う読み手。どちらがより下劣なのでしょうか。
明乃を豚と蔑み、モニタ越しに愉悦に浸るプレイヤー。それこそ本作の風刺する「人間」です。



このようなことを物語でいい出したらキリがないのですが、主題が主題なだけに説得力を
持ちます。あらゆる人物から怒りを買い、下に見られ、事実人間として最低な行為にも及ぶ
萌えキャラのメタファー。だからといって我々に彼女を殴る資格があるのか。陵辱ゲー
だからと割り切るのが正しい読み方ですが、そこへ思いを馳せるのもまた本作の妙でしょう。

一方で陵辱ゲーのヒロインとして最も仕事を成したキャラでもあります。グッドエンドの
用意されたヒロインの中で唯一純愛和姦のない明乃ですが、振り返れば本作は陵辱ゲー。
純愛がなくても読み手を楽しませるユニークなエロ、つまり読み手が心を痛めず溜飲を
下げられる陵辱を持った彼女は、メインヒロインの条件には十分合致します。

一方で他ヒロインたちの陵辱は(可憐はやや微妙ですが)目を背けたくなる、助けたく
なるもう一方の強姦エロとしての仕事を成しています。一つの作品の中に2方向性の
陵辱を、物語を損なうことなく混ぜ込むその手法もまた見事。それも明乃というヒロインが
いてこそのものです。

そして主題。表見は明乃がメインヒロインのように見えて、物語を追っていくと真の
メインは恵。しかし恵の物語はそこで足を止め、一方で明乃は夜の扉の陵辱シーンで、
読み手の実体験をもってして「人間」を風刺します。萌えキャラの否定というメタな
要素までをも含んだこのルート、果たしてメインと呼べない代物でしょうか?


以上から私は「本作のメインは恵ルートである。しかしメインヒロインは明乃である」
と評します。恵を引きたて、陵辱ゲーとして唯一別の妙を立て、存在をもってして
読み手を風刺する明乃は立派なメインヒロインです。少なくとも恵とのダブルメイン。
可憐よりはよほど見事な役どころを演じています。

だから私は明乃というキャラが大好きです。ここまで憎たらしく思って、陵辱で溜飲を
下げて、それを逆手に斬りつけてくるヒロインなんて滅多にいませんから。ムカつく
行動が徹底されていた点も含めて、見事なキャラクターでした。